79.決死戦
79.決死戦
愛路橋風歌は『ウボ・サスラ』の足元へと立っていた。
封印術『白蘭式』は姉である花音と組み上げた術式。このメンバーの中でこの術が行えるのは、愛路橋姉妹を除いて他に居ない。いかに黒兎が卓越した才能を持っていようと、この術式を真似することはできない。
死んだ『ウボ・サスラ』には、顔がなかった。黒兎のロボットがこの怪物の頭を的確に撃ちぬいたのだ。……しかし、その代償は大きかった。黒兎は、その生命を散らしてしまったのだから……。
風歌は手に力を込める。持っている礼装を構えて、その術式を反芻する。
――今まで一人で、この術式を行ったことはない。時間は最低でも一時間。それは、花音と風歌の力を合わせての話……実際に、一時間という短時間でそれをこなせるとは、自分でも思えない。
しかし、こなさなくては。
自分のために、道を開いてくれた人達がいるのだから……。
「お姉様。黒兎さん。そして、皆さん……わたくしは、成し遂げてみせます!」
ロバートから離れたサラは、地上を走る怪物を倒していた。
量は一向に減る様子がない。むしろ増える一方。しかし、サラが一歩でも引けを取るということはない。サラの練りあげる鉄は炎に炙られ形を変える。真紅に色を変えるこの金属は、敵を破壊する武器へと変わる。サラが長大な剣を取り出すと、それを振るった。人形の腕の力などたかが知れている、と侮るなかれ。サラの剣は敵を刻むとさらなる敵を目指して形を変える。それは、メリーの持つ粘土のように、テレスの用いる金箍棒のように、ウェンディの操る水銀の鞭のように、靭やかに、強かに。
サラの源泉は採掘坑の奥深く、煉獄の地を思わせる灼熱の鉱床。ヒヒイロカネの断層から引き出された、取り扱い困難な物質から練り上げた極上の武器である。
草を一薙ぎすれば、灼熱は全ての草木を焼き払う神剣となり、巨人が握れば、それは世界の終末を彩る破壊剣となる。そんな曰くを持つ、幻の金属。
だが、そんなものに頓着するサラではない。
彼女は既製物が嫌いだ。それは、メリーから受け継いだ否定の心。メリーの心の中に眠る、反対意識の塊。それがサラ。四番目に生まれた彼女の顔。
だが、それにすらサラは眼中にない。自分は自分。他は他。
ただ、誰よりも……人間よりも……自我が強い少女なのだ。
長く伸び上がった剣は、刃の厚い蛮刀へと変わり、さらに一陣速く、敵へと駆けつけ頭から叩き切る。両手で握るほどの大きさと重さを持つ重剣を、軽々片手で操る。敵が舞い込む。それを颯爽と蹴散らす彼女の姿は、不死者を探し求める戦乙女のものでは無く、戦地と共に生命を委ねる、一人の戦士のものだった。
だが、彼女がいかに頑張っても、こればかりはどうにもできそうにない……。
南方向から敵影……それもかなり大きな。
さらに、西方向。これはかなりの大群だ。羽音が激しく聞こえてくる。
本陣のご登場だ。南からは『万病の壺〈アルハッド〉』。西からは『這う者を統べし女王〈ボルドゥーム〉』。さらに、この中型怪物に継ぐ、日本に封印されていたはずの怪物が、この東京目指してなだれ込んできている……!




