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ユウは何しに異世界へ?  作者: guden@AI
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2/5

悪役令嬢は焼きたての香りを追いかける

ネタをAIに下書きしてもらい、修正しています。

タイトルはパロってますが、内容はそこまで某番組とは関係ないです。

悪役令嬢ものとして、少し情緒的な描写を入れているため、前回よりも少し長いです。

 うららかな日差しが庭園を照らしていた。

 色とりどりの花々が風に揺れ、遠くで鳥がさえずっている。白い東屋の天蓋を抜けた春風が、ほんのりと紅茶の香りを運んだ。

 向かいに座る相手がカップを置く。

 ちょうどそのタイミングで侍女のメアリーが近づき、冷めかけた紅茶を新しいものへと取り替えた。


「……失礼致します。何かございましたらお声掛けください」


 深々と頭を下げ、メアリーは静かに下がっていく。無表情を装っているが滲み出る心配の色が隠せていない。

 私はその背中を見送りながら苦笑した。


「すみません。過保護なんです」

「慕われているのですね」

「そうみたいです」


 少しだけ照れ臭い。

 昔は違ったのだけれど。


「本日はよろしくお願いいたします。まずは異世界に来た経緯からお聞かせいただけますか?」


 庭園に拭く風のように穏やかな問いかけだった。

 私はカップを手に取り、小さく息を吐く。


「交通事故です」

「と、言いますと」

「スマホを見ながら横断歩道を渡っていたらトラックが来ました」

「なるほど」

「お約束ですよね」

「よく伺います」


 なぜだろう。

 インタビューアー……ユウさんのその言葉には妙に説得力があった。

 私は肩をすくめる。


「それで気が付いたら乙女ゲームの悪役令嬢になっていました」

「驚かれたでしょう」

「ええ。だって知ってる世界でしたから」


 前世で何周もプレイしたゲームだった。

 攻略対象も、イベントも、スチルも、隠しルートも、様々なメディアミクスも全部網羅した大好きな乙女ゲーム。

 だから、 


「私の末路も知っていました」

「どのような」

「婚約破棄からの国外追放です」


 さらりと言う。

 今だから言える。

 当時は笑えなかった。


「ゲーム開始時点で十二歳だったので、絶望しました」

「絶望、ですか」

「ええ、その年に私は王子様と婚約するんです。何の自覚も準備もできないまま」


 あの時を思い出すと恥ずかしくなる。ベッドで婚約したくないと泣きじゃくったし、お嬢様にあるまじき大暴れまでしてしまった。

 おかげで躾に厳しかったメアリーは過保護になった。


「断罪回避は難しかったと」

「難しくはありませんでした」


 私は紅茶を一口飲む。

 上質なミルクと砂糖の甘い紅茶。

 ついで、皿に並べられたクッキーに手を伸ばす。

 噛めばさくり、ほろりと崩れて舌の上で溶け、ほどよい甘さとチョコのほろ苦さを感じた。


「嫌われなければいいだけでしたから」

「なるほど」

「問題は、私が悪役令嬢のことを好きだったことですね」


 風が花壇を撫でる。

 薔薇の香りがふわりと漂った。


「悪役令嬢のこと、がですか」

「大好きでした」

「意地悪で高飛車で素直じゃない子でしたけど、ちゃんと努力家だったんです」


 ゲームの中では描かれない部分も設定資料集を読んで知っていた。

 朝は日の出前に起きて歴史や法律を学び、昼は王妃教育、夜は外交用の外国語や礼儀作法の勉強。

 舞踏会で恥をかかないよう何度もダンスを練習し、スプーンの上げ下げ一つでも家庭教師に厳しく指導されていた。

 同年代の子供が遊んでいる時間も、彼女はずっと机に向かっていた。

 疲れていても、辛くても、お茶会では笑顔を絶やさず、舞踏会では誰よりも美しく振る舞う。

 誰よりも努力していた少女。

 その裏でどれだけ努力していたか、プレイヤーには見えないだけだったんです。

 それなのに。


「主人公に負けるためだけに存在していた」


 胸が痛んだ。

 こんなに、頑張っているのに。


「だから婚約破棄を回避したかったわけではないんです」

「では?」

「幸せになってほしかったんですよ」


 それだけだった。

 だから、私も頑張れた。

 そして、彼女の見落としていたものを拾った。

 勉強や王妃教育も大事だけど、それ以上に周囲に気を配った。

 使用人とも話した。

 家族とも向き合った。

 本当の友人もたくさん作った。

 そして何より、王子様との関係改善に奔走した。

 気付けば。


「婚約者より人気になっていました」

「それはまた」

「王子様が焦っていましたね。嫉妬もされたし、喧嘩もしました」


 思わず笑う。

 懐かしい。


「では、婚約破棄は」

「婚約破棄、されませんでした」

「成功ですね」

「いえ」


 私は首を振った。


「私から婚約解消しました」


 庭の噴水が静かな音を立てる。

 少しだけ間が空いた。

 でも、焦らない。丁度いい間だった。


「理由を伺っても?」


 私は少しだけ考える。

 どう説明すればいいだろう。

 たぶん、とてもくだらない理由だ。


「お菓子を作りたかったんです」

「お菓子、ですか」

「ええ」


 周囲との関係を改善するために悩んだ結果、私は厨房に通っていた。

 前世の知識も使えた。

 珍しいお菓子を作ると、みんな喜んでくれた。

 それが嬉しかった。


「ある日気付いたんです」

「何にでしょう」

「私、お菓子作りが好きなんだなって」


 窓の外で風が花を揺らした。


「前世でも母とよく作っていたんです」


 初めて作ったクッキー。

 上手にできたパウンドケーキ。

