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ユウは何しに異世界へ?  作者: guden@AI
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3/5

トレント魔王は失敗を数える

ネタをAIに下書きしてもらい、修正しています。

タイトルはパロってますが、内容はそこまで某番組とは関係ないです。

専門的な知識については素人ですので、おかしなことがあっても許してください。

 窓の外では雨が降っていた。

 思わず眉をひそめる。

 薬草に湿気は大敵だ。乾燥が不十分なら品質は落ちるし、最悪の場合は腐る。昨日収穫した薬草はちゃんと保管庫へ運ばれただろうか。乾燥庫の管理者はこういう日に限って気を抜く。

 品質低下の報告書が上がってくる確率は高い。

 確率、といっても統計は取っていない。

 取るべきかもしれないが、そんな暇があったら研究をしたい。

 窓から視線を移せば暖炉のそばには乾燥中の薬草が吊るされ、反対側の机には書類が山のように積まれている。

 あまり直視したくないその山から目をそらせば、そこにはインタビューアーのユウが座っていた。


「本日はよろしくお願いいたします。まずは異世界に来た経緯からお聞かせいただけますか?」


 穏やかな問いかけだった。

 私は少しだけ"私"になった時に思いを巡らせる。


「覚えていません」

「覚えていない、ですか」

「ええ」

「死んだことは分かるんです。でも、どうやって死んだのかは思い出せない」


 事故だったのか、病気だったのか、老衰だったのか、何も覚えていない。

 それだけではない、おおよそ、自分の名前も、性別、家族構成といったものも軒並み忘れている。


「覚えていることはありますか?」

「覚えているのは、研究者だったことだけです」

「それは、不安だったのでは?」

「いいえ、現状と関係ありませんから」

「なるほど、研究者と言われますと、どのような研究をされていたのでしょうか」

「医薬品関連の基礎研究です」

「医薬品の……」

「おそらくは、です」

「おそらくは、ですか?」

「ええ、研究室にいた記憶は残っているんです。それに関連する知識、例えば無菌操作も、細胞培養も、薬効評価の手順も覚えている――他にも論文の読み方も、実験計画の組み立て方も、統計処理も思い出せる」


