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明殺者  作者: 卯の雛
S2. 芽吹く青、木洩れ陽の許
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S2-par.8 『黒髪そよぐ 白刃の舞い』

 以前にヒナコと見た映像が現実になっている。妨害付き障害物競争、ターゲット破壊タイムアタック、探索競技等々……。

 プレイヤーとしてもフォースとしても、将来人前で活動する彼らには、公の視線に触れる企画が用意されている。この公開試験もそのひとつだ。

 そんな中でも、ツクヨの視線を奪うのはやはり――。


「すっごーい!」

「ツクヨちゃん耳痛い」


 装用様々なアスピュレータと使い手が激戦を繰り広げている。まだ姉の番ではないにこのはしゃぎようだ。ヒナコはひそかに、バテなければいいけど、と思った。

 そんな妹たちの様子が伝わったのだろうか。彼女の足が試合の場へと歩み始める。


「ぅはぁっは〜。かっくいー!」


 持ち寄った体力のあらん限りで目を輝かせるツクヨ。当然だろう。試合におもむき現れたのは、アスピュレータに身を包んだマシロなのだから。


「あれがマシロねえの」

「お姉ちゃーん!」


 他の見物人や生徒たちも、応援や尻を叩く言葉を投げかけている。試験とは言え進級に関わることではなく、指導の指針とする目的が主だ。他の学校でなら体育祭に当たるだろう。声援自体は特に問題ない。

 ただ、ツクヨは少しばかりうるさい。試合が始まれば珍しいことでもないが、今はまだ騒々しく見える。周囲の人が一度は視線を向ける妹の高揚に、マシロはちょっと気恥ずかしくなる。

 マシロがしょうがないなと手を振り返す。そこに試合の相手が近付いてきた。顔を合わせた女同士は親しげに言葉を交わす。


「あれが妹さん? 中々元気がいいね」

「うーん。今日は元気すぎるかなぁ」

「いいんじゃない? 活気がある方が愉快だよ」

「でも、ちょこっと照れるというか」

「なら、今以上に恥ずかしい思いはしたくないね」


 対戦相手のひと言で、マシロの温和な表情は好戦的な笑みに変わる。無言のまま握手を交わし、背を向け合う。

 相手の模忍(もにん)生も、もちろんアスピュレータを身にまとっている。二人は互いのアスピュレータを見合い、距離をとった。装いだけでなく、心持ちも戦う準備に入る。


「これより、音無(おとなし)麻白(ましろ)日向(ひむかい)大和(やまと)による暗殺競技試合、模擬試験を開始する。両者、構え」


 二人は所定の位置で向き合い、互いの武器を呼ぶ。現在まとっているアスピュレータに、それぞれの特徴を示す戦闘機構が形成されていく。

 マシロの武器は刀だ。それも身の丈ほどもある。実際には本人の身長より高いかも知れない。アスピュレータの分、頭の位置が高いのだ。

 マシロのアスピュレータは、最もスタンダードな侍モデルがベースになっている。部分的な特徴を除けば、他の生徒にも似たタイプがいた。しかしながら大きく異なる点、そのひとつが量産型でないこと。

 色は全体が白く、刀の刃渡りが長め。刃の側面のくぼみを挟んで固定する(さや)代わりのクリップ器具も、通常ひとつのところ二つ。刀は腰に横ではなく、背に縦で収められている。

 何より違うのは追加の脚部だ。足部分が下腿部のように長く、その指先に相当する箇所が、本来の足の形状をしている。イヌやネコの脚の構造に近い。逆関節機構にも見える。


「マシロねえも、刀っ……」


 対する相手のアスピュレータは明らかに他とは違う像を持っていた。


「手ぇでか!」


 全体と同じ緑を基調とした、巨大な椀甲冑。手甲側にある、杭打機に似た筒状の機構も分かる。

 一方は鉄拳を打ち鳴らす。一方は背から見える柄を握り、振り下ろして相手に刃先を向ける。

 沈黙は、五秒弱。


「始め!」


 合図を聞いて先に動いたのはマシロ。折り曲げた両脚をバネのようにし、ひとつ、(ふた)つと蹴りて相手との距離を詰める。敵前にて足で地を叩き、勢いを刀身に乗せて振り下ろした。踏み固められた地面が豆腐ほどに刃の侵入を許す。

