67.空天海の覇者〈バハムット〉
67.空天海の覇者〈バハムット〉
黒兎の戦闘兵器が破壊され、現れた巨大怪物『バハムット』。
あの大口から放たれるレーザー『爆炎弾』は大地を焼き、絶壁を撃ちぬいてきた。あまりの過激さに、愛路橋達が“封印”することしか出来なかった怪物である。半永久的に眠るはずの『バハムット』。何故、この場所に居るのだろうか?
深い絶望が、周囲を黒い影で侵略していく。
「――来るぞッ! あの野郎、今度は白蘭館を狙ってやがる!」
雨道の声に皆がはっと息を飲む。鯨の巨大な口が開くと、太陽のような燃えたぎるものが見えた。
「サラッ! 牙を!」
「―――ッ!」
二人の息が合って、牙の弾丸が『バハムット』目がけて射出される。ぐんと速度を増した弾は『バハムット』の口の中へと入り込んでいった。
ドン! という爆音が『バハムット』口内で発生し、巨大な鯨は空中で身悶えした。
そして、軌道が逸れて発射された『メガフレア』は『天磐戸』を撃ち抜いた。瓦礫となる壁と炎を巻き上げる爆音とが重なり、轟音が一帯を包む。
「――黒兎さんッ! 黒兎さん!」声を出したのは風歌だ。
「風歌さん! 駄目よ! 隠れていて」
今まで隠れていた風歌が現れたことによって、ウェンディもまた、彼女を止めるために建物の影から現れた。
「しかし! 黒兎さんの安否が―――まさか、死っ!」
「――そんな、まさか、嘘だろう……」
ロバートは脱力感に襲われた。あれほど強い魔術の資格を持ちながら、『バハムット』の豪炎に焼かれて、死んだだって? ありえない……。ロバートは頑なに黒兎が生きていることを思った。
「……サラ! 行くぞ。あいつを倒すんだ……黒兎さんなら大丈夫だ。それに、『ウボ・サスラ』は既に倒された。風歌さん! あなたは白蘭式を!」
風歌は遅れて――頷いた。
「わ、分かりました!」
「私が同行するわ。行きましょう!」
ウェンディを先頭に、風歌が『ウボ・サスラ』に封印を施すために駆ける。
――だが、誰もがそれが意味を成すのか、不安だったに違いない。
白蘭式を掛けられた『バハムット』がこの場所に居る……それは、『バハムット』が自らに掛けられた『封印』を破壊して出てきたということだ。ピタリと合うパズルのピース。その一欠片――『バハムット』というピースが無ければ、白蘭式は完成しないのでは? アブホースを倒し、反魂の式を完成させることができないのでは?
愛路橋風歌は、それら全ての邪念を捨て去った。自分の今できることは、『ウボ・サスラ』の封印! それは姉である花音の下した命令だ。それを、自分は完成させなければいけない!
激情に動かされ、二人は足早に『ウボ・サスラ』が体を倒した場所へと駆けていく。スカイツリー周辺なら、五分と掛からないはずだ――。
しかし、その考えは甘い。
「――ちょっと……何……この数の怪物は!」
どこから現れたのか、大量の怪物の群れだ。東京の上空を舞う怪物でも、都内を闊歩していた怪物でもない。紛れもない昆虫の軍勢だ。甲虫から、蜘蛛や百足などの他節動物。軍隊アリの群れに、空を舞うのは奇怪な模様を呈した蝶と蛾だ。
「嘘……名古屋の怪物よ! これは!」
愛路橋姉妹の魔術協会『白蘭館』のあった名古屋は、アブホース眷属『這う者を統べし女王〈ボルドゥーム〉』の昆虫への異形化能力によって昆虫怪物の巣窟と化していた。
しかし、『ボルドゥーム』は封印されていたはずだ!
――風歌の額が、冷や汗で震えた。頭の中を支配する、怪物への恐怖は確かに背筋へ侵入して、ぞくりと震わせるのだ……確かにこの瞬間、風歌は恐怖を感じ取っていた。
「ア……アブホースがっ、私達を殺そうと本気になったのだわ!」
『その通り……神の下す神罰は常に等しく、人類を冒涜する』
怪物の中に人の影が浮かぶ。風歌の良く知る人物。
……クワトロ・ロッジ、境詩文!




