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魂と鋼の魔女  作者: カミサマ
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第12話 救済の魔女

第12話 救済の魔女


 轟音の余韻だけが、地下空間に残っていた。


 ハイオークの巨体は、頭部を失ったまま崩れ落ちている。


 周囲には、銃弾で倒れたオーク達。


 砕けた盾。


 飛び散った薬莢。


 壊れた檻。


 そして、青白い鬼火を灯したスケルトン兵達。


 地下空間は、まるで戦場の跡だった。


「……終わったわね」


 クロエは静かに対物ライフルを下ろした。


 僅かに息を吐く。


 さすがに、第零の棺と超加速弾の同時使用は魔力消費が重い。


 だが、それ以上に。


 周囲に転がるオーク達の魂が、クロエへ流れ込んできていた。


 魂喰らい。


 黒い霧のような魂が死体から立ち昇り、クロエの身体へ吸い込まれていく。


挿絵(By みてみん)


 力が満ちる。


 闇が膨らむ。


 濃度が増していく。


 特に、ハイオークの魂は別格だった。


 まるで黒い炎の塊。


 それを喰らった瞬間、クロエの中の闇が一段深くなった。


(……これなら)


 クロエは静かに目を細める。


(二桁目の棺も喚び出せそうね)


 だが、喜びだけではない。


 力が増すたびに、自分の中の何かが人間から遠ざかっていく感覚もある。


 それでも。


 力は必要だった。


 生きる為に。


 自由でいる為に。


「第五の棺、解放」


 クロエが告げると、空間に新たな漆黒の棺が現れた。


 中から現れたのは、スケルトン工作兵団。


 その数、百。


 工具帯。


 魔導ランタン。


 切断器具。


 解錠具。


 探索用魔導具。


 戦闘ではなく、解除、修復、捜索、証拠回収に特化した死兵達だった。


「檻を開けなさい。負傷者を保護。資料と証拠も全て回収」


挿絵(By みてみん)


 カタカタ、と骨が鳴る。


 工作兵団が一斉に動き出した。


 檻の鍵が次々に外される。


 鎖が切断される。


 囚われていた女達が、恐る恐る外へ出てくる。


 だが、誰も歓声を上げなかった。


 助かった。


 それは分かっている。


 けれど、目の前にいるのは騎士ではない。


 骸骨の軍勢と、黒髪の魔女だった。


「……歩けるなら、地上へ向かいなさい」


 クロエは淡々と言った。


「出口までは案内させるわ」


 数体のスケルトン工作兵が、毛布と水袋を運んでくる。


 女達は怯えながらも、それを受け取った。


 その時、一人の女性が震えながらクロエを見上げた。


「……助けて、くれたの……?」


「依頼のついでよ」


 クロエは短く答える。


 女性は涙を浮かべながら、震える唇で言った。


「ありがとう……ございます……」


「…………」


挿絵(By みてみん)


 クロエは少しだけ黙った。


 胸の奥が、ほんの僅かに温かくなる。


 奇妙な感覚だった。


 前世でも、今世でも。


 恐れられる事には慣れていた。


 利用される事にも、狙われる事にも慣れていた。


 だが、こんな風に真正面から感謝されるのは、少しだけ慣れない。


「……そう」


 クロエは視線を逸らす。


「早く行きなさい」


 女達は何度も頭を下げながら、スケルトンに導かれて出口へ向かっていった。


 その背中を見送りながら、クロエは小さく息を吐く。


(……悪くないわね)


 それだけだった。


 けれど、確かに何かが残った。


 その時。


『報告』


 諜報部隊から魂越しに声が届く。


『隠れていた奴隷商人を発見』


 暗闇の奥から、黒装束のスケルトン達が一人の男を引きずってきた。


 太った中年の男。


 高価な服。


 金の指輪。


 だが、顔は恐怖で真っ青だった。


「ま、待て! 私は命令されただけだ! 金を貰っていただけで――」


「そう」


 クロエは冷たく見下ろした。


「だから?」


「ひっ……!」


 クロエは静かに告げる。


「第六の棺、解放」


 新たな棺が現れる。


 中から出てきたのは、黒衣を纏ったスケルトン拷問官。


挿絵(By みてみん)


 感情の無い青白い鬼火。


 錆びた器具。


 鎖。


 尋問用の魔導具。


「情報を吐かせなさい」


 スケルトン拷問官達は無言で男を拘束し、地下空間の奥にある暗い部屋へ連れて行く。


「や、やめろ! 金なら払う! 払うから――!」


 鉄扉が閉じた。


 しばらくして。


 男の悲鳴だけが、闇の奥から響き始めた。


 捕まっていた女達は身を寄せ合って震える。


 クロエは悲鳴を気にする様子もなく、工作兵団が回収した帳簿を受け取った。


 奴隷売買記録。


 搬送経路。


 取引相手。


 ロレント貴族の署名。


 港湾区の倉庫番号。


 そして。


 オーク母国の印章。


(……組織的ね)


 単なる犯罪者ではない。


 国家の命令を受けた工作活動。


 その上、ロレントの貴族と癒着している。


 だから衛兵は動かなかった。


 だから失踪者が出ても放置された。


 クロエの瞳が冷たく細められる。


 やがて、奥の部屋からスケルトン拷問官が戻ってきた。


『情報取得』


『港湾区、第七码頭』


『奴隷商船に未搬送の被害者多数』


『今夜、出航予定』


「……まだ残っているのね」


 クロエは帳簿を閉じた。


 助けた人間は、この地下にいた者達だけ。


 だが、既に船へ運ばれた者達がいる。


 今夜、その船が出れば、異国へ売られる。


 そうなれば追跡は困難になる。


 クロエは港の地図を広げる。


 第七码頭。


 貨物倉庫。


 密輸用水路。


 出航予定時刻。


 全てが一本の線で繋がっていく。


「……面倒ね」


 そう言いながら、クロエの口元には薄い笑みが浮かんでいた。


 面倒。


 だが、放置すれば後々さらに面倒になる。


 それに。


 人を物のように売り捌く連中は、どうにも趣味が悪い。


 クロエは静かに命じる。


「諜報部隊は港へ先行。工作兵団は証拠を回収。歩兵隊は再編成」


 青白い鬼火が一斉に揺れる。


 地下の闇が、再び動き始めた。


 クロエは第七码頭の位置を指先で叩く。


「今夜中に終わらせるわ」


 そして、静かに告げた。


「奴隷船を潰す」

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