第十一章 裏切りものの抗い(1)
第十一章 裏切りものの抗い
あれから色々考えた。
母を安全に城に連れ帰るには、どうすればいいか。
そして改心したユダの人生を無駄にしないために、彼の証言を全国民に知らしめるには、どうすればいいか。
「公開裁判、か」
ラスが辿り着いたのは、それだった。
公開裁判からの公開処刑。
それくらいしないとユダは、暗殺されて口封じで終わりだろう。
母の無実を証明するためにも、公開裁判によるユダの命懸けの証言は必要不可欠だ。
ユダ自身、それは自分の使命だと感じているだろう。
黒幕を追い詰めるためとは言え、ユダだけが犠牲になるみたいで、寝覚めは悪いが。
それでも先帝弑逆の真犯人である以上、温情はかけられない。
それが隙になるから。
ラスの独り言を聞いて、リカルドが妃をそばに侍らせながら、彼を振り向いた。
「ユダを先帝弑逆真犯人として、公開裁判にかける気か? ルイ?」
「ユダはどう温情をかけても死ぬ。その死は母さんの無実を証明するために決意したもの。無駄死ににしないために、一体どうしたらいいか考えて、公開裁判からの公開処刑が一番いいんじゃないかと」
「そんな残酷なこと」
青ざめたキャサリンが、震えながらいう。
「母さん。ユダが真犯人として自白して、死を決意したのは、母さんの冤罪を晴らすために決めたことだ。ユダにとって母さんの無実を証明できないまま暗殺されるのが、一番怖いことなんだ。ユダにとっての無駄死になんだ。わかってやってくれよ」
母を一度は裏切ったユダが、母を助けるために命を捨てた。
その覚悟をわかってやってほしかった。
ユダが無駄死にする。
それが彼にとって一番怖いことだと。
どうかわかってやってほしい。
一見して残酷に見えても、ユダはそれを望んでいるのだと。
大罪人の烙印を押されて、公開処刑されても、母の無実が証明されたら、胸を張って死ねるのだろうから。
ユダの母に対する忠誠心だけは、本物だったとラスも認めていた。
だから、せめて彼が納得できる死に様を用意してやりたい。
「しかし公開裁判の最中に暗殺されたら?」
「だから、公開裁判と言っても、実質はユダの独壇場による自白だ。それを遮って暗殺しようとするなら、それこそ叛逆罪の証明だろ? 無実なら堂々と眺めていればいいんだから」
「それはそうかもしれないが」
渋るリカルドにラスは弟皇子を振り返り問いかけた。
「ジェラルド。アドラー公爵には、ユダ以外に腕の立つ信頼できる側近はいるのか? 闇討ちや暗殺に長けた」
「それはわたしもよく知りません。ユダに確認したほうがよいのでは? ユダほど内部に通じたものはいませんよ、兄上」
「それならもうやった。ユダの話によると、アドラー公爵は、よほど用心深い性格らしく、ユダ以外の側近がいないらしい。情報が漏れるのを恐れてな。ただユダの裏切りが、読まれていた場合、その限りではないと言う話だった」
「だから、危ない仕事や汚れ仕事は、全部ユダにやらせていたんですね。最悪ユダが捕まっても、自分は関係ないで押し通せるから」
「そう。問題はそこだ。証人はいる。しかし証拠がない。それが問題なんだ」
「ユダを連れてきなさい」
リカルドの言葉に近衛たちが動く。
「おっさんはユダなら証拠を握ってるとでも思ってるのか?」
「ひとつ可能性がな」
リカルドにはひとつだけ心あたりがあった。
当時を振り返れば、ひとつ証拠になり得るものが、リカルドの手元にある。
現場を見たからこそ、立ち会ったからこそ、掴んだ証拠。
だが、今までは証拠になり得なかったもの。
その出所がわかれば、やっと証拠になる。
問題は、それが唯一のものであるかどうかだ。
出所がたったひとつであり、それがアドラー公爵に繋がるなら、それ以上の証拠はない。
そこまで考えたとき、ユダが近衛に連行されてきた。
「ユダ」
「はい」
「わたしは現場を見ている。故にわかるのだが、キャサリンに盛った特殊な薬。あれの出所は?」
「アドラー公爵の秘められた薬草畑だけにしか咲かない花があります。貴重な花で、毒にも薬にもなります。アドラー公爵は、その効用を知らないのです。ただの花だと思っている。だから、処分もされない」
「その花を使って作った薬で、キャサリンが流産しない程度に細工して飲ませて、それを作れるのは公爵の城に咲く花のみなのだな?」
「はい。それが精一杯の抵抗でした。そうやって唯一無二の証拠を残すことが」
「ヴァン!」
「ハッ!」
「ヴァンはわかるな? なにが証拠になるか」
「はい。そしてそれを証拠にするためには、公開裁判の真っ最中に証拠として、提示する必要があります。公爵に言い逃れをさせないためにも」
「そうだ。できるか? 近衛をふたつに分ける必要があるが」
「やり遂げてみせます。皇后様をそしてルイ皇太子殿下をお守りするために! 二度も同じ苦渋は舐めません! この命に換えても!」
「頼む。わたしも2度もふたりを失いたくはない」
この言葉が、作戦開始の合図だった。
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