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明殺者  作者: 卯の雛
S2. 芽吹く青、木洩れ陽の許
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S2-par.15 『成果求めた合流点』

 ナツキと一対一の特訓を始めてから日をまたいで、ツクヨは休日に呼び出されていた。前日に明日もあるからとだけ言い渡され、返事も待たずに帰ってしまったので来る他になかった次第である。


「今なんて?」

「待ってろっつったんだよ。こんな静かなとこで聞き逃すとか、頭働いてなくない? 夜更かしか、悩み事とか。アタシが聞いてやろうか」


 休日でも特訓ならと気炎をあげて挑みに来たにも関わらず、ただただ待ちぼうけさせられそうになる。ツクヨもいよいよ立ち飽きてナツキの隣に腰を下ろした。ベンチに座って脚を交互にぶらつかせる。ツクヨは物憂いに空を見上げた。


「あーあぁ。結局ヒナコちゃん、一週間も特訓来なかったし」

「まだ四日だよ」

「ミッションもクリアできてないし」

「まだ時間はあんでしょ」

「結局六つ動かしたら動けないし」


 七つの光球から蜂の巣にされ続けて数日、無我夢中で対抗しようと試みるが、気力(きりょく)の消費が激しくまともな動作もままならず、すぐにバテては打ちのめされる始末。今のところツクヨに成功した記憶はない。


「ま、そろそろいいだろう」

「何がですかぁ」


 ナツキは立ち上がると、ツクヨにも促す。


「立て。アスピュレータを準備しろ」

「特訓ですかぁ」

「いいから」


 ツクヨは黙って身を立てると、いい加減飽きてきたと言わんばかりにARK(アーク)を握る。光が彼女を包む、と思いきやすぐさまはじけて装備後の姿になっていた。初めから射撃板も形成されている。


「いいですよぉ、どうぞ〜」


 流れ作業よろしく、一回の跳躍で距離をとる。やられ慣れてきたとでも訴えているようだ。そんな脱力したツクヨに、ナツキは少し刺激を与えることにした。


「今回は少し趣向が違う。やることは同じだが、十秒耐えてみろ。威力は抑える」

「シショーの抑えるは抑えるじゃ――」


 文句の途中でツクヨが息を止めて横に跳ぶ。ツクヨがいたはずの位置で瓦礫片が砕ける。かがめた姿勢を無気力に戻し、諦め気味に射撃板を浮かせた。


「まぁた急に始めるんだからーもぅ!」


 射撃板を六方向に広げ、相手の状態を確認する。片手は腰に当てて光球は七つ、本人が動く気配はない。把握したのもつかの間、ツクヨの視線がナツキに向いたことを察知し、光球が無数の線を伸ばす。

 ナツキは一体どこを抑えているのか、ツクヨは完全に回避に専念する。射撃板も一枚ずつ意識し、微量の光線を相殺させる。何をするべきかや何を思っていたかなど、そんな暇はない。ナツキに良いように遊ばれている状況は続き、ツクヨの気分が悪くなってきたところで攻撃の雨がやんだ。


「オーケーご苦労さん」

「次は合図くらいしてくださいよねぇ」

「いいじゃん。もう慣れたでしょ?」


 両膝に両手を置き息急くツクヨの姿が、彼女のナツキへの答えだ。終わったならとアスピュレータを解除しようとする。ところがナツキの本題はここからだった。


「休んでもいいがまだだ。そのままよく見な」

「顔上がんないですぅ」

「射撃板しまえば?」


 ツクヨはギリギリで息を整えて言われた通り射撃板を消す。少しして顔を上げるが、特別疑問点は見つからない。


「いつも通りじゃないですか」

「これこれ」


 ナツキが指し示したのは光球。見渡してみると、浮いているのがひとつだけだと気づく。


「シショーもしまったんですね。でも終わったから普通じゃないですか」

「しまったのは攻撃の最中だよ」


 理解するのに時間がかかる。最初の返事は、理解し終わる前に漏れ出る。


「はぁ?」

「まっ、気づいてないわな。一個ずつ減らしてたんだよ」

「でも光線は同じくらいすごかったですよ!」


 ナツキは黙して手を伸ばす。光球が輝き、誰もいない場所に光線を放った。答え合わせは実演で、と。その光線の密度は、先ほどまでツクヨが受けていたものを上回っても見える。光量音量ともに光球ひとつから生まれた攻撃だとはとても思えない。


