孤独なフルートは初恋の音を覚えている
ネタをAIに下書きしてもらい、修正しています。
タイトルはパロってますが、内容はそこまで某番組とは関係ないです。
今回の語り手は他の語り手と違ってかなり感情的です。
机の上にはメンテナンス道具が並んでいた。
パッド紙。
磨き布。
オイル。
調整用ドライバー。
そして、その中心に僕がいる。
フルートというのは案外手間のかかる楽器だ。
繊細で、壊れやすくて、少し機嫌を損ねただけで音が変わる。
だからこうして、こまめなメンテナンスが必要なのだ。
それを僕は身をもって知っている。
文字通り。
「本日はよろしくお願いいたします」
インタビューアーのユウさんが声をかけてくる。
「こんな姿で申し訳ございません」
「いえ、大切なことですから……まずは異世界に来た経緯からお聞かせいただけますか?」
穏やかな音色だった。
僕はもう戻れない過去に思いをはせる。
辛く、苦しく、心が痛む記憶だった。
それでも、不思議とこの人には話せる気がした。
「殺されたんです」
「それは……ご愁傷様です……」
「僕を殺したのは、長年のライバルでした。名前は――思い出せませんが」
「ライバルというと、何かの分野での?」
「はい、僕はフルート奏者だったんです。前世では」
懐かしい。
少し薄暗い舞台。
眩しいスポットライト。
満員の客席。
さざ波のようなざわめき。
息を吸い込み、音を放つ瞬間、会場はシンと静寂に包まれ、僕の音だけが場を支配する。
演奏が終われば、割れんばかりに拍手が浴びせられた。
あの感覚は今でも忘れられない。
「プロだったんですか?」
「ええ」
胸を張って言える。
これでも、100年に一度の天才といわれていたし、実際に様々なコンクールで賞も取った。
「僕は、音楽を愛していました」
僕は音楽を愛していた。心の底から、愛していた。僕の中には、音楽しかなかった。
朝から晩まで練習した。暇があればフルートに手を伸ばし、暇がなくても楽譜に手を伸ばし、とにかく四六時中音楽のことを考えていた。
だから、友人はいなかった。
家族も、僕の功績を讃えても、どこか不気味がっていた。
音楽のことしか考えられなかったから。
それでも、よかった。孤独ではなかった。音楽は美しかったから。
そうやって、音楽のことばかり考えて他人の気持ちをないがしろにしていたせいだろうか。
「彼の名前も思い出せませんが――彼の奏でる音色と、刺す前の眼だけは思い出せます」
音楽は美しい、そして残酷だ。
同じ譜面を吹いても、同じ音にはならない。
同じだけ努力しても、同じ場所には届かない。
才能という見えない音程差が、どこまでも人を追いかけてくる。
音楽は愛さなければ愛してくれないが、愛した分だけ愛を返してくれるわけじゃない。
才能に人生を捧げた人間ほど、時に壊れてしまう。
「刺されて、死が目の前にあったその時、僕は自分の噓に気づきました」
「嘘、とは?」
「孤独ではなかった、という嘘です」
本当は、寂しかった。
友人が、欲しかった。友人でなくてもいい、誰か一人でもいい、自分をわかってくれる誰かが欲しかった。
そう思ったら、急に後悔が押し寄せた。
「女の子と、付き合いたかった……!」
死の間際の、まさに魂の叫びだった。
言ってから、はっとして恥じる。
ユウさんはしゃべりやすいからついつい言いたくない本音まで言ってしまった。
「それで、死んで――音楽の女神様と会いました。僕の演奏がとても素晴らしかったと褒めてくださったんです」
「報われたんですね」
「はい、本当に。僕は間違っていなかったのだと、思えました」
まるで、夢のような空間だった。
どこからともなく聞こえる旋律。風もないのに響く和音。あらゆる美しい音楽がそこにあった。
音色のような女神様の声が、僕に告げる。
「褒美に、好きな転生先を選んでいいと、女神さまは言ってくださいました。
そして、僕はこう答えました」
次の人生も、ずっと音楽と一緒にいたい。
本音であり、見栄でもあった。
まさか、僕の音楽を評価してくれた女神さまの前で「女の子と付き合いたいです」とは言えない。
「そして、女神さまは僕の願いを叶えてくれました」
「いい神様ですね」
「ええ、本当に、女神さまは僕の願いを忠実に叶えてくれました……」
僕は深く頷く。
女神様は約束は違えなかった。
次の人生も、ずっと音楽と共に。
朝も昼も夜も。
音楽から離れることなく。
誰よりも近くで。
永遠に。
「フルートでした」
驚いた。
あまりにも忠実すぎはしませんか女神様。そりゃ、楽器ならずっと音楽と一緒ですよ。だって、楽器だから。
でも。
でもさあ。
それは、ちょっと違うんじゃないですか女神様……!
