表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂と鋼の魔女  作者: カミサマ
31/45

第31話 機械の手足

第31話 機械の手足


 紫色の糸が、空間を埋め尽くしていた。


 地下工房。


 崩れたガラスケース。


 悲鳴。


 雷鳴。


 そして。


 狂った芸術家の笑み。


「返してください」


 ジェラの声が、静かに響く。


「その子は、私の作品です」


「黙れニャァァァ!!」


 ユナの全身から雷が弾けた。


 青白い稲妻。


 空気が爆ぜる。


 だが。


 無数の糸が、蛇のように襲い掛かってくる。


 腕。


 脚。


 首。


 絡み付けば終わりだった。


 ジェラは、本気でユナすら“人形”にするつもりだ。


「……ッ!」


 ユナは飛び退く。


 しかし。


 一本の糸が肩へ絡み付いた。


 ゾワリ、と悪寒が走る。


 その瞬間。


 身体が、僅かに止まった。


「……え?」


 指先が勝手に動く。


 腕が持ち上がる。


 まるで。


 身体へ別人の意思が侵入してくるような感覚。


 ユナの瞳が見開かれた。


「ニャ……ッ!?」


 ジェラが微笑む。


「あなたも、美しい人形になれそうですね」


 さらに糸が伸びる。


 ユナの四肢へ絡み付こうとした。


 だが。


 次の瞬間。


 ユナは牙を剥いた。


「――舐めるニャァァァッ!!」


挿絵(By みてみん)


 雷鳴。


 全身へ纏っていた雷が、一気に炸裂した。


 バチィィィィッ!!


 青白い電撃が、糸を逆流する。


 ジェラの瞳が僅かに見開かれた。


「――っ」


 紫色の糸が焼ける。


 魔力回路が弾け飛ぶ。


 雷は糸を伝い、そのままジェラへ直撃した。


 轟音。


 ジェラの身体が吹き飛ぶ。


「ガッ……!」


 壁へ叩き付けられる。


 同時に。


 クロエへ繋がっていた糸も、一斉に焼き切れた。


「ぁ……ッ!」


 クロエの身体が崩れ落ちる。


「クロエ!」


 ユナは即座に飛び込んだ。


 床へ落ちる寸前で抱き止める。


 軽い。


 壊れた人形みたいに。


 何も支えられない身体だった。


「逃げるニャ!」


 ユナはクロエを抱えたまま走り出した。


 地下水路。


 崩れる工房。


 怒号。


 背後で糸が暴れ狂う音が響いている。


「待ちなさい……!」


挿絵(By みてみん)


 ジェラの声。


 だが。


 ユナは止まらない。


 ウェアウルフの脚力が石畳を砕く。


 嗅覚で出口を探る。


 湿った風。


 外気。


 迷路みたいな地下水路を、凄まじい速度で駆け抜けた。



 クロエは、ユナの腕の中で震えていた。


 悔しそうに。


 唇を噛み締めながら。


「……置いていきなさい」


 掠れた声。


「こんな足手纏い……」


 黄金色の瞳が揺れる。


「あなたまで捕まったら……」


「黙るニャ」


 ユナが低く言った。


「……ッ」


「舌を噛みたくなかったら、大人しくしてるニャ」


 ユナは走る。


 必死に。


 絶対に落とさないように。


「絶対に助け出すニャ」


 その声だけは、真っ直ぐだった。


 クロエは、呆然とユナを見つめた。



 数十分後。


 廃墟街。


 誰も住んでいない空き家。


 ユナは、ようやくクロエを床へ寝かせた。


「はぁ……はぁ……」


 肩で息をする。


 全身が傷だらけだった。


 だが。


 ユナの瞳は、クロエの身体へ釘付けになっていた。


 腕。


 脚。


 球体関節。


 糸の痕。


 壊れた義肢。


「……あの野郎」


 ユナの拳へ雷が走る。


「絶対に殺してやるニャ……」


挿絵(By みてみん)