 しかし対象はすでに居らず、土煙の中で気配は背後。振り返りながら、持ち上げた刀を水平に振り抜く。ところが切り払ったのは土煙のみ。相手は体勢を低くしてかわしていた。

 マシロの腕が伸びきったところを、相手も見逃さない。緑の鉄拳が突き上げられる。胸部から顔を狙ったアッパーカット。マシロは当たる直前で跳ね上がった。正確には横に向いていた刀の重みを軸にしての後方宙返り。動作に蹴り上げを含む宙返りであれば、単なる飛び退きより牽制になると考えた。

 サマーソルトからの着地後、すぐさま刀を前方に定める。だが即座に横に倒し、刀の側面を向けて両手を添えた。緑色の鉄塊が打ち込まれたのだ。突き上げていた腕を引いての、腰をひねった重い拳が刺さる。

 受け止めたマシロはひどく仰け反り、転ばぬうちに滑り下がった。辛くも体勢を立て直し、殴り抜いた相手を見据える。


「追撃しない? 動き回るタイプじゃないのかな」

「すげぇー!」


 ヒナコの見立て通り、緑の光沢は同じ位置で光っている。誘うように構えて、大きく動く素振りはない。

 マシロはその要望に答えて、もう一度地面を蹴り飛ばす。左肩に置いた大太刀を跳ねさせ、相手の足元を斬りつける。刀の長さもあり、狙われた方はマシロの右前へ、軽く跳ぶ形で避ける。

 だがマシロも誘い、その展開を狙っていた。刀は地面スレスレで水平に、そのままV字を描いて斬り上がる。鉄拳はとっさに両手の甲を表に向けて防御姿勢をとる。刃に傷を刻まれ、本体も着地によろけた。

 先の展開とは違い、マシロは追撃をしかける。振り上げた刀を握りあらため、刀身の背と刃を転ずる。刀の重みに重力を加えた一撃を振り下ろした。

 先ほどより強烈な攻撃、回避は間に合わない。受け流しは可能か。外野が様々思考する。

 ところが当の本人は、これを片手で受け止めた。受けた、と称するには痛々しい姿だが。手刀の形で伸ばした玉鋼の指を順に斬らせ、最後の親指部分で押さえたのだ。

 マシロはもうひと押しと腕に力を込める。徐々に刃が食い込み切れ目が深くなる。そこに自由な鉄拳を向かわせた。刀を壊すのか、つかんで制するのか。正解は――平を当てる。

 鋼の手が添えられたと同時に、手甲にある筒状の装置が動く。それも打ち出しではなく引き。するとどうだ、マシロが力を入れようとも刀は微動だにしない。そのまま力任せに振られ、刀を奪われてしまう。


「ああー!」

「磁石? でも片腕は離れてぇ……っ、もしかして吸盤」


 武器が相手の手に渡り、マシロから攻められない。とは言え、片手がふさがり片や破損している向こうも、慎重にならざるを得ない。

 両者が攻めあぐねていると、硬直を嫌ったのはマシロの方。刀にめがけて低く跳躍する。しかし相手とて簡単に得物を返すつもりはない。腕を引き反転して回避、背を向けないように立ち回る。

 だが、マシロは仕掛け始めから正面しか狙っていない。対象から通り過ぎた後、急停止バックダッシュ。バネを効かせて跳ね戻り、片脚を追加脚部も含めて一本に伸ばす。

 射出された鋭い槍は、刀を貼り付けた腕に飛び込む。不意をつく急加速に相手は反応できない。脚部は鋼の手のひらに触れ、鋭利な足先で貫く。さらに突き刺さった先端が、蹴りの勢いと異なる別の力で内部へと押し込まれていく。