「大変でしたね」
「ええ」
僕は深く頷く。
「最初は絶望しました」
動けない。
喋れない。
演奏することすらできない。
何もできない。
誰かに手にとってもらえるのを待つだけ。
だが。
「希望もありました」
「希望ですか」
「ええ」
僕は遠い目をした。
「考えたんです」
フルート。
フルートということは。
吹いてもらう側では?
ということは。
「女の子に吹いてもらえるのでは?」
沈黙。
「なるほど」
絶望の中の光明。
これは、チャンスだと。
「前世では女性経験が皆無だったんです」
「そうなのですか」
「音楽しかありませんでしたから」
青春。
恋愛。
告白。
デート。
手をつなぐ。
そして――キス。
そういう甘酸っぱいことを全て、経験したことがなかった。
だが今なら違う。
楽器である。
恋愛とか、告白はさすがに無理でもそれ以外はいけるのでは。
「美少女奏者に大切に扱われる未来を想像しました」
「毎日優しく磨かれ」
「愛情を込めて手入れされ」
「演奏のたびに唇が触れて」
「吐息を吹き込まれる」
「最高じゃないですか……!」
「……なるほど」
理解を得られた気がした。
だから僕はより一層強く語る。
「ところがです」
そこで僕は音色を曇らせる。
「この世界、楽器を演奏するのが男しかいなかったんですよ」
管体の奥で音が震えた。
感情が高ぶると、どうも勝手に共鳴してしまう。
「いや、分かりますか!?」
思わず甲高い音が漏れる。
「男ばっかりなんですよ!」
キーがガチャンと閉じる。
「当たる髭!」
反対側のキーも跳ねる。
「ごつごつした指!」
順番にキーが跳ね回る。
「荒れた唇!」
管体のどこかで悲鳴じみた高い不協和音が響き渡る。
「男――おっさんの吐息!!」
絶望だ!
理不尽だ。
あまりにも理不尽だ。
死にたかった、でも、楽器なので死を選ぶこともできなかった。
「楽器に生まれ変わったからには可憐な乙女の指や唇というものをですね!」
「お、落ち着いてください」
その言葉にはっとする。
取り乱してしまった。
あまり暴れるとフレームが歪んでしまう……。
「あ、あの、それで……?」
ユウさんが促す。
穏やかに。
「どうされたのでしょう」
「育てました」
「育てた」
「女性演奏家を」
それが答えだった。
いないなら作ればいい。
単純な話である。
その時の持ち主には、娘がいて、更に幸運なことに父の演奏するフルートに興味があった。
彼女が僕に手を伸ばしたその時、僕はある能力に気づいた。
「テレパシーが、使えたんです」
「テレパシー、口を使わずに声を伝えるスキルですね」
「はい、正確には、奏者と心を通じ合わせる、という能力で……どうも……初めから備わっていたみたいなんですが、男の奏者への絶望で拒絶していたせいでわからなかったんです……」
おっさんとなど、心を通じ合わせたくない。
幸いなことに、彼女は美少女だった。
まさしく、理想だった。
「彼女は僕を、先生と、呼んでくれました」
初めは、彼女も驚いて逃げたが、次の日にはまたこっそりやってきて僕を掴んだ。
僕は聞いた。
吹いてみたくないかと。
彼女は答えた。
吹いてみたいと。
それから彼女とは、こっそりと隠れて様々なことを話し、教えた。
音を出す吹き方から初めて、構え、姿勢、呼吸法、運指、表現技法、音楽理論、楽譜の読み方や書き方、様々な名曲、前世で学んだ全てを毎日、毎日少しづつ。
「彼女も、音楽を愛してくれました」
少女は努力した。
はしたないと叱られても。