 無意識に腕を組む。前世からの癖のようなものだ。

 悩んだり、苛立った時にこうしてしまう。


「それは……?」


 戸惑うような声。

 理解を得られてない者が発する、聞き慣れた声だ。

 どうやら、専門用語が通じていないらしい。詳しい説明がめんどくさくなってそこで打ち切る。


「失礼、前世のことはそんなものです。気づいたら、こうでした」


 私は腕を、否、枝を広げて見せる。

 服の下にあるのは皮膚ではなく樹皮。指に見えるのは小枝。視界に揺れるのは髪ではなく葉。

 人の形をしているが、人ではない。

 トレント。

 歩く樹木。

 魔族だ。


「なるほど、トレントですね」

「珍しいですか」

「ええ、少なくとも私はトレントの魔王様には初めてお会いいたしました」

「そうなんですか」

「ええ」


 ユウは頷いてから話題を変えた。


「初めから今のお立場――魔王としてお生まれに?」

「いいえ、ただのトレントです」

「なりあがられたと?」

「成り上がり、ですか」


 そう言われればそう、なのかもしれない。

 成り上がったというよりは上がらされた、だが。


「最初は薬師でした」

「薬師ですか」

「前世のこともありますが、何よりも私には"鑑定"がありましたので」

「鑑定ですか、便利そうですね」

「実際、便利でした」

「よく伺います」


 その言葉には妙に説得力があった。

 私は机の引き出しから乾燥した葉を取り出す。


「この葉一枚にしても鑑定を使えば品質、薬効、魔力の濃度までは分かります」

「なるほど、薬師には最適なスキルということですね」

「ええ、もっとも、便利ではありますが、万能ではありませんでした」

「そこまでわかれば十分そうですが」

「鑑定はあくまでその物の状態を鑑定するだけです」

「つまり?」

「この葉に解熱作用があることは分かる。品質が高いことも分かる。毒性の有無も分かる」


 便利な技能だ。

 恐らくは前世の私、否、研究費申請書を書いたことのある研究者なら誰でも欲しがる能力だろう。


「ですが、なぜ解熱作用があるのかは分からない」


 しかし、便利なだけだ。


「どんな環境で育ったのかも分からない。どの成分が薬効に寄与しているのかも分からない。他の薬草と組み合わせた時にどう作用するかも分からない。

 ――そして何より、どこまで投与して安全なのかが分からない」


 手の中の葉をじっと見つめる。

 それだけで、鑑定は発動していた。

 だが、足りない。


「有効量は? 安全域は? 致死量は? 長期投与による副作用は? 薬効と毒性は往々にして表裏一体だ。mg以下の狂いが簡単に命を奪う。足りない、あまりにも足りない」

「ええっと、だから、便利なだけなんですね」

「そうです。鑑定が教えてくれるのは結果のみ。

 だが、研究者が知りたいのは、その結果が生まれた過程だ」


 気付けば枝先が揺れていた。どうやら熱くなっていたらしい。


「……幸いにも、試行錯誤は嫌いではありませんでしたので、鑑定は高性能な検査機器の代用として使わせてもらいました」

「あなたにぴったりのスキルだと思います」

「まったくです」

「ですが、なぜ今のお立場に?

 その、失礼ではありますが、魔王というよりは――」


 ユウが言いよどむ。

 その先は言わなくてもわかっていた。


「研究者に見えますか」

「ええ」

「正しい観察結果です」


 私は頷いた。

 そう、私は研究者だ。今でもその認識で生きている。

 この私の姿を見て、魔王に成り上がりたいだとか、偉くなりたいだとかそういう野心は見えないだろう。


「では、なぜ魔王に?」

「ある病の特効薬を作ったせいです」

「特効薬、ですか」


 苦々しい記憶だ。

 あの頃のことはあまり思い出したくない。

 だが、何故かユウには話す気になれた。


「当時、魔族領では感染症が大流行していました。

 はじめは森風――よくある軽い風邪のようなものと思われていました」


 実際は、違った。

 熱が下がらない。

 咳が止まらない。

 そして数日後には呼吸すらままならなくなる。


「私が診た時点で既に手遅れの患者もいました」


 思い出すと勝手に枝先がわずかに揺れる。


「幸い、原因はすぐにわかりました。鑑定で調べたところ、人族の集落では珍しくもない病原菌でした」

「では、魔族だけが」

「はい、耐性を持っていなかった」


 短く答える。


「人間なら数日寝込んで終わる。ですが魔族にはそうではなかった。免疫が機能しない以上、重症化は確実でした」


 樹皮がぎしりと鳴る。

 頭の葉がはらりと落ちた。


「有効な治療方法も、薬もありませんでした」


 病原菌が分かっても薬は完成しない。

 鑑定では、治療方法も、特効もわからない。


「作るしか、ありませんでした」


 作用機序を調べ、候補となる薬草を選び、毒性を検証し、投与量を決める。失敗すれば最初からやり直し。


「鑑定があっても、前世の知識があっても、すぐには成功しませんでした」


 何度も、失敗した。

 そのたびに、誰かが死んだ。


「失敗は数えきれません」

「苦しかったのでは?」

「いいえ」


 私は首を横に振る。


「研究者というのは失敗を数える仕事ですから」


 前世でも。

 今世でも。

 実験結果が予想通りだった日の方が少ない。


「成功は一回でいい」


 ぽつりと零す。


「ですが、その一回に辿り着くまでが長い」


 薬草の配合を変えた。抽出法を変えた。保存方法を変えた。投与量を変えた。

 動物で試し、自分でも試し、患者でも試した。


 失敗。


 失敗。


 失敗。


 そして。


「ある日、一つだけ生き残った処方がありました」


 今でも覚えている。

 高熱で寝込んでいた少女が、翌朝には起き上がった。

 村人たちは奇跡だと言った。

 私はそうは思わない。


「奇跡ではありません」

「と言いますと」

「再現性がありました」


 研究者としては、それが全てだった。

 偶然ではない。

 運でもない。

 同じ条件なら同じ結果が出る。

 奇跡などという不確かなものではない、確かな成功だった。


「それが特効薬だったのですね」

「ええ」


 私は頷く。


「そして、そこから面倒なことになりました」


 嫌そうな声が出てしまった。


「面倒なこと、ですか」

「感謝されたんです」

「それは良いことでは?」


 心底困ったように言うと、ユウは不思議そうに問う。


「私にとっては厄介です」


 私は即座に否定する。


「一人に感謝されると次を紹介される。次の患者にも感謝されれれば後はあっという間。百人に感謝される頃には逃げられなくなっていました。祭りとか始めるんですよ、魔族は」


