81.宙色
81.宙色
街を飲み込む闇そのもの。それはメリーが纏う触手のような闇色。
――いいや、それは王だけが知る『宙色』である。
「――ようこそ……花音さん………私の事、覚えているかしら?」
ああ、覚えているとも。誰もが想像した、過去の幻影。
聖日本教会、来栖川百夏―――その姿は、神に仕える一点の穢れなき修道服。
「私は、一度殺されました。そして、蘇ったのです……彼……『暗黒のアブホース』によって! 彼は素晴らしい力の持ち主です。そして、今は私達と志を共にする――仲間となったのです! ええ……花音さん、あなたには分からないことでしょう。自分たちの身を粉にしてでも、この世界の人間達を救いたいと思うあなたには……」
アブホースが、彼女の背後で揺らぐ。蜃気楼のようなぼんやりした存在。だが、気配は異常を極めている。続々と生み出される生命の星々は黒い触手がすぐに喰らい、誕生と破壊を繰り返している。
――人間であれば、直視した時点で死んでいる。そんな怪異だ。
花音はこの場所で、ただひたすら浴びせられる百夏の話に耳を傾けるだけだった。
「ねえ、花音さん。あなたは何故人間を蘇らせたいと考えるの? ねえ、答えてくれなくては分からないわ……いいえ。本当はここに来ときから知っていた……本当にくだらない! くだらないから! あなたからしゃべって頂戴よ!」
だが、花音は答えられない。覚悟していたことであったが、彼女の変わりようは恐怖そのものだった。そして、彼女が本当の『怪物』になってしまったのだと……。
それも『暗黒のアブホース』と同化しているなんて……。
「ちょっと、ここまで来て、この“メリー”を無視するのかしら……ヒステリック」
「――いいえ、あなたの事なんて“すっかり忘れていたわ”偽物」
「――――――――――――」メリーの瞳が、一瞬で燃え上がった。
「違うのかしら? 偽物の人間のクセに! あなたの武装を丸裸にすれば分かるわ……」
アブホースが揺らぐ。修道女が伸ばした手を追うように、暗黒の触手が伸びる。
「さあ、始めましょう……此処は暗黒の祭壇……神々の食事処よ……」
「ええ……惜しみなく、一片の血肉残さず―――食べてあげる……!」
地下部の死闘が始まった頃……アブホースの力が開放された頃。
一斉に動き出す有象無象。それは霊地に縛り付けてある怪物達だった。
彼らは動き出す。その全てが……。
東京を目指して。