 クロエは、静かに呟いた。


「……首輪を」


「ニャ?」


「私の……首輪を外して」


 ユナが首元を見る。


 黒い首輪。


 紫色の術式が刻まれていた。


 隷属の首輪。


 高位の魔導具。


 魔力封じ。


 精神支配。


 そして。


 主人へ逆らえなくなる呪具。


 ユナの瞳が険しくなる。


「……こんなモノ」


 バチッ。


 雷を纏わせる。


 そして。


 力任せに首輪を引き千切った。



 瞬間。


 空気が変わった。


「――――ッ!!」


 クロエの全身から、ドス黒い魔力が噴き上がる。


 床が震える。


 窓ガラスが割れる。


 闇。


 怒り。


 絶望。


 そして。


 死。


 凄まじい魔力だった。


 ユナの銀髪が、暴風で揺れる。


「クロエ……!?」


 クロエは俯いていた。


 肩が震えている。


 黄金色の瞳へ、紫黒い光が宿る。


「……許さない」


 低い声。


 空気が軋む。


「絶対に」


「絶対に許さない……!!」


 魔力が爆発した。



 空間が裂ける。


 黒い棺。


 巨大な魔法陣。


 死臭。


 そして。


 無数の腕。


「第十五番の櫃――開放」


挿絵(By みてみん)


 ズルリ、と。


 死肉を纏う怪物達が現れる。


 グール工作兵団。


 腐敗した肉体。


 だが。


 その瞳には知性が宿っていた。


 筋肉は異様に発達し、常人離れした怪力を感じさせる。


 さらに。


 傷が蠢き、再生している。


 ユナが息を呑んだ。


「……これが」


「クロエの本当の力ニャ……?」


 クロエは答えない。


 黄金色の瞳は、怒りで燃えていた。


「第零番の櫃――開放」


 再び空間が裂ける。


 現れたのは。


 白銀の義手。


 義足。


 黒紫の魔力回路が刻まれた機械義肢だった。


 グール工作兵団が動く。


 義手を持ち上げる。


 義足を運ぶ。


 そして。


 クロエの身体へ接続した。


 ギギギギ……ッ。


 金属が噛み合う。


 紫黒い魔力が流れ込む。


 魂。


 魂そのものを神経代わりにして、義肢が繋がっていく。


「……ッ」


挿絵(By みてみん)


 クロエの身体が震える。


 そして。


 ゆっくりと。


 自分の意思で立ち上がった。


 ユナの瞳が大きく見開かれる。


「クロエ……」


 人工皮膚。


 精巧なコーティング。


 一見しただけでは、義手義足だと分からない。


 だが。


 その瞳だけは、もう以前のクロエではなかった。


 怒りと憎悪で燃えていた。



 クロエは、ゆっくりとユナへ近付く。


 そして。


 抱き付いた。


「……助けてくれて、ありがとう」


 声が震える。


「私の命も……魂も……心も……」


 クロエは顔を上げた。


 涙を流しながら。


「全部、ユナのモノよ」


挿絵(By みてみん)


 そして。


 静かにキスをした。


 ユナの瞳が見開かれる。


 クロエは微笑む。


 だが。


 その笑みは、もう以前の少女のものではなかった。


 復讐者の笑みだった。



「第百二番の櫃――開放」


 巨大な骸骨騎士が現れる。


 髑髏の騎士アーサー。


 漆黒の鎧。


 巨大な魔剣。


 圧倒的な死の気配。


「第十二番の櫃――開放」


 グール歩兵隊。


 百体。


「第十四番の櫃――開放」


 グール重装兵団。


 百体。


 さらに。


 ジャック。


 グール狙撃兵団。


 死の軍勢が、空き家を埋め尽くしていく。


 ユナが呆然と呟く。


「……軍隊ニャ」


 クロエは静かに振り返った。


 黄金色の瞳が、闇の中で妖しく輝く。


 そして。


 冷たく命令した。


「鏖殺よ」


挿絵(By みてみん)


 死霊達が、一斉に跪く。


「この街にいるマフィアを」


 クロエの笑みが、ゆっくりと深くなる。


「――全て殺しなさい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