66.解体
66.解体
図書館へと足を踏み入れる。『暗黒のアブホース』の寝所。当然のように、帳を守る守衛が居る。その姿は――花音を驚愕させた。
「やあ、花音さん。もう、何年昔になるだろうね? 私のこと、覚えていますか?」
「あ、あなた……貴方は!」
「――誰?」
「……おや貴方、新しい女性のようですね。こんにちは……私は、こういうものですよ」
精霊が虚空に絵を描く。二人の姿が描かれた。
その姿は、すぐに精霊たちが書き換える。花音を思わせる人型は、顔をぺしゃんこに潰され、腹からは内蔵を引きずりだされている。メリーの姿は、手足の無くなった達磨を描いた。そして最後、雅号が加えられた。妖精の放埒な文字は、不気味な落書きに見える。
「――穂群緋影――」
今昔精霊信仰会代表。穂群緋影。
日本独自の精霊や妖精を研究対象とする魔術機関だ。中でも、この穂群緋影は異端児として知られる、とんでもない魔術師だった。精霊を調教し、自らのしもべとする術を、若干七歳で極めた……まさしく、精霊に変えられてしまったかのような人間だ。
精霊や妖精の声を聞き分ける彼は、愛路橋のシグナルを耳にして、白蘭館の一員に加わった。彼の天命を分けたのは『ムラサキカガミ』だ。彼は感性が強かったため、精神汚染を大きく受け、そのままショック死、その後、融合した。
此処には居ない人間のはず。何故、ここに居るのか?
「不思議そうですね。そうです。私は一度死にました。そして、蘇った」
妖精が不気味な放物線を描く。
「暗黒のアブホース。彼の力で、私は自我を保ったまま、蘇ったのです。故に、私は暗黒の――――ぐぇ!」
メリーの拳銃が火を吹いた。緋影と花音に驚愕が浮かぶ。
「ちょっと! 話している途中でしょう! なんて下劣な!」
「馬鹿者―――私を解体したな。死ね」
「ははっ! 馬鹿はお前だ。私は完全な不死になったのだ。死ぬわけが―――なんだこれ!」
拳銃に目を向けていた緋影が驚くのはもちろんだ。背後に現れた黒影の触手が、じわじわと緋影の首を締めていったのだ。それは服を溶かし、肉を溶かし、骨まで甘い鈍痛に支配された。
「――私へと“還れ”痴れ者……」
触手がずるずると緋影の体を這うと、徐々に四肢がバラバラになっていった。右腕、左腕、右足、左足。順当に分かれたところで、触手が口を開いて、ごりごりと食った。
残りの体は恐怖で震えていた。緋影は自分が生きていることが信じられない様子だ。不死になったと自分で名乗った彼がこの様だ。愚か者。その一言しか浮かばない。
そして、触手が重なって――全身を丸呑みにした。
「ごめんなさい。おかしな姿を見せてしまったわ」
メリーは花音に一言、そう謝った。
「いいえ、私も、未だに信じられませんが、本当に、貴方は」
揺籃の――。なのだね、と。
「さあ、入りましょう。今更、過去の亡霊に取り憑かれる必要はないわ」
「ええ。そうね。彼は、悪魔に取り憑かれてしまったのだわ。暗黒の、アブホース。私は、彼を許さない」
国会図書館の扉を破壊して、二人はついに中へと侵入した。




