第14話 処刑人のジャック
第14話 処刑人のジャック
奴隷船内部。
揺れるランタンの灯り。
血。
硝煙。
そして、悲鳴。
その全てを切り裂くように、暴風が吹き荒れていた。
⸻
オカマの傭兵は、風を纏っていた。
否。
風そのものだった。
床を蹴った瞬間、姿が消える。
次の瞬間には、別の場所にいる。
疾風。
いや、暴風。
凄まじい速度で船内を駆け回りながら、曲刀が死兵達を切り裂いていく。
――ザンッ!!
スケルトン突撃部隊の首が宙を舞った。
続けて。
横薙ぎの一閃。
骨が砕ける。
胴体が両断される。
青白い鬼火が闇へ散った。
だが。
突撃部隊は止まらない。
「撃て」
クロエの命令。
次の瞬間。
アサルトライフルが一斉に火を吹いた。
轟音。
閃光。
銃弾の嵐。
だが。
オカマは笑っていた。
「あはっ♪」
最小限の動き。
身体を僅かに傾けるだけで弾丸を回避していく。
避け切れない弾丸は、風を纏った曲刀が弾き飛ばした。
キィンッ!!
火花。
跳弾。
まるで銃弾の軌道が見えているかのようだった。
(空気の流れを読んでる……!)
クロエは瞬時に理解する。
風属性の闘気。
空気振動。
殺気。
弾道。
全てを感知している。
だから、当たらない。
その瞬間。
オカマが曲刀を振るった。
斬撃と共に、真空の刃が放たれる。
風刃。
透明な死。
クロエへ一直線に迫る。
「っ――!」
クロエは即座に金属操作を発動した。
周囲の鉄材が飛来する。
鉄板が何枚も重なり、盾となった。
次の瞬間。
――ズガァァンッ!!
鉄板が深々と裂ける。
風刃が金属を切断した。
だが。
それだけでは終わらない。
オカマは既に踏み込んでいた。
一瞬。
本当に一瞬だった。
視界がブレる。
気付けば、目の前に居る。
「貰ったわぁ♪」
曲刀が、クロエの首を狙って振り抜かれる。
死。
その瞬間。
クロエの身体が闇へ沈んだ。
空間が歪む。
位置交換。
入れ替わるように現れたのは、スケルトン暗殺部隊。
だが。
オカマの斬撃は止まらない。
――ザシュッ!!
一瞬。
本当に一瞬で。
暗殺部隊の身体が細切れになった。
骨片が宙を舞う。
青白い鬼火が散った。
そして。
少し離れた場所へ現れたクロエの首筋から、赤い血が一筋流れ落ちる。
「あら」
オカマは舌なめずりした。
「今のを避けるなんて……やるじゃない」
楽しそうだった。
まるで、ようやく遊び相手を見つけた子供のように。
クロエは静かに首筋へ触れる。
指先に血が付いた。
(あと少し遅れていたら……死んでたわね)
だが。
黄金色の瞳に、怪しい光が宿る。
口元が、僅かに吊り上がった。
「……ちょっとまだ早いけど」
「少しだけ、無理しちゃおうかしら?」
⸻
空気が変わった。
闇が揺らぐ。
今までの棺とは違う。
より深く。
より濃く。
より禍々しい闇。
空間が軋む。
そして。
漆黒の棺が現れた。
その表面には、赤黒い文字が刻まれている。
『No.101』
オカマの笑みが、僅かに薄れた。
「……へぇ?」
棺が開く。
中から現れたのは、一体の男だった。
長身。
黒い外套。
青白く腐敗した肌。
だが、その身体は異様なほど鍛え上げられている。
手には巨大な首切り刀。
男は静かに立っていた。
ただ、それだけ。
だが。
存在感が異常だった。
「処刑人のジャック」
クロエが静かに呟く。
十五世紀。
王都で処刑人を務めていた男。
だが、やがて自ら犯罪者を狩り始めた。
闇に紛れ。
首を刎ね。
死体を晒し続けた。
そして最後には、“殺し過ぎた”ことで国家に処刑された狂人。
だが。
死後も尚、その執念は消えなかった。
ジャックは無言で首切り刀を構える。
オカマが笑った。
「あらぁ♪」
「アンタ、良いモノ持ってるじゃない」
次の瞬間。
二つの影が激突した。
⸻
轟音。
暴風。
船内が揺れる。
ジャックの首切り刀と曲刀がぶつかり合う。
凄まじい衝撃波。
だが。
押されている。
ジャックは確かに強い。
だが。
相手はソードマスター級。
単純な個の力では、まだ届かない。
「第三部隊、援護」
クロエが命令する。
次の瞬間。
狙撃部隊の銃声が響いた。
――パァンッ!!
オカマが即座に回避する。
そこへ。
突撃部隊が弾幕を張る。
銃火。
閃光。
弾丸。
ジャックが踏み込む。
連携。
完全な軍事戦闘。
それでようやく互角だった。
その間にも。
諜報部隊と工作兵団が動いていた。
鎖を外す。
檻を破壊する。
人々を誘導する。
捕らわれていた奴隷達が、次々船外へ避難していく。
⸻
そして。
最後の一人が船から脱出した。
クロエは静かに目を閉じる。
『全員救出完了』
諜報部隊から報告。
クロエは静かに命令した。
「工作兵団」
「爆破」
次の瞬間。
港中へ仕掛けられていた爆薬が起爆した。
――ドゴォォォォォンッ!!
轟音。
炎。
衝撃。
奴隷船が爆炎に包まれる。
港の倉庫群も次々吹き飛んだ。
炎が夜空を赤く染める。
その中で。
オカマは曲刀を下ろした。
「あらぁ」
肩を竦める。
「肝心の護衛対象が壊れちゃったじゃない」
そして、やれやれと笑う。
「これ以上続けても、働き損ねぇ」
ジャックが無言で刀を構え続ける。
クロエは静かに目を細めた。
「……やらないの?」
すると。
オカマは妖艶に笑った。
「ワタシはねぇ」
「金にならない仕事はしない主義なの」
炎を背に、ゆっくり後退していく。
風が吹く。
そして。
オカマの姿が闇へ溶けるように消えた。
最後に。
楽しそうな声だけが残る。
「また会いましょ♪」
燃え上がる港。
クロエは静かにその闇を見つめていた。




