S2-par.12 『結果求めた分岐点』
最後のミッションが課せられた翌日、本日の授業もすべて終わり時刻は放課後。ツクヨが今日も今日とてヒナコを誘う。
「行こ! ヒナコちゃん」
例日どおりならひと声賛同してナツキの元へ向かうのだが、この日はそうではなかった。
「ごめん。今日は用事があるの」
「え、そうなの? そっかぁ」
「それと」
その後の言葉がツクヨには分からなかった。
「しばらくは行けないと思う」
「ど、だ、なんで⁉」
「心配しないで、悪いことじゃないから。わたしも、ちゃんと考えたの」
引け目を感じているようも見える、申し訳ない気持ちの表れ。その中でも眼差しは強く、何かを決意した者の顔でいる。
「ごめんだけどもう行くね。ツクヨちゃんもナツキさんが待ってるよ」
終始笑顔ではいたが、それと事情は別だ。大事な時期に特訓よりも優先するべきことがあるのだろうか。それ以上に、大概の時間を一緒にいたと言う事実を、ツクヨはこのとき初めて自覚した。
結局一人でナツキの元へきたのだが、珍しく落ち込んでいる。
「ツクヨがため息とか、何かあったか」
「シショーのせいじゃないですかぁ?」
「アタシが? なんでさ」
「ヒナコちゃんがもう来ないって言ってたんですよ!」
「来ないって言ったのか?」
「来ないって言うか、しばらくは行けないと思うって」
ナツキは少し考えるそぶりを見せると、何かに納得した様子でうなずいた。
「まぁ心配すんな。現状打破に動き出したんだろうよ。人のこと気にしてっと置いて行かれるかもな」
「心配して何が悪いんですか!」
「だったら成果を出せ。今のツクヨは心配される側だ。人の話をしている余裕はない」
よく見てきた適当な感じとは違う、咎めるようにも伝わる視線が下ろされる。怒気に近い気配に押され、その瞬間はツクヨの息が詰まった。
「ってね」
次の瞬間には、微かにまみえた気迫はうせた。緊張感を場に残しつつも、ナツキの特訓が開始される。
「まずは動きがどうのより、アスピュレータの性能を余らせているのが問題だ。そこを第一に改善する」
そう言って光球を出現させて光線を放った。
「ちょっ、だから! いつも急なんですって」
「原因を探す。オマエはとにかくなんとかしろ」
「なんとかって何がっ! もぉ〜!」
光の雨が降り注ぐ。先ほどまで悩んでいたことを片隅に置かされるほどの量がツクヨを攻める。ただ、完全にどうにもできないわけではない。当初に比べれば成長も垣間見える。加速力を活かして回避し、急停止からのスキも短くなっている。一枚ではあるが射撃板を操作して、光線の相殺を試みている。実際に何発かは光線同士がぶつかってもいる。一点加えて述べるなら、どこを狙っても光線のどれかには当たるだろうと言うことか。
ナツキの指示通りなんとかしようともがくが、そのうち体力の限界を迎える。対処しきれず、ツクヨは横になった。
「中身出るぅ……」
「そのまんま寝てな。ちょいと考えっから」
気力を必要とするアスピュレータの操作において、疲労はもっとも妨げとなる要因のひとつだ。適度に火照るまでは体の動きが良くなるので構わないが、根性が話に挙がる段階では休息を取らざるをえない。
結果としては、まずツクヨの射撃板が二枚以上使われることはなかった。時折光線の雨脚を強めたりもしたが、アスピュレータから特段の変化は見られなかった。
――まだ余裕があるのか、それとも気力不足が。確かめるも面倒だなぁ。どっちでもいいようにするか。
ツクヨの息が整っていないうちに、ナツキが次の指示を飛ばす。
「よ〜しツクヨー、球の数増やすぞぉ」
「ふぇあっ⁉ 一個でいいでしょなんで!」
「荒療治だ。ダメで元々ってねぇ」
「ってねぇ〜、じゃなーい!」
叫ぶ元気があるなら問題なしと、容赦なく光が二つに増える。
「ほらほら構えろ? 秒ももたねぇぞ」
ツクヨも回復が間に合わない体にムチうって起き上がる。彼女が立ったところで、構える前に光球が輝いた。せっかく立ち直したツクヨはたちまち横倒しになっていた。
「ほぉら特訓にならないだろ。早く立って、って。あ?」
ツクヨに負担をかけることで強制的に練度を上げようとした。その初撃は数発、とても先の雨あられには及ばない。だがそれは紛れもない変化、微動だにしなかったアスピュレータの射撃板、その二枚目が離れているのだ。
「うぅ、んっぐ」
あまりに執拗で押し付けな指導で限界にきたのだろう。さすがのツクヨも泣きべそになっている。そこにナツキが三つ目の光球を差し向ける。発見したツクヨは、とうとう不満でいっぱいになった。
「もうやぁ。バカぁ。シショーのアホぉ」
ぐずるツクヨに、ナツキが薄笑いから口角を上げる。ナツキはツクヨに朗報を持ちかける。
「良かったなぁツクヨぉ。二枚目いったぜ」
意気消沈だったはずのツクヨが爆発音に身を跳ねらせるかのように起きた。むち打ちになりそうな勢いで背後上部へ振り向く。そこには確かに二枚の射撃板が浮いていた。さらに横を見れば、ナツキの光球に反応していた三枚目の射撃板が、ツクヨの上体に合わせて浮いている。
「答え合わせだツクヨ」
ナツキは自身の頭上を指して、指をクルクル回す。
「初めてアスピュレータを展開したとき、射撃板は二枚使えた。そして今回、当時以上の負担をかけた。しかしだ、使えたのは一枚。相手の戦力に対応しているわけじゃない。ところが? 光球を二つ、三つと増やすとどうだ。射撃板を次々起動した。ツクヨ、もう分かるな?」
光球の数と射撃板の数、そしてかの日の敵の人数。ツクヨでも分かる算数の問題。
「同じ、数?」
「ビンゴ。敵が二人だったから二枚使えていたって話だ。つまり今の特訓で分かることは、ツクヨが光球ひとつで敵一人分だと思ってたってわけな」
いつの間にか脚を組んでいるように、同じ言葉を使いがちになるように、無意識にしてしまう癖がある。ときにそれは反射的な行動みたく、どれだけ意識していてもしてしまうものもある。
ツクヨは六枚すべての射撃板の使用を試みた。だがその意識より、対象ひとつにつき一枚を使うものであるという固定概念が、彼女の行動を妨げていたのだ。
「でもそれじゃあ、どんな状況でどんな敵が相手になるか知れないアサシンアクターは務まらない」
ナツキは腕を組み不敵に笑う。すると加えて三つの光球が表れ、計六つがひらめいた。おののいて歩を下げるツクヨ。彼女とは反対に、背中の射撃板はすべてが光を抱いて起動する。
「どうせならもっとドぎついのいくか」
気を良くしたナツキの背後のさらなる光球が形成され、七つの光が戦意を持つ。呼応するようにツクヨの射撃板も輝きを強める。
「さっきのでもうクタクタ! 待ってシショー! ムリムリムリムリっ!」
「安心しろ。モーレツな筋肉痛になるだけだ」
邪悪な笑みを取り囲む球が、その顔を逆光で暗く演出する。大きく開いた瞳が反射する光は、ライフルのレーザーサイトよろしく獲物を狙うのだ。
「し、シショーの――」
他の景色を塗りつぶす白が一直線に放たれた。
「鬼チクショー!」




