ああ!!
紗季が、助けてくれたあの人にお礼をするため喫茶スギに入り浸ること一週間。
今日まで一度も会えていない。
一週間来店しないことなんて普通だし、むしろ週一で来ているほうが特殊であるのだろうが、それでも先週店員さんに謝られたことが気にかかる。
もしかして店員さんはあの人がしばらく来ないことを知っていてそれで謝ったのではないだろうか。
これは完全に邪推でしかないのだが、それでも少なからず不安になる。頭の中ではいつか会えると分かっているけど、基本的に一人でいることが少ない紗季は心細くなっていた。
それに、そろそろ本当に勉強しているのか周りから疑われそうだ。テスト前以外は全くと言っていいほど勉強をしない紗季が突然何日も連続で一人でカフェで勉強しているなんて信じる人は少ないと思う。
実はもう既に、澪(フルネーム高坂澪)から怪しむような視線を向けられている気がする。他のみんなはまだ疑っていないのに。やっぱり澪は鋭い。
また、これが長続きするとお財布へのダメージが無視できないものになる。両親にはこのことを伝えていないので、本来なら勉強に必要なお金としてもらえる分がない。さすがに嘘をついたら両親には一瞬でばれそうだからこうするしかない。
(あー、はやく来ないかなー。)
紗季はあの人を待つ間、想像以上に集中して勉強に取り組めていた。勉強といってもテスト前ではないし、紗季には何をしたらいいのかがあまり分からないので、学校から出された課題をやっていた。
その課題の中には予習プリントという名の実質的課題も含まれており、それは休み時間に急いでやっているものだ。そのため、最近はしなければならないことが何もない中学校以来の休み時間の心地よさを満喫できている。校則や校風が中学校より断然緩いので、中学校以上かもしれない。
しかしその集中力もずっと続くわけではない。課題もだいぶやりつくしてしまった。
(・・・来なさそうかな?今日ぐらいいいよね。だって今日まで頑張ったし。)
そう。そろそろ頑張ったご褒美が欲しい。別にご褒美じゃなくても、何かのんびりしたい。
紗季は鞄からスマホとイヤホンを取り出して、そして動画を見始めた。
油断大敵とはまさにこのこと。紗季は動画に夢中になっていて来店時のベルを聞き逃した。
ただ、ここで紗季の強運が発動した。
スマホのネットのつながりが悪くなり、ちょうどいいタイミングだからとトイレに行こうとしたのだ。
その道中。
視界の端にきらりと光るピアスが見えた。
そしてそちらを振り向くと
「ああ!!」
思わず声が出てしまった。あまり良くないらしいけど指まで差した。
これは仕方ない。だって、ずっと(一週間)待ち続けていた人と会えたのだから。
紗季は小走りでその人の座る席へと近づく。
「あのっ、この前はありがとうございました。本当に助かりました!」
「ああ、別に気にしなくていいよ。」
「あの時はどうしようかと・・・。」
「あー。」
その人は苦笑しながら読みかけの本を閉じた。その服装や髪型からは読書をするなど想像できないが、何故か紗季にはスッと受け入れられた。やはりその人は不思議と落ち着いて見えた。
繰り返すようにはなるが、外見だけならイケイケの大学生という感じだ。それなのに、その発言、声、しぐさ、視線、表情などから知的で冷静沈着という印象をうけるのだ。
その人は少し考えた後、答えた。
「まぁ、次からは気を付けたほうがいいな。」
ごもっともである。
「はい。気を付けます。あの・・・お礼として今日のお代は私に払わせてください。」
「いや、本当に気にしなくていい。」
「でもそういうわけには・・・」
言葉の通り、本当に気にしていない様子だった。
確かに、金額としてはたかが130円。だが、されど130円だと思うのだ。
それに、せっかく交流を持てそうなこの機会を逃したくない。話し相手が欲しい。
紗季はいつの間にか『お礼をする』から『仲良くなる』に目的が変わっていることに気づいていなかった。
「・・・じゃあ、お言葉に甘えて俺が払った130円分だけもらおうか。」
自分が払った分だけ返してもらおうとしているあたり、律儀な人だと思った。それだと返しただけで、お礼にはならない。
「いえ、全額払わせてください。」
「いやー、・・・じゃあ、ありがたく。」
ようやく承諾してもらえた。
「あと、相席させてください。」
「ああ、いい」
「ありがとうございます!ちょっとお手洗い行ってから移動して来ますね。」
勢いのままそう言い放って、その場から離れた。
(やったやった!まだ無理だと思ってたけど会えた!)
紗季はその喜びを心の中で解放した。一人で寂しくなっていたからこそ、とても嬉しかった。
次回更新は、調子がよかったら6月6日になります。うまく書けなかったら7日です。
追記)ごめんなさい。シンプルに今週時間がなさ過ぎて無理でした。来週には!