「アタシがオマエらに本気出しことは一度もねぇよ」

「すっごぇ……」

「つーかさぁ、言いたいのはそこじゃなくてな?」


 ナツキは光球を光の粒に変えて、ツクヨに歩み寄る。


「ツクヨ、光球一個に射撃板何枚使った?」

「何枚って、それは」


 ツクヨの瞳がこぼれそうに見開かれる。十秒で体力の限界に達したとはいえ、確実に六枚を起動させていられたのだ。


「うまくいったな。ツクヨ」

「シショーぉ!」

「でも喜ぶのは早いな。見てたけどさ、即行でバテるわ一枚ずつしか扱えないわじゃ話にならん。それにまだ成功したのは一回だけだ。相手が誰でも戦えるようにしたい。ま、それは任せたらいいか」


 そう言ってナツキは腕時計を見る。次にプレハブ小屋に目を向けた。


「とりあえず休め。五分から十分。回復したら戻ってこい」


 ナツキに言われたように、ツクヨは疲れた体を休めに小屋の中に向かった。ナツキも外のベンチに腰掛ける。彼女は約束の時間を待っていた。




 ナツキがツクヨを呼び出した前日、模忍(もにん)高校の放課後にて。ツクヨの特訓の場に向かう前の時刻、ナツキはある人物に声をかけられていた。


「ナツキ先輩」

「随分と親しい呼び方だね」


 背後から呼ばれたナツキが振り返ると、そこにいたのは他の者よりはつながりのある少女だった。


「ツクヨのおねーさん」

「名字で呼ばれるのはお嫌いだと伺ったのですが、心得違いでしたか?」

「全然。間違ってるとしたら話し方かな。かったいよぉ」

「ツクヨがお世話になっていますので」

「ああ、何、お礼? それで呼び止めたの?」

「それだけではありませんね」


 マシロはナツキに歩み寄ると、一枚の紙を渡した。


「ナツキ先輩に伝言です。私の口から伝えるのは違うでしょうから」


 翌日になった今、ツクヨが休んでいる間にナツキはその紙を読み返す。


『誰から?』


 その答えも紙に記されている。


「――明日のお昼に来てください。ツクヨちゃんにも伝えてほしいです。なんとかして来ました」


 小声で読み上げて、その紙をポケットに戻す。遠くを眺めて、ドミノ倒しが見事に倒れきったほどに笑みを浮かべる。


「キミが一枚噛むのは意外だったよ。どうせなら妹に手を貸すよなぁ」


 眺める視点が徐々に近くなり、よくも命令してくれたなと顎で早足を要求する。そのとき、小屋のドアが騒音を生む。


「ふっかーつ!」


 休憩に入ってから六分弱、予定のうちで少し早い帰還。ナツキは厄介に思うような胸弾むような、初見の敵と遊ぶときの気分で立ち上がる。


「仲いいな。ほぼ同時じゃん」

「ほぇ?」

「よぉ! アタシとは久しぶりだな。呼び出し料は高く見ときなよ」


 ナツキがツクヨ以外に話しかける。振り向けばツクヨもすぐに分かる。学校では毎日顔を合わせている友人。


「支払いは、今日の成果でいいですか?」

「ヒナコちゃん!」


 ヒナコがナツキの立つ場所まで着く前に、ツクヨが駆け寄って抱きついた。


「ヒナコちゃーん! もう会えないと思ったよぉ〜」

「うん、きのうも会ってるけど。ただいま」


 ツクヨに組みつかれて動けないヒナコに代わり、ナツキの方から近づく。ヒナコは初めてこの場所で会ったときに見せた、挑発的な目でナツキと会話する。


「首尾は?」

「ツクヨちゃんと同じくらい。だといいですが」

「はっ! どっちの意味かねぇ」


 調子が悪くてうまくいかず、しょぼくれていたヒナコではない。ナツキの前に立っているのは、挑む者の姿だ。


「ツクヨ、そろそろ離れろ。準備だ」

「むぁ? また特訓ですか?」

「いんや」


 ナツキはツクヨからヒナコに目線を移し、再びツクヨを見て答えた。


「ミッションだ」

「ミッションって、シショーの⁉」

「今日の本命はこっちだったってわけよ。なぁ? ヒナコ。わざわざ休みに集めたのは、アタシに挑戦する準備ができたからだろ?」

「えっ、今日呼んだのってヒナコちゃんなの⁉」


 ヒナコはARK(アーク)をわざとらしく握って見せつける。


「準備はきっと不十分です。でも、挑戦する覚悟はしてきました。同じ失態はさらしません」

「別の失態を見せるのかな?」

「別の人が披露してくれるのかも知れませんよ」


 両者自信があるのだろうか。一歩も引かずににらみ合う。傍のツクヨは、打ち合わせしたほどに進む会話について行けていない。ただただ二人を交互に見るばかり。そんな彼女にヒナコが手を差し出す。


「やろう。ツクヨちゃん」


 ツクヨには小難しい考えより、目の前にぶつかっていく方がむいている。


「うん。やろう!」


 ミッションスタートだ。

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