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婚約破棄された私は、もう誰かのために笑うのをやめました ~捨てた王子は後悔しても、もう遅いです~  作者: カルラ


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第十三章 偽りの聖女

建国祭当日。

王城の大広間は、一年で最も華やかな装いに包まれていた。

各国から集まった王族や大貴族たちが、煌びやかな衣装に身を包み、談笑している。

私は隣国王子の婚約者候補として、正式にこの場へ招待されていた。

 

「エレシア嬢、緊張しているか」

 

隣に立つレオンハルト様が、静かに声をかけてくる。

 

「少しだけ」

 

正直にそう答えると、彼は私の手をそっと握った。

 

「大丈夫だ」

「君は一人ではない」

 

その言葉に、私は静かに頷いた。

会場の中央には、次期王太子夫妻として、アルヴィン様とフィオナ様が並んで立っている。

けれど二人の間には、以前のような親密さは感じられなかった。

 

一年前の私であれば、この場で俯いていたことだろう。

けれど今の私は、堂々と胸を張ってその場に立っていた。

以前のように視線を落とすことはない。

その姿を見て、周囲の貴族たちがざわめき始める。

 

「あれが、婚約破棄されたご令嬢か」

「以前とは、まるで別人のようですわね」

 

そんな囁きが、あちらこちらから聞こえてくる。

以前であれば、その視線に押しつぶされそうになっていただろう。

けれど今は、その視線さえも、静かに受け止めることができた。

 

一方、離れた場所に立つフィオナ様の表情には、隠しきれない焦りが浮かんでいた。

最近では、国内でも「元婚約者の方が優秀だった」という噂が絶えないという。

さらに、私とレオンハルト様の仲睦まじい様子も広く知れ渡り、フィオナ様の焦燥は募る一方だったのだろう。

そしてついに、彼女は最後の一手に打って出た。

 

舞踏会が始まって間もなく、突然フィオナ様が壇上に上がり、声高らかに宣言した。

 

「皆様、お聞きください」

「ここに、エレシア・ヴァルモント嬢が隣国へ国家機密を流していたという、確かな証拠がございます」

 

会場が一斉にどよめく。

彼女が掲げた書類には、確かにそれらしい文言と、王家の公印が押されていた。

 

「な、何を根拠に……」

 

アルヴィン様も驚いた様子で、その場に立ち尽くしている。

事情を知らされていなかった彼は、一瞬フィオナ様の言葉を信じかけたようだった。

 

「エレシア嬢を、この場で断罪すべきです」

 

フィオナ様の声には、勝ち誇ったような響きがあった。

 

けれど、その糾弾が始まった直後だった。

一人の老公爵が、静かに立ち上がった。

 

「お待ちください」

 

落ち着き払ったその声に、会場中の視線が集まる。

 

「その文書には、おかしな点があります」

 

老公爵はゆっくりと歩み出て、フィオナ様が掲げる書類を指し示した。

 

「そこに押された公印は、半年以上前に廃止された旧式のものです」

「現在使用されているものとは、明らかに形状が異なります」

 

その指摘に、会場がざわつき始める。

 

「さらに」

 

老公爵は続けた。

 

「この文書に記された作成日時と、エレシア嬢の行動記録を照らし合わせても、明らかな矛盾があります」

「あの日、エレシア嬢は終日、侯爵邸で領地の帳簿確認をしておられました」

「複数の使用人が、証言できます」

 

フィオナ様の顔色が、みるみるうちに変わっていった。

 

そこへ、もう一人の人物が前に進み出た。

侍女のミレイユだった。

 

「私からも、申し上げたいことがございます」

 

普段は控えめな彼女が、この日ばかりは毅然とした態度で会場の中央へと歩み出る。

 

「私は以前より、フィオナ様の振る舞いに不審な点を感じ、密かに調査を進めてまいりました」

 

ミレイユはそう言うと、手にした資料を掲げた。

 

「こちらに、証人となる使用人や商人の証言がございます」

 

