第三話
「家族の予定が合う日は、近況報告もかねて皆で朝食を取ること」
貴族の家にはそぐわないようにも思えるが、それが我が家の決まりごとだった。
カチャリ。
ゆったりと朝食を終えた母がカトラリーを置いた。それをちらりと見た父は、眉間にシワを寄せながら重々しく口を開いた。
「……実は、北の王国が最近どうもきな臭くてな」
「あそこがきな臭いのはいつものことでは?」
既に次期当主として政務に携わっていた兄が、そう言って顔をしかめた。
「今回はいつにもまして、前王弟派の残党が不穏な動きをしていてな。国境は緊張が高まっている」
「はぁ、もう前王弟本人は没しているというのに、懲りない連中ですね」
「えーっと、前王弟は王家派の中でも強硬路線でしたよね?」
スペアとしての教育が順調に進んでいるらしい弟が、父と兄の会話に入っていく様子を頼もしく思ったことを覚えている。
当時、隣国の前王弟といえば、王家による中央集権を強引に進めて、王族の権威を高めようとする一派の筆頭だった。やりすぎた前王弟が毒杯を賜り数十年経った後も、その残党は対立派閥──主に「貴族派」と呼ばれる、地方の有力貴族や平民の富裕層、知識人による一派──に対して過激な言動を繰り返していた。
「もう! そんな話、朝食の席で続けなくてもいいじゃない」
明るく社交的な母は、せっかくの気持ちの良い朝が台無しだと言わんばかりに頬を膨らませてみせた。
父が眉間のシワを揉みほぐす。
「まあ、20年ほど前に奴らが活発化した時には、隣国との密通の罪で我が国の貴族家が潰れているんだ。お前たちもよくよく気を付けるように」
兄が思わずといった様子で「ああ……」とこぼした。
「たしか、ソルージュ子爵家でしたよね」
「……知っているのか?」
「ええ。罪に問われたのはその家だけでしょう? たかが北部の子爵家一つに何ができるのかと思ったので、よく覚えています」
兄の言葉を聞きながらも、私の頭にあったことは「レポートの題材を何にするか」だった。
前王弟に端を発する政変は、家庭教師に習っていた。しかしそれは「歴史」と言うにはあまりに近すぎて、けれども「情勢」と言うには遠すぎて。
当時の私にとって遠い隣国の出来事など、その日、学園で待ち受ける課題に比べたら、どこか現実味のない話だったのかもしれない。
「あら、20年前といえば……学園も大騒ぎだったわね。下位貴族の娘が王太子殿下や高位貴族の令息たちをたぶらかした、とかで」
昔を懐かしむような母の言葉に、弟が声をあげた。
「えっ! そんな娯楽小説のようなことが本当に起こったのですか!?」
「わたくしたちの少し下の年代の話だから、詳しくは知らないのだけれど。ね、あなた」
ため息をついた父が、母と弟をたしなめた。
「その話はよしなさい」
父はそのまま私の方へ顔を向けた。
「アンソン。お前の研究はどうなんだ?」
「順調です。先日は──」
そうして我が家の団欒の席での話題は流れていったのだ。




