S2-par.10 『ピカってバキューンってもう一回!』
ツクヨたちが模忍高校に行った日から二日後、しばらくはナツキの方でも試験や行事等で忙しくなり、早朝トレーニングはおまかせとなっている。ナツキが上からいろいろ言われたそうだが、特訓については変わりない。
今はいつもの放課後、いつもの工場跡地、いつもの顔ぶれが、少し異なる空気で集まっていた。
「んぅー!」
ツクヨが頬を張ってむくれている。向き合うナツキはとても面倒くさそうだ。
「ったーく、あのくらいでつんけんしてんじゃねぇよ」
「しますよ!」
トレーニングに前向きなツクヨにしては、いつになく時間を使っている。トレーニングよりも大事なことらしい。
「っだぁーもう! 当たってねぇし、たったの一発じゃねぇか」
「それでお姉ちゃんとこ行くのジャマしたでしょー!」
――そこかよ。
ツクヨの怒りの理由を聞いたナツキは、不敵な笑みを浮かべる。ツクヨとヒナコの意識が彼女の表情に集まる。
「いやぁ悪かった。確かにそりゃあアタシに非がある」
「ですよぉ」
「でもな? ツクヨはちゃんと避けたろ」
「避けるでしょ普通!」
「そこだよっ」
ナツキがツクヨの額ぎりぎりに指を伸ばす。ツクヨも若干身を跳ねさせる。現在のナツキの態度は、話に上がっているツクヨを邪魔したときと同じだ。
「死角から光線、普通は避けられない。つまりあれはツクヨの特訓の成果ってわけだ」
「ふぇ?」
「実を言うとなぁ、ツクヨを試したんだ。来るって分かってるのだけじゃ意味ないだろう? 結果はお見事! アタシも嬉しかったねぇ」
正当化と褒めちぎり。ナツキの言葉にツクヨは、まんざらでもない様子だ。素直に照れて喜んでいる。ナツキはそこに畳み掛ける。
「でだ、ちょーっと早いと思ったが、ミッションの最終段階に入ろうと思う!」
「やったー!」
自身が急激な進歩を遂げたと歓喜するツクヨ。一方でヒナコはいぶかしげな視線を送っていた。
――用意していたの、初めからそのくらいでしょ。
ヒナコの目に気づいても気づかずとも、ナツキは頭上に腕を上げる。指を二本伸ばして宣言する。
「ナツキ流アサシンミッション、その二」
「そのにぃ!」
「アタシに一撃当てな」
ツクヨが固まった。無邪気な笑顔で硬直している。理解が追いついて、やっとで反応する。
「は?」
「『は』じゃねぇよ。ほら準備しろ」
「いやいやムリムリダメでしょう!」
ツクヨもナツキの強さはよく知っている。一撃どころか一瞬でも構え合う想像ができない。
「オマエら相手に本気出すわけないだろう。アタシは光球ひとつしか使わないし、相手をするのは二人同時だ。どちらかの一撃でいい」
「ナツキさん基準ならともかく、それって十分難しいですよ」
ヒナコも工場跡地でのナツキの戦闘を見ている。光球二つでOACE二人を足止めする実力だ。たったひとつだろうと条件が悪い。
「なら触れるだけでいい。ツクヨの射撃でも、ヒナコの刀でも、なんなら素手でもな」
正直何も変わらない。難易度の高いままだが、反論できなかった。
「それくらいできねぇでアサシンアクターになれるかよ」
そう言われてしまえば、やるしかないのだ。
二人の気持ちが決まったところで、ナツキは開始位置を指定した。
「アタシはここから動かない。攻撃は光球のみ。合図とかないから好きなときに始めな」
ナツキはそう言って光球をひとつ浮かべる。他の装備はない。アスピュレータの保護膜のみを展開しているのだろう。
ツクヨとヒナコは頷き合い、互いのARKを握る。気力を込めると、二人は光に包まれ、再び現れた姿は装いに光を反射する。
いざゆかんとするするツクヨだが、その前にナツキが不思議な点を見つけた。
「素手でもいいっつったけどさぁ、武器は出しなよ」
「えっ? 武器って、あ! ホントだ、ない!」
ツクヨは自身の背後に触れようとして、何の感触もないことに気づく。ヒナコも自らの手に何も握られていない事実を確認する。
思えば特訓中も得物はなく、防具や衣装の役割ばかりであった。ツクヨたちが武器を展開していたのは、後にも先にも最初の一回だけである。
ヒナコはナツキに助力をもとめた。
「どうやって出すんですか?」
「おいおいマジかよ」
「ナツキさん」
ヒナコの強い口調に、ナツキは手招きで応じる。二人がナツキの元へ駆け寄る。近づいた二人のうち、ツクヨに指がさされた。
「オマエの姉貴見てたろ? 試合前に展開したが、それより前にはなかった」
「おー、確かに」
「で、二人も初めてのときは武器も一緒だった」
ヒナコも頷く。
「つまりそういうことだ」
「つまりどういうことだ?」
ツクヨに考えさせたいのか、説明できたはずなのか。ツクヨの頭はぽわぽわしている。代わりにヒナコが予想する。
「闘おうとしたから、ですか」
ナツキが息を吐いたが、どことなく安堵した様子でいた。
「それで分かってくれたら嬉しいね。また怒られそうだけど、正直説明できん」
「気力が関係すると」
「そうなんだけどさぁ。一回成功してんだし、感覚でなんとかなんねぇかい」
ヒナコはツクヨを見つめる。気がついたツクヨは自信満々に、拳を上げて握って見せた。ヒナコに悩む理由はない。
「ナツキさん、少しだけ待っててください。ツクヨちゃん、いい?」
「オッケーだよぉ!」
ヒナコとツクヨのそれぞれが、戦闘へのイメージを固める。
――あのときは、そう。わたしが、盾になるために。
――なんかピカってバキューンっ!