会場の入り口から、数名の人物が姿を現す。

それぞれが、フィオナ様に関する証言を持つ者たちだった。

 

「フィオナ様から、口止め料として金銭を要求されました」

 

一人の商人がそう証言する。

 

「貴族の中傷記事を書くよう、脅されたことがございます」

 

別の証人が続く。

さらに、王家所有の宝石の一部が不正に処分されていたことを示す帳簿の記録も、次々と明らかにされていった。

 

・賄賂の受け取り

・貴族への脅迫

・証拠の捏造

・王家の宝石の横流し

 

これらの事実が、次々と暴露されていく。

フィオナ様の顔から、あの愛らしい笑みが完全に消え去っていた。

 

「ここまでとは……何かの間違いだ!」

 

アルヴィン様が、震える声で叫んだ。

けれど、国王陛下は冷たく、それを一蹴した。

 

「間違えていたのは、お前だ」

 

その一言に、会場は静まり返った。

 

「この一年、王家の帳簿は過去最悪の状態です」

 

財務大臣が、重い声で報告する。

 

「隣国との関係も、著しく悪化いたしました」

 

外交官が続けて言葉を発する。

 

「貴族達の信頼も、失われつつあります」

 

近衛騎士団長の言葉が、さらに追い打ちをかける。

そして最後に、国王陛下が静かに口を開いた。

 

「エレシア嬢がいた頃には、一度も起きなかった問題ばかりだ」

 

その一言に、アルヴィン様の姿に暗い影が落ちる。

 

国王陛下は、私の方へと視線を向けた。

そして、驚くべきことに、静かに頭を下げられた。

 

「王家が、そなたにした仕打ちを、心から詫びたい」

 

一年前の私であれば、慌てて止めていただろう。

けれど今の私は、静かに一礼した。

 

「お言葉だけで、十分でございます」

 

私は微笑みながら、続けた。

 

「私はもう、前を向いておりますから」

 

その言葉に、会場の空気がわずかに和らいだ気がした。

 

一方、フィオナ様はすべての証拠を突きつけられ、取り乱していた。

 

「全部、アルヴィン様のためだった!」

「私は、悪くない!」

 

叫ぶように、そう責任を転嫁する。

けれどアルヴィン様も、力なく首を振るだけだった。

 

「違う……私は……」

 

彼にはもう、何も言い返す言葉が残されていないようだった。

 

国王陛下は、即座に厳粛な声で命じた。

 

「聖女の資格を剥奪する」

「爵位を没収する」

「国外追放とする」

 