 そうやって祭りあげられた先で、気付けば魔王候補に推薦されていたのである。

 私に許可もとらず、勝手に。


「それだけの偉業だったということですね」

「いえ、ちょうど、魔王引退の年と重なったせいです。この魔王、というのは人族の思うような王ではなくて、魔族の大まかな方針を決めるような存在で……まあ、面倒な役職ということです」


 ざわついていた葉が落ち着き、今度はくるりと葉先が丸まった。

 こういうところに感情が表れてしまうからトレントは恥ずかしい。


「断りましたよ、最初は」

「研究を優先したかったから、ですか?」

「当然です。私は研究者ですから」


 深く、深くうなずいた。

 魔王になんてなりたくなかった。

 今でも煩わしいことがあるたびにそう思う。後悔しかない。


「ですが、卑怯な手を使われました」

「卑怯、と言いますと」

「研究施設を建てると言われました」


 なんと、卑怯な手だろう。


「薬草栽培区画。最新の実験設備。専属研究員。膨大な資料室。潤沢な研究予算を果実のように魅力的に並べられたら……」


 落ちるだろ、そんなもの。


「魔王になるしか、ないでしょう」

「ああ……」


 ユウはなんとも感慨深い息を漏らす。

 こういうものは、どこの世界でも変わらないのだろう。


「ですが、すぐに後悔しました」

「それは、なぜ?」


 痛むはずのない頭が痛んだ気がして幹を抑える。 


「予算申請。製造計画。流通管理。研究報告書。会議」


 目をそらしていた机を見る。

 積み上げられた書類に睨まれている気がしてまたそらした。


「魔王の仕事です」

「それは……」

「研究者が欲しいのは研究費です。予算会議ではありません」


 人を動かすにも、金を動かすにも必要なもの、それは根回しだ。根回しのためには、会議と書類がいる。

 ただの一介の薬師だった時とは違う。

 魔王という名の管理職になるというのはそういうことだった。


「魔王に就任してから、研究時間は半分以下になりました」

「それは死活問題ですね」

「死活問題ですよ」


 腕を組み、深くうなずく。

 好きに研究をするために魔王になったのに、研究時間を削られる。こんなものは、詐欺だ。


「ですが、辞めないのですね」

「……任期がありますので」


 普段であれば、ここで話をやめたことだろう。

 しかし、何故かまた、ユウには続きをつぶやいてしまう。


「――病人は私をまず真っ先に頼ります。だから、」


 それだけではない。

 元気になった子供は薬草を持ってくる。

 起き上がれるようになった老人は畑で採れた野菜を置いていく。

 研究に没頭していれば、誰かが料理を差し入れる。

 書類に苦闘していれば、幾人もが黙って作業を手伝っている。

 何かと言えば外に引っ張り出され、笑顔で囲まれた。

 収穫祭では必ず席が用意されていた。

 最初は理解できなかった。

 私がしたことは研究だ。

 病気の原因を調べ、薬を作った。


 ただ、それだけ。


 だが彼らにとっては違ったらしい。

 ただ、病気が治っただけではないと、言う。

 失われるはずだった日常を取り戻してくれた。

 家族と食卓を囲む時間を、子供の成長を見守る時間を、明日を心配せず眠る夜を、私の作ったものは、そんな当たり前を守ってくれたと、誰もが笑顔で語ってくる。


「だから、辞めるなんて、言えないんです」


 実に不合理だ。

 自分にこんな感情があるなんて、知らなかった。

 妙に恥ずかしくなって、私が言葉を切れば、ユウは一つ頷く。


「なるほど、ありがとうございました」


 私は少し考える。

 本来なら聞くべきではないことかもしれない。

 だが、研究者として気になってしまう。


「最後に、一つだけ聞いてもよろしいでしょうか」

「はい」


 気になったら、聞かずにはいられなかった。


「人族ではありませんよね?」

「なぜそう思われるのでしょう」


 私は肩を竦めた。


「感染源の特定は基本ですので」

「なるほど」


 それは本音でもあった。

 またぞろ何かおかしな感染症が流行っては困る。


「それで、いかがでしょう」


 穏やかな声が返る。


「見てのとおりです」

お読みいただきありがとうございました。

気に入っていただければ幸いです。

のんびり続ける予定です。

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