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魂と鋼の魔女  作者: カミサマ
49/76

第49話 王の判断

【R18】魂と鋼の魔女の異世界転生

https://novel18.syosetu.com/n8137mg/


続きはこちらで連載しますので、よろしくお願いします。

第49話 王の判断


 王城――謁見の間。


 重苦しい空気が満ちていた。


 赤い絨毯。


 巨大な白柱。


 玉座へ座る国王を前に。


 第一王子とハートフィリア公爵が、険しい表情で並んでいる。


「父上」


 第一王子が、低い声で口を開いた。


「クロエの解放を要求します」


挿絵(By みてみん)


 空気が張り詰める。


 玉座へ腰掛けた国王は、静かに目を細めた。


「……まだその話か」


「当然です」


 第一王子の声は強い。


「第二王子は、クロエを奴隷として拘束している」


「しかも私的な監禁です」


「王族として許される行為ではありません」


 その隣で。


 ハートフィリア公爵も、拳を握り締めていた。


「クロエは我が娘です」


「返して頂きたい」


 だが。


 国王は、深くため息を吐いただけだった。


「返して、どうする」


 冷たい声。


 第一王子の表情が強張る。


 国王は続けた。


「既に聞いている」


「クロエ・ハートフィリアは、両手両足を失った」


「精神も不安定」


「しかも、王族へ攻撃した罪まである」


 重い沈黙。


 その時だった。


「ぷっ……」


 吹き出す声。


 第二王子だった。


 銀髪を揺らしながら、退屈そうに椅子へ腰掛けている。


「兄さん、本気で言ってるの?」


 紫色の瞳が、愉快そうに細まる。


「もう壊れてるよ? あの子」


「黙れ」


 第一王子が睨み付ける。


 だが。


 第二王子は肩を竦めた。


「いや、事実じゃん」


「もう公爵令嬢としての価値なんて無いでしょ?」


「っ……!!」


 ハートフィリア公爵の表情が歪む。


 だが。


 国王は、第二王子を否定しなかった。


「……ハートフィリア家には、後妻の子供が二人いる」


 静かな声。


「跡継ぎ問題は無い」


「ならば」


 淡々と続ける。


「第一王子の婚約者を、妹へ変更すれば済む話だ」


 第一王子の瞳が見開かれた。


「父上ッ!!」


 玉座の間へ怒声が響く。


「クロエは物ではありません!!」


 だが。


 国王は冷たい目で見下ろした。


「王族とは、国の為に存在する」


「感情論で政治を語るな」


 空気が凍る。


 ハートフィリア公爵の拳が、小さく震えていた。


 その時。


 第二王子が、楽しそうに笑った。


「安心してよ兄さん」


 紫色の瞳が、妖しく細まる。


「ちゃんと可愛がってあげてるから」


挿絵(By みてみん)


 その瞬間。


 第一王子の表情から、完全に温度が消えた。


「……貴様」


 殺気。


 空気が軋む。


 だが。


 第二王子は、まるで気にしていない。


「そんな怖い顔しないでよ」


「兄さんだって、結局は見捨てたじゃん」


「っ……!!」


 第一王子の表情が凍る。


 そして。


 第二王子は、クスクスと笑った。


「もうさ」


「壊れた玩具くらい、僕に頂戴よ」



 同時刻。


 第二王子の私邸。


 朝日が、薄暗い寝室へ差し込んでいた。


 黒いシーツは乱れ。


 長い黒髪が、枕へ広がっている。


 クロエは、ベッドへ沈み込むように眠っていた。


 まるで。


 死んだように。


「……ぅ」


挿絵(By みてみん)


 掠れた吐息。


 ゆっくり瞼が開く。


 黄金色の瞳には、濃い隈が浮かんでいた。


『おはよう、クロエ♪』


 頭の中へ、楽しそうな声が響く。


 千手怨霊ミサ。


 右手へ浮かぶ紫色の呪紋が、淡く発光していた。


「……寝不足よ」


 クロエは、腰を押さえながらベッドへ起き上がる。


 鈍い疲労感。


 全身が重い。


 特に腰の奥に残る違和感が酷かった。


『あらぁ?』


『昨日は凄く可愛い声してたのに♪』


「うるさいっ!!」


挿絵(By みてみん)


 クロエの顔が、一気に真っ赤になる。


 そのまま。


 義手でベッドを叩いた。


 ドンッ――!!


