76.黒羽舞う
76.黒羽舞う
当たることは無かったが、これには猫目、驚きの一言である。
「―――ちょ、ちょっとえほッ! いやっ! う、撃たないでよ!」
第二射。こんどは夢見野も吹っ飛んだ。小さな体は椅子から転げ落ち、したたかに体を打ち付けていた。しかし、夢見野は今までに見ないような敏捷さで立ち上がり、拳銃を構えた。
「――この手紙どおり」
左手で見せるのは―――なんの意味も成さない文字の羅列。
「な、なにそれ……私、そんなの渡したっけ?」
電波で全てを監視していた。夢見野が初めて喋ったこと、そして、彼女が絵本のことを“絵本たん”なんて幼児言葉で呼んでいることも、全て知っていた! 何故、何故この作戦が決壊を迎えたのだ?
そこに書かれている文字を辿る。……やはり、なんの意味もない言葉の群れだ。
「頑張ってね!……だとぉ? そんな文字が、何を意味指すのかねぇ!」
「くろうさんは、私を“絵本たん”とは呼ばない―――」
「はッ? 何いってんだか、さっぱり分からん」
しかし、何か決定的な失言をしたのは間違いない。黒兎の奴が一枚噛んでいた可能性もありそうだ。しかし、それは黒兎あってのこと……ここには戦闘には縁のない夢見野一人。拳銃も下手くそだ。一発も当てることができなかったし、拳銃の反動で吹き飛んでいるくらいだ。慎重に戦えば、確実に殺せる相手だ。
もう躊躇いはいらない。隠していた手の短剣を見せつける。
「……ばれたらしょうがない。さて、それじゃあ死んでくれチビガキ」
拳銃が再び黒兎の姿をした猫目へと向けられる。当たらない、死なない、意味が無い。それに気付かないとでもいうのか? 愚かだ! 全身がバネになったような軽さで跳ね、短剣を片手に握った獣が少女を貫かんと迫る。
「――私、クロウ……今あなたの後ろに居るの……」
猫目は耳を疑った。まさか黒兎の馬鹿が亡霊にでもなったか。
しかし、その決定的な瞬間―――弾丸が猫目を貫いた。
「うごッ! がっあッ!」
腹部を打たれた衝撃で体は吹き飛んだ。と、同時に絵本も転倒した。
「………っん?」
衝撃が和らいだ。猫目は完全に仰向けにならず、壁にもたれかかるような形になった。
――まさか、後ろに……本当に!
猫目が首を回そうとした瞬間、首を締められた。首に伝わる鈍痛! 己が握っていた短剣が喉を貫いていた!
「いやぁ~っ! みーちゃん自演乙って感じねぇ!」
黒兎の姿が重なる……亡霊やドッペルゲンガーとでも言うのか……黒兎が黒兎の首を締め、同時に首を横から貫いていた。首を締められた黒兎が血反吐を吐く。
――首を締めながら笑うのは、一体、どっちの黒兎だろうか?
「あっはっは~ひっさしっぶり~ッ! ケ~イちゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああん!
思わず、ぶっ殺しちゃったよ~!」
それは、バハムットの一撃を受けて死んだと思っていた―――黒兎本人だった。