その宣告が落ちた瞬間だった。


フィオナ様の身体が、まるで内側から支柱を引き抜かれたようにがくりと崩れた。

膝が床に叩きつけられる音が、静まり返った大広間に鈍く響く。

彼女は両手をついて上体を支えようとしたが、腕にも力が入らず、そのまま前のめりに崩れ落ちた。


「……そ、そんな……嘘……嘘よ……」


掠れた声が喉からこぼれ落ちた直後だった。


恐怖と絶望が彼女の全身を貫き、下腹部に突然の激しい圧迫感が走った。

彼女はとっさに脚を強く閉じ、両手を下腹部に押し当てて必死に堪えようとした。

けれど、すでに遅かった。


最初はわずかな温もりが、内側から染み出すように漏れ始めた。

フィオナ様は顔を青白く強張らせ、歯を食いしばって下半身に力を込めようとする。


「……っ、いや……止まって……お願い……」


しかしその努力は、逆に全てを決壊させる結果となった。

抑えきれなくなった液体が、一気に勢いを増して溢れ出す。

彼女の華やかなドレスの内側で、生地が急速に湿り、重く張りついていく感触が、彼女自身に容赦なく伝わってきた。


「やめてえええっ!! 止まらないっ……! お願い、止まって!!」


フィオナ様は床に両手をついたまま、腰を浮かそうとじたばたともがいた。

けれど脚に力が入らず、ただ自分の腿の間を伝って流れ落ちるものを止められない。

液体は彼女の意志を完全に無視し、太ももを伝い、ドレスの裾から滴り落ち、石造りの床に連続した音を立てて落ちていく。

ぽた、ぽた、という音が、最初は小さく、やがて止まらない流れとなって床を濡らしていく。


周囲から、抑えきれない息を呑む音と、短い悲鳴のような囁きが同時に上がった。


「まさか……今……」

「聖女が……公衆の面前で……漏らして……」

「ドレスが……完全に……」

「あんなに派手な衣装が、あっという間に……」


貴族の婦人たちが扇子で口元を覆い、目を見開く。

若い騎士の何人かは顔を背け、年配の貴族たちは鼻に手を当てて顔をしかめた。

微かに立ち始めた湿った臭いが、近くの者たちの間で不快そうな反応を誘う。


フィオナ様は床に膝をついたまま、必死にスカートの裾を掴んで押さえ込もうとした。

しかし指が滑り、布地はすでにびしょ濡れで、彼女の掌まで湿らせていく。

流れは止まらず、彼女の膝下に広がる水たまりが、徐々に円を広げていく。

彼女は自分の汚した液体の中に、直接座り込む形になってしまった。


「いやあああっ!! 見ないで! お願いだから見ないでえええっ!!」

「こんなの……こんなの嘘よ! 私は聖女なのよ! 聖女なのに……!!」

「アルヴィン様! アルヴィン様、助けて! お願い、止めて言って! こんなの認めない!!」


彼女の叫びは、もはや言葉にならない嗚咽と混じり合い、会場中に響き渡った。

顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり、その姿はまるで幼子のようだった。

そこに強気で傲慢なかつての姿は存在しない。

そして流れは止まらない。

彼女が体をよじり、脚を擦り合わせ、何度も何度も下腹部を押さえ込もうとしても、残っていたものが断続的に漏れ続け、水たまりは彼女の膝と手のひらを完全に浸していく。


「……あの夜のエレシア様と、まったく同じだ」

「自分があれほど馬鹿にしていたことを……自分自身が……」

「収穫祭の時、あれだけ執拗に笑っていたのに……」

「因果応報とは、まさにこのことね」


そんな冷たい囁きが、会場のあちこちから漏れ始めた。

以前の舞踏会で、フィオナ様が私の過去を扇子で口元を隠しながら楽しげに嘲っていた事実を、誰もが思い浮かべているのが分かった。

「公衆の面前でみっともなく汚した」「身体の制御すら失って床を汚す」――あの時、彼女が私に浴びせた言葉そのものが、今、彼女自身を残酷に切りつけている。


フィオナ様は床に突っ伏すようにして、両手で顔を覆いながら泣き叫んだ。


「うぅぅっ……いや……嫌あああっ……こんな姿……誰にも見せたくなかった……!!」

「お願い……誰か……誰か隠して……見ないで……お願いだから……!」


けれど誰も動かない。

誰も彼女を布で遮る配慮をする者はおらず、ただ冷ややかな、あるいは哀れみと嘲りを含んだ視線が、彼女の惨めな姿を囲んでいた。

水たまりはすでに彼女の周囲に広がり、ドレスの裾は完全に色を変え、彼女の膝と太ももにびっしりと張りついている。

彼女は自分の体から出た失敗の証から逃げることすらできず、ただその中で肩を震わせて泣き続けていた。


護衛の騎士たちが近づいてきた。


「フィオナ元聖女、これより連行する」


二人の騎士が彼女の両腕を掴み、無理やり立たせようとする。