「勝手に動くんじゃないわよ変態怨霊!!」


『クスクス♪』


 ミサは、心底楽しそうに笑っている。


 クロエは、頭を抱えた。


 昨夜。


 ミサは、完全にクロエを玩具にしていた。


 風呂場。


 ベッド。


 トイレ。


 義手を勝手に操り、休ませる気など一切無いまま、延々と翻弄し続けたのだ。


「……最悪」


 クロエが、ふらつきながら立ち上がる。


 そのままトイレへ向かった。



 ガチャ。


 扉が閉まる。


 クロエは、小さく息を吐いた。


「……はぁ」


 眠い。


 身体が重い。


 だが。


 次の瞬間。


 ガコンッ――!!


「ひゃぁっ!?」


挿絵(By みてみん)


 突然、洗浄魔導具が最大出力で起動した。


 クロエの身体がビクリと跳ねる。


「っ~~!!?」


挿絵(By みてみん)


『あははははっ!!』


 ミサが爆笑する。


「ミサァァァァッ!!?」


 クロエの顔が真っ赤になる。


『そんなに敏感だったのねぇ?』


「うるさいっ!!」


 クロエは必死に止めようとする。


 だが。


 義手が勝手に動き、邪魔をしてくる。


「このっ……!!」


挿絵(By みてみん)


『クスクス♪』


 完全に遊ばれていた。



 数分後。


 ようやくトイレから出てきたクロエは、顔を赤くしたまま廊下を歩いていた。


 黒いパーカー。


 ホットパンツ。


 だが、その表情には明らかな疲労が滲んでいる。


「クロエ?」


 不安そうな声。


 ユナだった。


 灰色の髪。


 獣耳。


 尻尾。


 まだ包帯は残っているが、ウェアウルフの血のおかげで傷痕は殆ど消えていた。


 ユナは、クロエの顔を見るなり眉を寄せる。


「……大丈夫かニャ?」


「顔、赤いニャ……」


「っ……」


 クロエの肩が僅かに震える。


 ユナは、少し言いづらそうに視線を逸らした。


「その……」


「ストレスで、眠れない時とか……そういう事、あるのは分かるニャ」


 クロエの思考が、一瞬止まった。


「……は?」


 ユナは、心配そうな瞳のまま続ける。


「昨日の夜も、苦しそうだったし……」


「何か、私に手伝える事あるかニャ?」


「っ――!!」


挿絵(By みてみん)


 クロエの顔が、一気に赤く染まる。


 脂汗が滲んだ。


 視線が泳ぐ。


『クスクス……♪』


 頭の奥で、ミサが楽しそうに笑った。


「ち、違うわよ!!」


 クロエは、慌てて否定する。


「何でもないの!」


「別に……そんなのじゃないから!」


 声が僅かに裏返る。


 ユナは、ますます心配そうな顔になる。


「でも、かなり辛そうニャ……」


「っ……」


 クロエは、言葉に詰まった。


 言えるわけがない。


 義手へ宿った怨霊に、夜中も風呂もトイレも好き勝手弄ばれているなど。


 そんな事。


 絶対に知られたくなかった。


『あらぁ?』


『ちゃんと説明しないの?』


 ミサが愉快そうに囁く。


 クロエの頬が、更に熱くなる。


「……本当に何でもないの」


挿絵(By みてみん)


 クロエは、無理矢理笑みを作った。


 だが。


 その笑顔は、どこか引き攣っていた。


 ユナは、しばらく黙ってクロエを見つめていたが。


 やがて、小さく頷く。


「……無理するなニャ」


「私、クロエの味方だから」


「っ……」


 その言葉に。


 クロエの黄金色の瞳が、ほんの少しだけ揺れた。


 胸の奥が、少し痛む。


 優しさが。


 今の自分には、妙に眩しかった。

【R18】魂と鋼の魔女の異世界転生

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