お礼がしたい
助けてくれた男の人はもう姿が見えなくなってしまったため、店内に戻る。実は、荷物をレジ前の床に置いたまま出てきていたのだ。レシートもまだ受け取っていない。
「おっ。どうでしたか?何か言ってました?」
先ほどまで一緒に解決方法を考えてくれていた店員さんはレジのところに立っているままで、どうやら紗季が戻るまで待っていてくれたようだ。業務的にではなく興味本位という口調で聞いてきた。
「いえ、何も。あの人って常連なんですか?」
あの人は、紗季を何事もないように助けてくれたことや、その雰囲気、店員さんとの会話から常連ではないかと紗季は思った。レシートを受け取るそぶりが全くなかったことも、常連だからできることだろう。
「あー、そうですね。よく来てくれてます。」
「へぇ~。」
紗季は相槌を打ちつつ、あの人のことを考えていた。
お店に入ったときに見た第一印象は、『意外だなー』だった。
見た目や服装は、バンドとかを組んでいそうな人のものだった。髪は染めていなかったが、ピアス、それにネックレスがついており、服もそれによく合う黒いもの。
こんな古民家カフェに来るような人ではないように思えて意外だった。
そして、それでいながら雰囲気が落ち着いていて、偏見でしかないが話しかけただけでキレるような(実際そんな人いないだろうけど)怖い人に思っていた。
それが、この窮地に助けてくれた。大きな驚きだった。
「ええっと、大体何時ぐらいで来るとか、曜日とかって分かりますか?」
「・・・?」
店員さんが首を傾げる。当然だ。これ単体だと、ただのストーカーみたいになる。
もちろん紗季の目的はそうではない。
「お礼がしたいので!さすがにこのまま助けられっぱなしってのは良くないと思って・・・。」
「あー、なるほど!」
助けてもらって終わり。それは良くないと思う。何かしらのお礼はしたい。そのためにはもう一度会うなり、連絡先を手に入れるなりする必要がある。
「教えてもらえますか?」
「えーと・・・ま、いっか。曜日とかは全然決まってなくて・・・あっ。自分平日しかバイトしてないので土日は分からないです。それで、時間帯は今の時間ぐらいにはいるときが多いですねー。」
「分かりました!ありがとうございます。」
「会えるといいですね。」
「はい!」
しばらくここに入り浸ることになるだろうけど、それぐらいだったら構わない。きちんとお礼をして、できたら仲良くなりたいなー、と思っていた。
♢
翌日。
二日連続で来る可能性は少ないだろうとは思っていたけど、一応来た。
昨日と同じ店員さんが案内をしてくれた。
来店したときに鳴るベルの音に耳を澄ましながら、明日の授業の配布された予習プリントを進める。スマホを見ていたらあの人を見逃してしまうかもしれない、そう思うとスマホの誘惑から逃げることができた。
注文したのはリンゴジュース。友達とこういうところに来たら子供っぽいと思われたくなくて別のものを頼むことも多いが、今なら何の気兼ねもなく頼むことができる。紗季が一番好きな飲み物はオレンジジュースだ。特にすっきり飲みやすいタイプがいい。
今回は別のものにチャレンジしてみようと思い、リンゴジュースにした。これもちゃんと美味しかった。
しばらく待ってみたが、なかなかあの人が来る様子はなかった。
あまり遅くなってはいけないので、このあたりで帰ることにし、レジへと向かう。今日はちゃんとお金を持ってきている。金額も大丈夫だ。
レジを終えると、店員さんから話しかけられた。
「昨日のあの人を待ってました?」
「はい。さすがに今日はないかなーって思ってたけど、やっぱり来なかったですね。」
「もしかして毎日来るつもりですか?」
「いつ来るかわからないから、そうするつもりです。」
「そっかー、でも・・・うーん。」
店員さんはなぜか毎日来るつもりだと聞いて頭を悩ませ始めた。
「えーっと?」
「・・・や、なんでもないです。ですが、とりあえず謝っときます。理由は聞かないでください。」
「え?・・・わ、分かりまし、た?」
「はい。すみません。」
突然謝罪されて、何が何だかよくわからない。店員さんは謝らないといけないようなことは何一つしていいないはずだ。それに、理由を聞かないで、というのはどういうことだろう。
紗季は混乱したまま家に帰った。
店員の柴咲慶太が謝ったのは、自分が連絡を送ったせいで隼人が来なくなってしまったからです。何も言わないよう口止めされているので、理由が言えませんでした。言ったら隼人と関係があることが分かるので。
次回更新は5月30日予定です。