しかし脚に力が入らず、フィオナ様は膝から力が抜けたまま、引きずられるようにして体を起こされた。


「いやっ! 離して! 触らないで! お願い、まだ……まだ漏れてる……止まってないのっ!!」


彼女の必死の抵抗も虚しく、騎士たちは無言で彼女を引き立てる。

立たされた瞬間、残っていたものが再び彼女の腿を伝って流れ落ちた。

びしょ濡れのドレスから雫が連続して落ち、彼女が引きずられる床に、点々とした湿った跡が残っていく。


「やめてえっ! 見ないで! 後が……後がついちゃう……!!」

「お願い、せめて隠して……誰か……アルヴィン様! 助けてえええっ!!」


フィオナ様は泣き叫びながらもがくが、騎士たちの手は容赦なく彼女を前進させる。

一歩、また一歩。

彼女の足が床を擦るたびに、濡れた靴とドレスの裾から液体が滴り、大広間の床に明確な湿った軌跡を描いていく。

点から線へ。

彼女が通った後には、誰の目にも明らかな「失禁の後」がくっきりと残された。


周囲の貴族たちは、その軌跡を黙って見送った。

何人かは顔を背け、何人かは扇子で鼻を覆い、何人かは小さく失笑を漏らした。


「……道まで汚して……」

「聖女が、こんな無様に引きずられて……」

「エレシア様の時とは違う。あれは一瞬だったが、これは……終わらない」

「国外追放の道中も、こうして後を残していくのかしら」


そんな残酷な囁きが、彼女の背中に突き刺さる。


フィオナ様は最後まで、自分の脚でまともに立つことができなかった。

騎士たちに両脇を抱えられ、ほとんど引きずられるようにして大広間を後にする。

その間も、断続的に雫が落ち続け、床に残る湿った跡は廊下へと続いていった。

彼女の泣き声と、「止まって……お願い……見ないで……」という壊れかけた懇願だけが、遠ざかりながらも長く残響した。


その惨めな軌跡を、私は静かに見つめていた。

一年前の私であれば、同じように衝撃に耐えきれず、身体の制御を失い、床に崩れ落ちていた。

けれど今の私は、胸を張り、冷静にこの場に立っている。

あの時の自分が晒した醜態を、彼女はかつて笑った。

その同じ醜態を、今、彼女自身が、しかもより長く、より無様に晒している。

その対比を、私は静かに、しかし確かに噛み締めていた。


護衛騎士たちが、フィオナ様を完全に連れ出していく。

彼女は最後まで、自分は悪くないと叫び続け、濡れたドレスを引きずりながら、床に残した長い水の跡を後にしていった。

その姿を見つめながら、私は静かに、過去の自分の姿を思い出していた。

あの時、私も同じように、すべてを失う恐怖の中で、この場に立っていた。

けれど今、私はこうして前を向いて立っている。

その違いを、静かに噛み締めていた。

国王陛下は、最後に息子へと向き直った。

 

「王とは、自らの責任を他人へ押し付ける者ではない」

 

その声には、深い失望と、確かな威厳が込められていた。

 

「お前に、王位を継ぐ資格はない」

 

その場で、アルヴィン様の王位継承権が剥奪された。

第一王子から、ただの王族へと降格される。

会場は、水を打ったように静まり返っていた。

 

アルヴィン様は、その場に膝をついた。

そして、初めて心の底から、後悔の涙を流した。

 

すべてが終わった後、レオンハルト様と共に会場を後にする帰り道。

夜風が心地よく頬を撫でる中、彼が静かに尋ねてきた。

 

「辛くなかったか」

 

私は少し考えてから、静かに答えた。

 

「昔の私なら、辛かったでしょう」

 

そう言って、私は空を見上げた。

 

「でも今は……」

 

私はそっと、レオンハルト様の手を握った。

 

「大切な人が、隣にいてくれるので、大丈夫です」

 

レオンハルト様も、静かに手を握り返してくれた。

 

その様子を、遠くからアルヴィン様が見つめていた。

彼は自分が永遠に取り戻せないものを失ったことを、悟ったようだった。

夜空に輝く星々を見上げながら、私は静かに、これまでの道のりを振り返っていた。

失ったものの大きさに、押しつぶされそうになったあの日。

けれど、その先には、確かな成長と、新しい未来が待っていた。

レオンハルト様の手の温もりを感じながら、私は静かに前を向いて歩き続けた。












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― 新着の感想 ―
コルセットで体を締めてはいないのでしょうか? どちらにしてもこれだけ長時間漏らし続けるなら、聖女は特大の膀胱をお持ちですねぇ。
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