 相手からすれば、この状況は好ましくない。鋼の腕が異物の排除に動く。一度は引かれていた杭が、元より深く押し込まれる。それの直後、腕甲冑の内側まで侵入していた脚部パーツが、鉄拳の平面とともに砕け散った。

 圧縮された突風が、マシロと各部品の破片を弾き飛ばす。抑えられていた刀も相手から離れる。だがマシロは刀と同様に、その身を地面に打ちつけてしまった。刀もマシロより横の方へ転がっていく。

 片方だけ長い逆関節のままではバランスがとれず、うまく体勢を立て直せない。ひとまず位置関係を把握すべく、動作を速く周囲を見渡す。どうやら相手にも反動があったようで、苦痛の表情でいる。マシロは急ぎ刀に手を伸ばした。

 刀は持ち主のもとへ戻る。彼女はしっかりと得物を握った。ただし、獲物を握った者も一人。刀へ意識を向けた僅かな隙に、伸びている脚部をつかまれた。

 手のひら部分を破損した剛腕は、少女を乱暴に持ち上げようとする。しかし軽い。鉄拳に扱われたのは逆関節部分のみ。マシロは体が浮く直前で、脚部パーツの一部を脱ぎ捨てたのだ。

 続いて隙を作ったのは相手選手。そこへ逃すまいとマシロの斬撃が見舞われる。すでに損傷が蓄積していた拳は、マシロが外した脚部ごと叩き割られる。緑色の破片へと砕けたパーツの中からは、本来の腕部装甲があらわになる。

 マシロの快進は止まらない。相手の片手を粉砕したその刃を、先と同様にV字に斬り上げた。とっさの判断は似通う。急いた攻撃、焦った防御。ゆえに受けたのは残っている手の甲、その損傷部分。硬質で軽快な金属音とともに、双方の拳を断った。


「ちょっと乱暴に扱いすぎちゃったかしら」


 同時に、刀も折れた。攻めの手を多くなしたことで、刀にも限界が訪れた。

 折れたとは言え、刃のある得物に変わりはない。マシロは短くなった刀身で相手を斬りつける。しかし即座にはたきおとさせてしまった。加えて拳が飛ぶ。受ける、弾く、返しに一発。若干の間合いをとり硬直する。


「一人だけ武器ありは、ズルくないか」

「ヤマトは初めから拳じゃない」

「なら、マシロはずっとズルかったようだ」

「ごめぇんなさい。でもちょうどいいわね、今」


 構えが変わる。それは格闘戦への移行と承諾。


「私、この姿でも戦えるけど?」

「知ってる」


 マシロの断言に、喜びを口元に出す。相手の応答は拳で放たれた。

 防ぐ、払う、つかんで引く。カウンターを狙い、打ち合い、ダメージを与える。ボクシング並に重く、空手めいて鋭い拳。ムチのようにしなやかで、剣を彷彿とさせる蹴り。

 先ほどまでの相手の様子から、別人を思わせる軽快な身のこなし。武器を失ったとは思わせないマシロの応戦。

 まともに受ければただでは済まない。アスピュレータを身に着けていても落ち着けない。むしろ、だからこその息をのむ攻防。

 拳法ではない。だが素手のケンカとも異なる。模忍生同士の一進一退。その一戦を制したのは……。


「そこまで!」


 勝敗が決した。彼女が腕をつかまれ、地面に仰向けで組み伏せられている。貫き手を頸椎の横辺りに当てられているが、彼女も足先を相手の腹部に添えている。とは言え体勢、もとい形勢の優劣は明らかだった。


「勝者、日向(ひむかい)大和(やまと)!」


 はりきって臨んだ一戦。マシロ、惜敗。

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