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魂と鋼の魔女  作者: カミサマ
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第64話 海の悪魔

第64話 海の悪魔


 夜の海が揺れていた。


 月明かりの下。


 クロエが召喚した死霊艦隊は、沖合へ展開していた。


 戦艦十隻。


 空母二隻。


 潜水艦五隻。


 その甲板には千体ものレイス海兵隊が整然と並んでいる。


 対するは海の怪物クラーケン。


 海面から突き出した無数の触手が、まるで森のように夜空を覆っていた。


「全艦、砲撃開始」


 クロエの号令が響く。


 次の瞬間。


 轟音が夜空を震わせた。


 ドォォォォォォォォン!!


挿絵(By みてみん)


 十隻の戦艦が一斉射撃を行う。


 巨大な砲弾が弧を描き、クラーケンの触手へと降り注いだ。


 海面が爆発する。


 触手が吹き飛ぶ。


 黒い血が夜の海へ飛び散った。


「やったにゃ!?」


 ユナが歓声を上げる。


 しかし。


 クロエは表情を変えなかった。


「まだよ」


 千切れた触手が蠢く。


 そして。


 再生した。


「は?」


 ユナが固まる。


 失われたはずの触手が何事もなかったかのように復活している。


 一本だけではない。


 全てだ。


 切断された触手が次々と再生していく。


「面倒な能力ね……」


 クロエは眉をひそめた。


 だが攻撃は止まらない。


 空母から戦闘機が飛び立つ。


 戦闘ヘリも続く。


 レイス達が操縦する航空部隊が夜空へ舞い上がった。


 機関砲。


 ミサイル。


 爆弾。


 無数の火線が夜空を駆ける。


 触手が次々と爆散した。


 だが。


 クラーケンも反撃を始めた。


 海面が爆ぜる。


 巨大な触手が空高く伸びた。


 まるで塔だった。


 戦闘機が回避する。


 しかし一本が捕まった。


 巨大な吸盤に絡め取られた機体が悲鳴のような音を上げる。


 そして。


 グシャリ。


 握り潰された。


 炎を上げながら海へ落ちていく。


「ちっ……」


 クロエが舌打ちする。


 さらに別の触手が戦艦へ襲い掛かった。


 全長数百メートルの巨体を持ち上げる。


挿絵(By みてみん)


 あり得ない光景だった。


 そして。


 叩き付けた。


 轟音。


 鋼鉄の船体が砕け散る。


 戦艦一隻が真っ二つになって沈んでいった。


「なんて馬鹿力にゃ!?」


 ユナが叫ぶ。


 しかし戦いは終わらない。


 潜水艦部隊が海中へ潜航する。


 魚雷発射。


 白い航跡が海中を走った。


 次々と命中する。


 海底から爆発音が響く。


 だが。


 クラーケンは倒れない。


「本体を叩かない限り無理そうね」


 クロエは静かに分析した。


 触手はいくらでも再生する。


 本体を見つける必要があった。


 その時だった。


 海が静かになった。


「……?」


 クロエが眉をひそめる。


 クラーケンの動きが止まった。


 触手が震えている。


 まるで何かを恐れているようだった。


 次の瞬間。


 海面に巨大な渦が発生した。


 ゴォォォォォォォ!!


 海そのものが回転する。


 艦隊が激しく揺れた。


「な、何が起きてるにゃ!?」


 ユナが転びそうになる。


 クロエも思わず海を見つめた。


 そして。


 海が割れた。


 巨大な影が浮上する。


 あまりにも巨大だった。


 山脈が動いているようにしか見えない。


 全長十キロを超える黒い巨体。


 黄金色の瞳。


 海そのものを支配する圧倒的な存在感。


 リヴァイアサン。


 伝説に語られる海の悪魔。


 その巨体が海から姿を現した。


「嘘でしょ……」


挿絵(By みてみん)


 クロエが初めて絶句した。


 クラーケンですら小さく見える。


 次の瞬間。


 リヴァイアサンが口を開いた。


 そして。


 クラーケンの胴体へ噛み付く。


 轟音。


 海が揺れる。


 空高く跳ね上がったリヴァイアサンは、そのままクラーケンを噛み砕いた。


挿絵(By みてみん)


 黒い血が降り注ぐ。


 まるで豪雨だった。


 海面が黒く染まっていく。


 先程まで猛威を振るっていた海の怪物は、抵抗すら出来ず捕食されていた。


「な、何よあれ……」


 クロエの声が震える。


 魂が見える彼女だからこそ分かった。


 桁が違う。


 次元が違う。


 世界そのものを押し潰せそうな膨大な魔力。


 底知れない邪悪な魂。


 そして。


 その時。


 クロエはもう一つの気配に気付いた。


 空だった。


 夜空の上。


 そこに一人の女が浮かんでいた。


 六枚の黒い翼。


 長い銀髪に褐色の肌。


 妖艶な美貌。


 だが。


 その魂は恐ろしく邪悪だった。


「全く……」


 女は呆れたようにため息を吐く。


「食い意地が張っているのは良いけれど、もう少し上品に食べられないのかしら」


挿絵(By みてみん)


 リヴァイアサンが不満そうに海を揺らした。


 女は笑う。


 そして。


 視線をクロエへ向けた。


「あら」


 妖しく微笑む。


「気付かれちゃった?」


 その瞬間。


 クロエの背筋を冷たいものが走った。


 動けない。


 足が震える。


 全身から脂汗が流れる。


(やばい)


 それしか言葉が出てこない。


 今まで出会った誰とも違う。


 王家も。


 教会も。


 アースドラゴンですら。


 目の前の存在と比べれば霞んで見えた。


 女は興味深そうにクロエを眺めていた。


 そして。


 ゆっくりと海上へ降り立つ。


「面白い魂ね」


 金色の瞳と紫の瞳が交差する。


 女は笑った。


「最近噂の魔王候補って貴方かしら?」


 クロエは答えられない。


 恐怖ではない。


 圧倒的な格の差だった。


「まだ未熟だけれど……」


 女は楽しそうに言う。


「将来が楽しみだわ」


 そして。


 クロエの額へ指先を軽く当てた。


「もっと強くなりなさい」


挿絵(By みてみん)


「……」


「その時にまた会いましょう」


 女は微笑む。


「私の名前はアスモデウス」


 その名を聞いた瞬間。


 クロエの瞳が見開かれた。


 魔界の大公。


 最上位悪魔。


 色欲を司る伝説級の存在。


 アスモデウスは満足そうに頷いた。


「それじゃあね」


 パチンと指を鳴らす。


 空間に亀裂が走る。


 リヴァイアサンが海を揺らした。


 そして。


 一人と一匹は闇の向こうへ消えていく。


 静寂だけが残った。


 誰も言葉を発せない。


 クロエは夜空を見上げる。


 冷や汗が止まらなかった。


「……強くならないと」


 小さく呟く。


 アースドラゴンを倒した。


 クラーケンすら追い詰めた。


 だが。


 世界にはまだ、あれほどの怪物が存在している。


 クロエは拳を握った。


 新たな目標が生まれていた。


 いつか。


 あの存在に届くために。


――続く。

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