80.暗黒
80.暗黒
メリー達は深淵の中を歩いていた。花音はその後に続く。
すでに半分以上を踏破し、残りは今下へ降りているこの螺旋階段のみである。
張り詰めた雰囲気。それは螺旋階段の端々から感じ、二人の精神を徐々に削りとっていた。花音は息をするのも苦しそうに喘ぎ、メリーは奥にある邪悪の気配が、自身の中に眠る“本能”とせめぎ合っているのを感じていた。
「あなたに行っておきたいことがあるわ……私を透視してごらんなさい」
「……透視……え、ええ。分かりました」
その場で怪物の瞳を開く。半身怪物の花音には難の苦にもならないことだった。そして、メリーの服の裏側を知る。そこは何も着ていない、ただの少女の裸体だった。
メリーの首筋から胸に掛けて走る健康な色をした血管。腕はさらりと伸び、まるでシルクのような輝きを纏っていた。腹から足先まで、まるで芸術品のように整った体だ。
「何が見えた?」
「メリー様の体……です」
「もっと深く見てご覧なさい」
花音は言われた通り、より深く透視した。しかし、肝心の内蔵や血管が見えない。それを覆う膜のようなものが邪魔している。それは、透視防止用のシンボルだ。
「透視を防ぐ武装があります」
「ええ。そう。私はこれ以上見せられない体なの……しかし、あなたには正体を晒してしまうことになるでしょう……アブホースは、必ず私の“弱点”を突いてくる……だから、もしものことがあったら……あなたは私の心を魔法で消しなさい」
「――精神汚染ですか?」
「それより厄介なこと……分かったかしら?」
「はい。お任せください」
そして、闇が深まる。
暗黒の玉座へと辿りつく……。
東京地下、ジオフロント。広大な敷地を誇るこの場所。その天井は今まで歩いてきた分とほぼ同じ。地上へ向けて突き出したビル群。居住区は団地状で、連なった形で点在していた。その中を、二人は慎重に歩いていく……メリーの感じ取る先に、その気配がある――花音はこのジオフロントの暗さの中に、いつそれが出てくるのか、気が気ではなかった。一点の照明すらないこの空間は、あまりにも虚無が満ちていた。
『――拒むものは無く……ただ模倣へと形を変えるのみ――』
『――陶酔する原型。混乱する想起――』
『――産婆術は反転する。生むものは死に絶え、死ぬものは蘇る――』
『――模倣しか知らぬ怪物よ。生み出すことを定めた女王よ――』
『――お前に何が分かる――我が世界の一端でも垣間見たつもりか――』
「――偽りの、穢れた人形が――」
暗闇が、眼前を覆い隠す――――ただならぬ気配。それは、『暗黒のアブホース』。




