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「どうしても生きたいと思うには、どうすればいいのですか」
私が昔、精神科医に訊いた言葉です。先生は答えませんでした。
答えられなかったのだと思います。そうするすべを、先生自身が知らなかった。
当時、私は希死念慮に囚われていました。
生きていることが辛く苦しく、誰かが自分を殺してくれないかとさえ思いました。
けれどそれに抗おうともしました。抗うことが正しいのだと思い。
生にしがみついて、切り抜けようともがいていました。
そこで出たのが、冒頭の問いです。私は自分を哀れんで欲しかったのではありません。
本当に、その答えが知りたかった。大人なら、医者なら、専門家なら、それに答えてくれると思ったのです。
答えはいつまでたっても返りませんでした。
先生は、少し困ったような顔で笑っていました。
それ以外の表情ができないのだと思いました。人が最も嘘をつきやすい表情は笑顔だと言います。先生は嘘をついたのではないけれど、あの瞬間、確かに私を誤魔化したのです。
答えのない空白の心のまま、私は外に出て、ただ耐えるしかないのだと思いました。
私の手首に傷痕はありません。
それは英断の証ではなく、単に勇気がなかっただけです。
死に損なって、傷痕だけが残ったら、あとで見た人に色々思われるなと思ったのです。
ずるずると、死んだような生きているような日々を過ごし、私は少しずつ希死念慮から脱していきました。
今は責任もあるので死ねません。死にたいとも思いません。
ですが希死念慮に苦しんでいた当時の自分のことは、一生忘れないでしょう。
ずっと心の中に抱き続けます。