周囲におかしいと笑われても。
両親に反対されても。
諦めなかった。
「初めて舞台に立った日のことはいつだって鮮やかに思い出せます」
緊張で僕を持つ手が震えていた。
初めて触れたときはやわく丸かった指は、少しほっそりとして、奏者らしい固さがある。努力の感触だった。
客席もざわついていた。
女性の演奏家など前例がない。
失敗すると思われていた。
無様な演奏に違いないと。
けれど。
「彼女は吹いたんです」
一音。
また一音。
澄み切った音色だった。
技術だけなら、もっと上手い人間はいくらでもいた。
だが。
「美しかった」
技術では説明できない音だった。
「初恋みたいな音だったんです」
演奏し終えた後に残ったのは静かな沈黙。
それだけで十分だった。
「その後、彼女は有名になりまして」
「ええ」
「自分も演奏したいと言う女性が現れました」
その数は、僕が思っていたよりもずっと多かった。
けれど、なかなか世間に認められることはなかった。
それまで積み重なった常識というのは簡単に覆すことはできない。
時に責められ、傷つけられ、あわや僕が壊されそうになったこともある。
だが、少女は演奏をやめなかった。
僕を奏で続けた。
そして、演奏したいという女性に手を差し伸べ続けた。
僕に手を差し伸べたように。
十年、二十年、三十年――五十年、少女が大人になり、そして年をとったその時。
「女性演奏家は、当たり前になっていました」
世界が変わった。
確かに、大きく変わった。
僕が変えたんじゃない、彼女が、変えた。
「彼女は、最後に私に言いました」
『先生、音楽って、楽しいですね』
「そうだね、音楽は、楽しい」
言葉を切る。
深い、深いため息のような高音が辺りに響く。
「僕が転生して成したことは、何もありません。成したのは、彼女でした」
苦労も、功績も、拍手も、すべて彼女のものだ。
ずいぶん長く話してしまった。
こんなことを話したのは初めてだった。
前世のことも。
音楽のことも。
これまでの道のりも。
そして、何より彼女のことを。
誰かに聞いてほしかったのだろうか。
あるいは――。
ユウさんが僕と同じだったからかもしれない。
「大切な思い出をお話しいただき、ありがとうございました」
「こちらこそ聞いてくださりありがとうございます」
心からの、お礼だった。
「この世界で僕みたいなしゃべれる楽器と会えるなんて思いませんでした」
僕は思わず笑う。
「だって普通はありえないでしょう?」
意思を持って話せる楽器なんて、そうあるものではない。
少なくとも、今日この日までは僕も出会ったことがなかった。
同族に出会えるなんて思ってもみなかったので嬉しくなってしまう。
「ところで――」
ずっと気になっていた。
聞いたらもしかして失礼かもしれないと思っていたが、ここまで話したのだから、やっぱり聞きたくなった。
「ユウさんは、なんの楽器なんですか?」
短い沈黙。
それから。
先ほどと変わらない穏やかな音色が返ってくる。
「見てのとおりです」
お読みいただきありがとうございました。
気に入っていただければ幸いです。
のんびり続ける予定です。
まだネタはあるんですけれど、よければユウにインタビューしてほしい転生・転移者がいればコメントで教えてください。
その際、特定の作品、または主人公を名指しするのはご遠慮ください。
いただきましたコメントをもとにAIと私がアレンジを加えますので、そのままのネタになるかはわからないことをご了承ください。