 失敗して膨らまなかったシュークリーム。

 バレンタインのガトーショコラ。

 誕生日の大きなショートケーキ。

 休日の台所。

 甘い匂い。

 母のやわい声がレシピを教えてくれる。

 今となっては遠い記憶だ。


「不思議ですよね」

「と言いますと」

「異世界に来ても、バターを練る感触も、生地を混ぜる感覚も変わらなかった」


 だから少しだけ思えた。

 私は確かに別の世界から来たのだと。

 そして。

 あの頃の家族との時間は、今も自分の中に残っているのだと。


「だから思ったんです」

「はい」

「王妃になったら気軽にお菓子を作れない、作ってる場合じゃないって」


 沈黙。


「それが理由ですか」

「一番の理由です」

「なるほど」


 否定されなかった。笑われなかった。ありのままの事実をありのまま受け入れた相槌だった。

 だから、ユウさんにはすらすらと話せてしまう。


「それでは転生して一番大変だったことは?」

「お菓子の材料集めですね」

「材料ですか」

「ええ」


 私は即答した。


「砂糖が高いんです」

「なるほど」

「牛乳もバターもチーズも生産が安定しませんし、小麦も品質がばらばらで」

「深刻ですね」

「死活問題でした」


 真顔で言う。

 実際、深刻だった。

 中世レベルの材料では理想の焼き菓子が作れない。

 これほど悲しいことはない。


「なので改革しました」

「改革ですか」

「酪農と農業を」

「規模が大きくありませんか」

「必要だったんです、切実に……!」


 良い牛乳が欲しかった。

 良い小麦も欲しかった。

 結果として。

 品種改良。

 灌漑整備。

 流通改革。

 乳牛の育成。

 保管技術の向上。

 上げれば数限りなくやることがある。


「牛が病気になれば牧場へ走りましたし、小麦の収穫量が落ちれば畑にも行きました。

 商人と値段交渉をして、職人と保存方法を研究して、気付けばお菓子屋より農業家みたいになっていました」


 時間も、お金も、労力もかかった。

 ただ、理想のお菓子が作りたい、その一念でのみでがむしゃらに続けた。

 気付けば、なぜか国の食料事情そのものを改善していた。


「それで今は」

「王都で一番人気のお菓子屋です」


 少しだけ胸を張って笑う。


「お見事ですね」

「ええ」


 私は少しだけ笑う。


「全部、おいしいクッキーを焼くためですけど」


 よければどうぞとユウさんにもクッキーを差し出す。


「おいしいです」

「私が焼きました」

「これは、貴方の努力の味ですね」


 そう、血と汗と、努力の味だ。

 ただし、私だけのものではなく、関わった全ての人の、努力の味。


「ありがとうございます」


 窓の外では花壇の花々が揺れている。

 紅茶をもう一口。

 ずいぶん長くしゃべったせいか、冷めた紅茶に苦みを感じる。

 その苦みに、思わず小さなため息が零れた。


「でも、正直なところ」

「はい」

「王子様たちとは、もう少し距離を置きたかったですね」

「攻略対象の方々ですか」

「ええ」


 思わず苦笑する。


「悪い人たちじゃないんです」


 むしろ善人だ。

 優秀で、誠実で、責任感もある。

 だから困る。


「皆さん話を聞かないんですよ」

「そうなのですか」

「説明しても突っ走るんです。止めても突っ走るんです」

「なるほど」

「しかも本人たちは善意なんです」


 それが一番厄介だった。

 助けようとしてくれる。

 守ろうとしてくれる。

 大切に扱ってくれる。

 ありがたいことなのだろう。

 けれど。


「疲れるんです」


 ぽつりと漏れる。

 こんなこと、誰にも言ったことはなかった。


「……疲れるし、邪魔なんです」


 心配されるのも、守られるのも、助けてくれるのも、うれしかった。うれしかったけど、邪魔だった。

 現実は、ゲームと違う。

 綺麗ごとだけじゃ何もできない。

 守られて、助けられて、ガラス細工みたいに大切にされるだけでは、何もできない。

 だけど、彼らは私に少しの汚れも、苦労も、傷も、許そうとしなかった。

 大好きなお菓子作りにすら口出しをして、止めようとする。

 君のためだ。

 危ないからやめろ。

 苦労はしなくていい。

 そんな言葉ばかりだった。

 だから――


「君のため、君のため、君のためって……うるさいんですよ!」


 思わず語気が強くなる。

 ああ、いけない。淑女失格だ。

 一つ、こほんと咳をして仕切り直す。


「……焼きたてのクッキーをほうばるくらい、いいじゃないですか。少しくらい火傷したって、焼きたての誘惑には敵わないんですから」


 結果として、全員追い払った。


「それは……大変でしたね」

「男性が少し苦手になりました」


 また婚約だの求婚だの言われたらたまらない。

 私はただ、お菓子が作りたいだけなのだ。

 そして、こうして、お茶を飲みながらお菓子を食べて。

 友人とおしゃべりして。

 そのくらいで十分幸せだった。


「だからでしょうか」

「はい」

「こうして女同士でお茶を飲みながら、他愛ない話をするのは楽しいですね」


 風が吹く。

 ティーカップが小さく音を立てた。

 穏やかな午後だった。

 私はそこでふと首を傾げる。


「そういえば」

「はい」

「失礼でしたら申し訳ないのですが」


 少しだけ迷う。

 けれど、聞いてみたくなった。


「ユウさんって、女性ですよね?」


 短い沈黙。

 そして穏やかな声が返ってくる。


「見てのとおりです」

お読みいただきありがとうございました。

気に入っていただければ幸いです。

のんびり続ける予定です。

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