するとツクヨの背中に六角形の射撃板が六枚、ヒナコの腰元にサヤに収められた小刀が形を成した。
「おぉ! やったねヒナコちゃん!」
「そうだね。じゃあ戻ろっか」
「うぇ? あ、うん! 再開しよー!」
ご機嫌に踵を返すツクヨ。二人は所定の位置に戻って特訓を仕切り直す。そのはずだが、ツクヨに移動を促したヒナコは、自身はそうしなかった。ツクヨに合わせて一歩を横に、それを踏む込みとしてナツキに飛びかかったのだ。サヤに収まったままの刀を振る。
――不意打ちに文句は言わせない!
模忍高校でのこと、普段からの良くない思い。ナツキの述べたミッションの条件は、合図とかないから好きなときに。ヒナコの行動に不正はない。決行して問題はない。ナツキにとっても、全く問題はなかった。
刀は確かに触れた。ただし、ナツキにではなく光球にだ。ほんの少し前まで自由に浮いていた球体が、まるで使い魔のごとく主の前で妨害する。光球が光を強め刀を弾く。一切の動揺なくナツキが歯を見せた。
バチリと発光した光球はよりこうこうと輝く。刀を受けて弾いては、この間は微々たるもの。ヒナコは不安定で不防備。仮に準備していても避けられるか悩ましい距離で、光線が放たれた。
光線はヒナコの腹部に直撃、避ける特訓のときより太く重い衝撃に見舞われる。彼女の体はツクヨのいる場所を過ぎて、数メートル飛ばされ転がった。
「ヒナコちゃん!」
何が起こったかは分からないが、目の前でダメージを受けたヒナコの姿に、自然と足が動く。とにかく駆け寄ろうと走り出す。その一歩目とほぼ同時に、彼女の背中が強く押された。ツクヨが経験したことのない感覚、例えるなら体当たりの衝撃が継続されていくような鈍痛。小幅下方から押し上げられたツクヨもヒナコと同程度を飛ばされる。
「べっ! がふっ」
「はい。開始位置につきました」
背中の射撃板がツクヨを防御する形となったため、加速して地面と接触したことの方が痛手となった。ツクヨはすぐに起き上がり、同じくしてヒナコが上体を起こす。距離を空けさせた二人にナツキが声を張る。
「動きは悪くなかった。ただし相手が悪かった。そんで、ツクヨ! 敵に背を向けるなっ! 仮に向けても意識をそらすなッ! そいつが一番ダメだ」
ヒナコが刀を拾ってナツキを見据える。ツクヨも相手に向き直る。まずは構えをあらためる二人に、ナツキのダメ出しは続く。
「好きに始めろってことは、いつでも対処できるってこった。油断を誘うな! 油断を探るなっ! その労力で、油断していなくとも生まれるスキを見つけろ。対処できない弱点を攻めろ」
主に自分への指摘に聞こえる言葉を耳にしながら、ヒナコは乱暴に刀を両手で握る。左にさや、右に柄を持って引っ張る。しかし刃が現れることはなく、隠して歯を食いしばり、両手を柄に持ち替えて構える。
ヒナコに遅れてツクヨも射撃板を浮かす。今回は一枚。ツクヨはどちらを見れば良いか迷って、ヒナコに声をかける。
「ヒナコちゃん、だいじょうぶ?」
「大丈夫。大丈夫だから」
いまだに動揺が残るツクヨだが、首を振り、見る場所は定めた。
「キな」
両者から光線が放たれた。




