第二話
彼女は美しい人だった。
唇に引かれた鮮やかな赤のリップは、艶やかであるにもかかわらず、下品どころか大人びた印象を与えていた。
女性にしてはすらっと背が高く、以前見かけた北方の人間のように色白な肌は、整った顔立ちと相まって、高位貴族に混じっていても埋もれることはなかった。むしろ、貴族社会の外で育った彼女の雰囲気は、どこか浮世離れしていて特別目を惹いた。
私たちが在籍していたのは中位クラスであり、大半は伯爵家の子女で、残りは優秀な子爵家や男爵家の子女が占めていた。
平民の特待生がこのクラスにいることは、とても珍しいことだった。
彼女が孤立してしまうのではないかという懸念は、全くの杞憂だった。彼女はその穏やかで思慮深い性格から、比較的身分の近い男爵家や子爵家の令嬢と仲を深めていった。
社交に全く向いていないと家族に評される私から見ても、彼女らが順調に交流していることが見て取れた。
しかし、そんな平穏な日々はひと月も続かなかった。
エドワード王太子殿下の第一王子であるジュリアン殿下と側近候補の令息たちが、彼女のもとを頻繁に訪れるようになったからだ。
彼女の友人だった下位貴族の令嬢たちは、殿下たちに遠慮をして距離を取るようになった。クラスの中では高位にあたる令嬢たちもまた、彼女を排除はしないものの、我関せずの態度を取り続けた。
そのような状況が続いた、ある日のことだった。
私は教師の手伝いのため、中庭に面した通路を歩いていた。話し声が聞こえた方へなんとなく目をやれば、殿下をはじめとした数名の令息が一か所に集まっていた。
輪の中心にいたのは、彼女だった。
その時の私には、彼女が少し困った顔をしているように見えた。きっと、次の授業の準備のためにその場を離れたいものの、殿下方に対してどう話を切り出したら良いのか悩んでいるのかもしれない。そう考えた私は、隣を歩く教師に断りを入れ、彼女を連れ出すために集団の方へ足を向けたのだ。
教師も私の動きにつられて、その集団を視界に収めたのだろう。
「あ、あれは……ミレイユ・ソルージュ!? 生き写しじゃないか……」
驚愕と恐怖が混じったような教師の震える声は、彼女を連れ出すことに気を取られている私の耳には入らなかった。
──もし。もしも、あの時の言葉に私が足を止めていたのならば。
いや。今になって考えたところで、ただの伯爵家の次男坊では、あの結末を変えることなどできやしなかっただろう。




