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明殺者  作者: 卯の雛
S2. 芽吹く青、木洩れ陽の許
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S2-par.9 『危機一髪で一触即発』

 マシロを抑えていた力が離れ、代わりに手が差し伸べられる。マシロは笑んで息つき手を取った。そのまま横になりたいほどの体を起こし、握手で健闘をたたえ合う。


「さすがに強いな」

「それ、負けて聞くとちょっとショック」

「なら、弱いね?」

「もっとショック」


 二人はそう言葉を交わすと、一度手と距離を離す。互いに一礼をして試合の指定範囲から出ていく。最中に会話を再開した。


「いいところ見せたかったなぁ」

「マシロが悔しがるなんて珍しい」

「いつも表に出てない? じゃあ今日は特段ね」


 マシロの見る先にはツクヨがいる。母とヒナコがにらみを利かせるところを見ると、騒ぎすぎてしかられたようだ。ツクヨの目は輝いたまま、開口黙ってブンブンと手を振っている。


「妹さんか。試合はいいものを見せられたと思うが」

「あの子も喜んでいるから、良かったのかな」


 マシロは邪魔にならない場所まで移動すると、ツクヨに手招きした。呼ばれた妹は断れるわけもない笑顔で保護者に振り向く。あきれつつも仕方なく、解放されたツクヨがマシロに駆け寄る。

 だが彼女が姉に飛び込む道中、突如として光線が襲った。ツクヨもとっさに急停止して避ける。避けたというより驚いて転んだが。

 マシロが慌てて駆け寄る。


「ツクヨ! 怪我は」


 ヒナコも遅れてそばにくる。


「大丈夫ツクヨちゃん⁉」

「だい、じょぉ、ぶっ……」


 ツクヨの反応は悪い。心配されている本人は別のことに思考を巡られていた。


「今の、ゼッタイ」


 次第に脳内がまとまり――。


「見ぃたことあるー!」


 怒りを覚えた。

 暴れるように立ち上がり、光線の飛んできた方向を確認する。そこには地に伏せる模忍(もにん)生と、その者の相手だっただろう少女がいた。完全にツクヨの様子を見ている。


「すみませーん。ご無事ですかー?」


 棒読みの謝罪にナツキの意図が表れている。


「ドチクシショー! 今のわざとでしょー!」

「狙ってませんぃよ〜。流れ弾ですぅ」


 甲高い声で怒っているツクヨに、ナツキはとても愉快な面を作る。冷静なマシロもさすがに癇に障った。


「きさら――」

「謝ってください」


 マシロより先に言い放ったのはヒナコ。彼女の怒気にマシロが言いよどむ。


「ヒ、ヒナコちゃん?」

「ちゃんと、謝ってください」


 するとナツキは真剣な顔つきで息を吸った。そして。


「まことにスマーン。無事かぁ?」


 笑いで震えた言葉と、気持ちの良くない微笑み。ヒナコは青い三日月を握りしめる。彼女が気を込めようとした、そのとき。


如月(きさらぎ)、いい加減にどけ。後がつかえている」


 模忍(もにん)高校の教師と思わしき女性が、ナツキに強い口調で言いつけた。声は張っていないが、言ったことはヒナコらにも届く。覇気とでも表せるものだ。

 独自の享楽にふけていたナツキの表情は一変、邪魔が入った不快感を隠さず、ツクヨたちに背を向けて去っていく。

 遊び半分以上の加害者は離れていくが、代わりに彼女に指示した女教師が近づいてきた。マシロともう一人の模忍生が一礼する。


音無(おとなし)日向(ひむかい)、今は試験中だ。助ける行動を否定はしないが、お前たちは学校行事に戻れ。ここは引き継ぐ」


 マシロは少々不本意ながらも了承し、『また後で』と残してその場を離れる。彼女もツクヨから意識を外せないまま何度か振り返っていた。

 妹も姉の不安げな雰囲気に、自分が何かしてしまったかと落ち込む。それと彼女が気にしていることがもうひとつ、友人の激昂。その場にツクヨの嫌う者はいなかった。

 険悪な空気の中、女教師が頭を下げる。


「失礼致しました。うちの生徒が、大変に申し訳ございません」


 学校としての謝罪が述べられる。ただ、その言葉は親に対して向けられた。大人の話し合いで解決を求める。


「いえ、この子も周りを見ずに飛び出しましたから」

「彼女へは(わたくし)どもより指導致します。よろしければこの後もご参観(さんかん)ください」


 話をまとめ、女教師はツクヨとヒナコへも目を向ける。謝罪のため頭を下げようとした。その前にヒナコが口を開く。


「あの人はなんなんですか」


 何なのか、その意味は通常指すものと違うかも知れない。それでも彼女が抱く嫌悪感は被害者としても間違ったものではない。


「ヒナコちゃんどうし――」

「ツクヨちゃんケガ人でしょ安静にしてて」


 それらしい理由を早口でまくしたて、ツクヨの発言をおさえる。ヒナコの圧力は子どもらしからぬが、女教師の態度は冷静だ。


「二人は如月(きさらぎ)と面識があるように見えたが?」


 これにまたしてもツクヨの自慢げな声が上がる。


「それはシショ――」

「死傷者が出たかは覚えていませんが、大図書館の事件で会いました。現場にいたので。それと試合の映像も少し」


 状況が理解できずにツクヨの脳内がグルグル回る。疑問がふわふわのツクヨを置き去りにして、ヒナコの目は質問の答えを要求する。依然として女教師は平静を保っている。


「素行が悪いのは確かだが、そもそも団体行動を嫌っている。関わろうとせず輪を乱す生徒と言った印象だ。だから他人をあおることも、笑うことも珍しくてな。見知った仲だと思ったのだが」

「そう、ですか。すみませんでした。変な態度をとって」

「こちらが失礼をしたのが原因だ。気にしないでくれると助かる」


 女教師は仕事に、ツクヨもヒナコと観客に戻った。

 その後も試験や試合は続いた。ツクヨは終始興奮していた。マシロと時間をとって話すときもあった。楽しくなかったことはない。良い勉強にもなっただろう。それでも、ヒナコの気がかりは解けぬままでいた。

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