なに、それ
席を移動するために店員さんに断りを入れてから、荷物を移動させた。店員さんは「良かったですね。」と言ってくれた。既に注文していたものがあるので、二度往復する。
その人は二人用のテーブル席に座っていたので、向かい側に座る。その人は明らかに戸惑っているように見える。確かに、少し強引だったかもしれない。
ただ、別に紗季と相席になることを拒絶しているわけではないようで、テーブルの上にあった本数冊は片付けられていて、鞄を持って来た時は荷物入れのかごを出してくれた。
「ここ、よく来るんですか?」
話しかけたのは紗季のほうなので、持ち前のコミュ力を生かす。ほとんど無意識に口は動いた。
「あー、そうだな。まあまあ来てる。」
「へぇーそうなんだぁ。確かに雰囲気いいですもんね。」
これは紗季の本心だ。ここの雰囲気は落ち着いていて、比較的静かで、常連客が多そうだが決して新客を拒まない非常にいいものであるのはここ数日で身に染みている。
「・・・ああ。」
「私も気に入りました!助けてもらったあの日が初めてでー、メニューがめっちゃ多くてびっくりしました。」
「・・・へぇー。」
「パンケーキを食べたんですけど、ふわふわで美味しかったです。」
「・・・。」
その人は相槌を打つばかり。視線はこちらに向いているものの、どこか合っていない気がする。
「・・・もしかして、ご迷惑でしたか?」
紗季は不安になった。助けてもらっておいて、自分の話し相手が欲しいからという理由で時間を奪うようなことになっていないか、と。
「い、いや。全然大丈夫。少し考え事してただけだ。」
紗季の心配は杞憂に終わった。少し焦り気味でその人は否定してくれた。今度はきちんと自分を見てくれていた。
「ホッ・・・良かったぁ。あの、改めてありがとうございました。私、陽川紗季っていいます。」
「まぁ、どういたしまして。」
その人は苦笑いをしながら答えた。苦笑いになる理由は言わずもがなだ。
「ええと、おにーさんのお名前聞いてもいいですか?」
「・・・阿江隼人だ。」
名前を答えるのに少しの間があったが紗季はそんなことには気づかず、話し続ける。
「阿江さんですね。あっ、全然遠慮せずに注文してもらっていいですよ。」
「いや、いい。いっつもアイスティーだけだから。」
「そうなんですか。じゃ、私何か頼もっかなぁ・・・。何かおすすめあります?」
「んー、俺はあんま甘いもの好きじゃないから頼んだことはないが・・・そのパフェとかいいんじゃないか?たぶん女子高生用だろ?」
「あー、確かに美味しそう!じゃあこれ頼みます。」
店員さんを呼んで、ミックスフルーツパフェを注文する。
「ええと、一つ聞いてもいいか?」
店員さんが注文を聞いて戻って行った後、阿江さんから質問された。自分に質問してくれたことを嬉しく思いつつ、答える。
「はい、なんですか?」
「どうして相席に?」
質問内容を聞いた途端紗季の表情は凍り付いた。
(え・・・やっぱり迷惑――)
「ああ、迷惑だったとかそういうんじゃなくて、単純に理由を聞きたい。」
紗季の心が読めたかのように、的確に追加説明。やっぱり落ち着いた人だなぁと思った。
「ん?この前のお礼をするためですが?」
「それならレジのときにお金を渡したらいいだろ?それに俺って見るからにやばそうだと思うんだ。下心あって近づいたとか思わないのか?」
「えっ、そうなんですか?」
予想外のことを言われて、紗季は驚いた。
一瞬阿江さんがそんな理由で・・・、と思いかけたが、すぐに不用心さを心配してくれただけだと思い直す。
事実、
「いや、違うけども。」
と即否定された。
「んー、確かに阿江さん見た目は少し怖めですけど全然そうは思わなかったです。だって困っていたところ助けてくれたし、それにこんな感じのカフェに来るような人だし。あとは――」
(う、一人が寂しかったからなんて言えない。)
これは名目上助けてもらったお礼をするためにしていること。それに、一人が寂しかったなんて恥ずかしくて言えない。
「・・・ええと、なんとなく大丈夫かなって。だからその、別に何か理由があってっていうわけじゃなくて、ちょっと話してみたいなぁって思ったからなんですけど・・・」
阿江さんは納得がいったように頷いた。一安心して、緊張を少し緩める。
「俺ってこう見えてあんま自分から誰かに話しかけようとしないタイプからさ。いきなりこんな話しかけられて驚いてたんだが・・・。まぁ、そういうことなら嬉しいよ。」
「・・・。」
紗季は言葉を詰まらせた。
(なに、それ。)
クールに見える阿江さんから突然見せられた笑顔。それは先ほどまでの表情とは打って変わって、とても優しいものだった。
もともと抱いていた、怖く見えるけど実は内面では優しいという印象とのギャップが大きいからか、その攻撃力(いや、なんの攻撃?とは思うが)はすごかった。
なぜだか知らないが、少し、鼓動が速くなったような気もする。
「どうかした?」
「いっ、いえ!そういう風に笑うんだなぁって・・・。」
不思議そうに首を傾げる阿江さんは、もう元のクールな表情に戻っていた。
(・・・やっぱり話しかけて良かった。)
これは後、ずっと後でもそう思う。




