S1-par.11 『開け月の扉 夜に輝く未来への鍵』
OACEが立ち去ってから数分後、今までが嘘のように声が増え、間もなくフォースたちが駆けつけた。初めは心配されたツクヨたちも、じきに怒られ所属や事件の発生時刻など様々な聴取を受けた。しばらくするとまた心配される。先輩がことの顛末を話したのだろう。誰よりも説教を受けた先輩が片足を引きずってきた。以前の杏色のフォースに肩を貸してもらい、ツクヨたちの元へ寄ってくる。だが、何も言い出さない。どちらかといえば言い出せないのだろうか。そんな先輩にツクヨたちが歩み寄った。
「あの、ケース守れなくて、逃がしちゃって、えっと、ごめんなさい!」
「わたしも反抗的なこと言ったと思います。怖くて、その、ごめんなさい」
謝るツクヨとヒナコ、彼女たちの姿に先輩は視線と言葉を迷う。そんな先輩に肩を貸しているフォースがささやく。
「先に言われちゃったわね。ほら、今言わないと後悔が残るわよ」
「――ごめん。怖い思いをさせた、かも知れない」
「したの」
「しーまーしーたぁ。申し訳ない。それにどの道……」
――今のままじゃ、アイツを殺せない。
「まぁその、巻き込んで、ごめん」
出会ったときとはまるで違う、しおらしい姿に――従順とは程遠いが――ツクヨたちの調子はくるう。二人は慌てて対処した。
「い、いやそんな! 元はと言えば私が勝手について行ったのが悪いんですから」
「そうですよ。ツクヨちゃんのせいです」
「そう私の――ん?」
「それよりも、アスピュレータってどうやって解除するんですか」
使い方が分かっていないのに、装備を解く方法を知っているわけもない。今の今まで着けっぱなしである。状況を把握した杏色のフォースが説明を始める。
「それはARKからアスピュレータを展開するときの手順に近いのだけど、まず――」
「戻れーって思ってやりゃ勝手にちっこくなるよ」
フォースの女性の話に横から入って、先輩式の大ざっぱな指示が挟まれる。
「ちょっとそんな説明で分かるはずが」
「見てくださいよ」
フォースがツクヨたちを確認すると、そこにはARKを手に収めた二人が映った。
「使わせるときもこんな感じでできたんですよ」
「そういうことはしっかりと教えてあげなきゃダメよ」
「そんな状況じゃなかったんですけどね」
「そうしたのはあーなーたーでーすっ!」
「いはいれふ! いつつ、アタシ怪我人ですよ?」
減らず口に説教が増える先輩。その横で教育をしているフォースの人。その二人に、ツクヨとヒナコが両手を差し出した。
「どうしたの?」
「これ、お返しします」
それはARKだった。黒と青のARKがそれぞれの手に乗っている。フォースは受け取ろうと手を伸ばす。
「ありがとう。預かるわ。小さいのにがんばったね」
「これでも中三です!」
「その態度だとそうは見えないよ、ツクヨちゃん」
なんの自慢なのかやたらと胸を張るツクヨ。ヒナコとフォースの二人はそんな少女を眺める。しかし先輩はフォースの手の平、預かったARKに目を細めていた。
「似てる。いや、多分同型か」
「ん、どうかしたの?」
「もしそうなら、何かヒントが。あるいは――」
何かを確信した先輩は燃料を使い果たしたその身体を燃やし、口角を持ち上げる。そしてツクヨに当たる寸前まで顔を近づけた。
「あ、あのぉ。何か」
「いいねぇ……。なるほど、思い出したよ」
「へ?」
「数日前の事件のときの子か」
「覚えていてくれたんですね!」
ツクヨの食いつきに、先輩の笑みが露骨さを増す。その笑顔がヒナコの不安を掻き立てた。そんなことは知っても知らぬと、先輩は口を開く。
「ARK、キミにあげるよ」
「ちょっとそんな勝手に!」
「まあまあ聞いてくださいよ」
ヒナコの不安は的中した。だが止めはしない。それをツクヨが望んでいると知っているから。先輩は話を進める。
「キミ、さっき中三って言ったよね」
「はい、そうですけど」
「もうすぐ高校生かぁ。進路希望とか決まってんの?」
「もちろん模忍高校、暗役科です!」
「だと思ったよ」
フォースも事の意図を理解し、呆れてため息を吐く。ツクヨはまだ分かっていないが、ヒナコはそれにも呆れ息を捨てた。
「あのとき言ったよね。教えてくれって」
「え! じゃあ」
「あぁ、教えてあげるよ。アタシが直々にね。って、そんなわけですよ」
肩は貸し、頭は抱え、結果的に杏色のフォースも笑うしかなくなった。
「いいわ。ただし、ちゃんと教えてあげること!」
「もちろん」
「それと」
そう言うと、フォースの女性はツクヨたち二人を見つめた。
「正しいことのために使うこと。約束よ」
「はい!」
二人はそろって決心し、その思いが返事に表れる。返事を聞き届けると、先輩はフォースから黒いARKを手に取ってツクヨに差し出した。その横でヒナコが三日月を返してもらってゆく。
「そういうわけです。わたしたちに色々教えてくださいね」
「へぇ……」
「巻き込んでくれました責任、とってくださいね?」
「仕方ねぇな」
こうしてアスピュレータ、もといARKは二人のものになった。終始ツクヨが無言で跳ねていたが、ただ適性があったことや自分のアスピュレータを持てたことだけが嬉しいのではない。何せ、仲間と師がいるのだから。
進路希望調査書、提出日。帰りの会を終えて、生徒たちが教室から離れて行く。各担任の先生も、部活の顧問や別の仕事で動き出す。今日回収した進路希望を確認するのも先生の仕事だ。
「そういえば三年生はそんな時期でしたね。みんな真面目に書いてますか?」
「あまり考えていない生徒も見受けられますが、真剣に書いている子もいますよ」
先生の手には自分の担当、ツクヨたちのクラスの調査書がまとめられていた。その中には当然、あの二人のものも入っている。文面には――。
――音無月夜。第一希望、模忍高校、暗役科!
――木洩陽菜子。第一希望、模忍高校、暗役科。第二希望、同校、暗殺情報科。第三希望、同校、役装技術科。追伸、音無さんの第二第三希望も同じ感じでお願いします。
「まったく。書かなかったり、多めに書いたり」
人より厳しい道を選んでおきながら、人並みに提出物も完成させて来ない教え子に、一抹の不安を抱える。それでも、未来に夢を描く若き者たちに、先生も嬉しさで笑みが浮かんだ。懐かしいあの日々、彼女たちには後悔のない青春を。
「がんばれよ。二人とも」
少女たちの物語が動き始めた。




