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明殺者  作者: 卯の雛
S2. 芽吹く青、木洩れ陽の許
24/30

S2-par.11 『同じことでも違うこと』

 夕焼け空が悲愴の暗がりを落とす時間。本日の特訓はお開きとなる。


「むっ……り」


 疲労困憊、ばたんとぶっ倒れるツクヨ。とうにヒナコも突っ伏している。そこにナツキが手を叩きながら歩み寄って来た。


「はい、はい、お疲れさん。まあこんなもんでしょ。日が落ちる前に解散な」

「むぁ〜!」


 放てば全弾撃ち落とされ、一切近づけないまま終わったのがよほど悔しかった様子。ツクヨがじたばたとしている。逆にヒナコはおとなしく、落胆の表れのような、静かな苦悶のような感じだ。座ってうつむいている。ナツキはまた面倒な思いをため息に出した。


「だいたいさぁ、板一枚と棒一本でどうにかできるわけないでしょうよ。せめてツクヨは二枚使え。ヒナコも刀抜けないのか」

「やろうとしてもできなかったんですぅ! 一枚浮いただけがんばりましたもん!」


 最近ツクヨの元気さに慣れてきたナツキも、彼女を軽くあしらうようになってきた。問題はもう一人の扱いだ。


「分かったっての。型はアタシと同じだろうから教えるよ。そんで、ヒナコだけどさ」


 名を呼ばれた彼女が顔を上げる。目の合った両者は似た様子で気だるく答える。


「なんですか」

「ぶっちゃけキミのは知らないから自分でなんとかしてくれな」


 ナツキに投げやりな言葉をかけられ、ヒナコは静かに立ち上がる。


「分かりました」


 その声は小さかったが、周りに音がない環境でははっきりと聞こえた。


「悪いね」

「――失礼します」


 いつもならツクヨを待って帰りの足並みもそろえる。それはプレハブ小屋に向かうときも同じだ。今日のヒナコは一人で先に着替えに行ってしまった。その後ろ姿を見てツクヨがナツキに迫る。


「ちょっとシショー! あんな言い方ってないですっ!」

「だってアタシ刀じゃないし」

「だからって」

「ヒナコなら頭使えるでしょ。あんま指導した覚えないしな。アタシはオマエの方が不安だよ」


 ヒナコのために怒ったはずのツクヨが、また自分への文句に反論を始める。ナツキもまた簡単に対応していた。




 先に着替えているヒナコ。彼女も彼女なりに考えを巡らせていた……。

 分かってる。キミのは、って言っていた。わたし自身じゃなく、わたしの何か。多分アスピュレータ。分かってる。でも、そう聞こえた。調べようとか、知ろうとしていないのも事実。始めから目的は――。


『いいねぇ……。なるほど、思い出したよ』


 始めからじゃないか。興味を示したのはツクヨちゃんのARK(アーク)を確認してから。じゃあ必要なのはARK(アーク)で、ツクヨちゃん本人じゃない?


『アサシンアクターに必要なのは……』


 合格させる気はあるよね。今はツクヨちゃんも見てる。それに、どっちにしても、わたしはいらない。暗役(あんやく)科だろうと普通科だろうと、模忍(もにん)高校に受からなくてもいい。なんとかしようとは思ってない。だったら、ツクヨちゃんのことも指導者としては見てないのかも……。


「受かった後は、どうする気?」


 先輩として成長を手伝うのか、今の師弟関係を切るのか。ヒナコには、まだ分からない。ナツキが何を考えているのかは不明なまま。それでも、ヒナコ自身が何をしたいかは明らかな思いがあった。


『何もできない方が、もっと怖いよ』

 ――わたしにも、できるかな。


 思考しながら帰り支度を済ませる。ヒナコが準備できたくらいで、勢いよくドアが開いた。


「ごめん遅くなっちゃった! すぐ着替えるね」


 ツクヨが息を切らして入ってくる。ちょっとしたことでも、他人のことでも、全力で行動する彼女を眺め、ヒナコは自然に微笑んでいた。


「うん。待ってる」




 ツクヨたちが外に出ると辺りは暗さを増していた。


「ナツキさん、もう帰ったんだね」


 ヒナコのつぶやきにツクヨの表情が曇る。何か言いたげだが、口が焦り、目が慌てている。言葉に出してもまとまりがなかった。


「あのねっ! シショーもその、そういうんじゃなくてね? むしろ大丈夫だと思って、本当に知らなくて。ううん! でもひどいよねっ。あれはないよ! だからその、ヒナコちゃんがとかそれ違くて」

「大丈夫。分かってる」

「あう。ヒナコちゃん?」


 ヒナコはわざと、ゆっくりと声をかけた。ツクヨの必死さも落ち着く。心配をさせないよう、ヒナコの口調は静かに続く。


「専門外なら仕方がないよね。気にしてないよ。ありがとう、ツクヨちゃん」


 安堵と喜びが同時にきたのだろう。ツクヨから締まりなく空気が抜ける。その後は嬉笑交えて、がんばろうねと帰路を歩いた。


「また明日ねぇ!」

「うん。また明日」


 ツクヨの家に着いて二人は解散する。分かれたヒナコは自分の家を目指す途中で、時間をかけてひと呼吸。吸って、吐いて。歩みを進めながら、一本の電話をかけた。


「もしもし。はい。ごめんなさい、遅くに。そう、かも? それで、そのっ……。うん」


 彼女は一度立ち止まった。


「――お願いがあるの」


 夜を迎える暗い道。その空の端は、まだ少し明るい。

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