第十章 巡り合い(6)
ユダは可哀想な人です。
だからこそ最期は望みを叶えてやりたいですね。
短くてすみません。
キリのいいところで切ったら、あんな感じに。
次からは反撃のターンです。
皇帝一家の前にユダが連行されていったとき、皇太子妃だった頃、彼を重用していたキャサリンは、そのあまりの様変わりように驚いた。
彼の罪状を聞く前に心配して声をかけてしまうほどに。
「ユダ。どうしたのですか? そのかわりようは」
膝を折りユダに近付こうとした母をラスの鋭い声が止めた。
「近付いたらダメだ! 母さん!」
「何故ですか? ルイ? 彼はわたくしの忠臣で」
「そうだったかもしれない。その気持ちは確かなものだったかもしれない。そのおかげで俺も母さんも生きていられる。でも、裏ではユダは黒幕の腹心でもあった。祖父さんを殺して母さんに罪を被せたのは、ユダなんだから」
この説明にすべてのものが息を呑んだ。
「本当なのか? ルイ? もしやジェラルド。そなたも知っていたのか?」
厳しい顔で妃と母を庇いながら、問いかけるリカルドにジェラルドは、かぶりを振ってみせた。
「薄々悟っていましたが、確証がなかったため、知っていたわけではありません。あの人が先帝弑殺の大罪を任せる人物など、わたしにはユダ以外思いつかなくて。でも、証拠はないし、わたしも勇気が出なくて言えませんでした。申し訳ありません!」
「なんとしたこと」
「ユダ。あなたは人々の嘲りや侮蔑でもなく、わたくしからの信頼や期待でもなく、自分自身の心を裏切ったのですね」
自分自身の心の有り様を正しく理解されて、ユダは静かに後悔の涙を流す。
「お許し下さい。お許し下さい。お許し下さい。お許し下さい」
壊れてしまったように、それしか言わないユダに、周囲は複雑な眼差しを向け、キャサリンは一雫涙を溢した。
「ユダ。可哀想な人。自分自身にすら素直になれないなんて」
「この19年後悔しない日はありませんでした。何度時をやり直したいと願っていたか」
「ユダ」
「キャサリン様をお腹の子ごと殺せと命じられました」
「やはり事の発端はそこだったか」
「ジェラルド?」
「いえ。ずっと不思議だったのです。先帝を弑殺することに深い意味はありません。あの人の望みは、自分の血を引く世継ぎを即位させ、傀儡とすること。それには先帝弑殺は、あまり意味を持たないのです。キャサリン様と兄上を殺してこそ意味を持つのに何故、と。でも、今ので謎は解けました。ユダ。きみはその命令だけは強く固辞したのだね?」
「わたしにはおふたりを殺すことなどできません! ですが強情に固辞していると、今度は先帝弑殺を命じられ、その罪を被せるように命じられました。それが飲めぬなら、キャサリン様を毒殺すると脅されて」
「それで?」
「すべての毒殺ルートを潰すことなど不可能。守りきれないなら、逃すしかない。そう決意して海の貴族を雇い、キャサリン様の保護を頼みました。その策略は結果だけを見るなら成功でしょう。19年かかったとはいえ、キャサリン様もルイ様も生きていらっしゃる! こうしてご家族が揃う日を迎えておられる。今度はわたしが罪を償うことで、ルイ様やキャサリン様が、元の地位に戻れたら、この命。断頭台の露と消えても後悔はありません! どうかわたしが暗殺される前に、罪を明らかにして厳罰をお願い致します!」
時間がない。
自分の裏切りがもしあの人の耳に入ったら、きっとすぐに殺そうとしてくるだろう。
自分の叛逆を証明される唯一の生き証人であるユダを始末しようとするだろう。
本当に時間がないのだ。
暗殺されてしまったら、それこそ犬死にだ。
今度こそキャサリン様もルイ殿下も殺されてしまうだろう。
そうならないように自分を先帝弑殺の真犯人として早く裁いてほしかった。
あの人はそれほど恐ろしい人だ。
「あの人は人の皮を被った悪魔です。時間をかけていれば、なにをしてくるかわからない。ですから早く!」
自分の死を望むユダにリカルドは決意した。
この最大の危機を乗り越えてみせると。
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