60.分裂
60.分裂
スカイツリー近辺。雨道とロバートがにらみ合うように潜んでいた。
二人の目的は同じ、『ウボ・サスラ』の破壊。そして、白蘭式として利用するための術式を施すこと。彼らの役割はまず、『ウボ・サスラ』の破壊にある。
背後には、黒兎の指示。全方位に視線を配らせる黒兎の都市伝説魔術『オソラさん』。人間の一挙手一投足は完全に把握できる代物だ。そして、黒兎のテレパシー能力。
まるで戦争に行く気分だ。無線機では無く、黒兎の声が便り。黒兎の指示に沿って、作戦が実行される。
緊張が走る。ロバートは背筋を硬直させたままだ。ロバートを一番緊張させているのが、メリーの安否だと言うことに、恐らくだれも気づいていない。
(――メリーさん。メリーお嬢さん……心配だ)
たった二人で『暗黒のアブホース』へ向かっていったのだ。いくらメリーが強いと言えど、心配でしょうがなかった。
『――ロバちゃん。『ウボ・サスラ』はどうしている?』
「相変わらずスカイツリーをぐるぐる廻っている。それにしても、気味の悪い色だ」
『まあ、黄身は綺麗じゃないの? あれ、卵みたいだし』
「……冗談は後にしてくれよ……僕はどうすればいいんだ?」
『今から雨道サンを先行させる。その後から、援護するように向かって頂戴。雨道サン、張り切ってるから、いきなり斬りかかるよ!』
「――オッケイ。僕も全力で攻撃するよ」
背後には、三姉妹が居る。彼女達もかなり強い。心配はいらない……。
「では、雨道サンに命令します。3……2……1……開始!」
弁慶のような衣服に身を包む雨道が薙刀を持って飛び跳ねる。高いビルを足で駆け上がり、一瞬で『ウボ・サスラ』と同じ視点になる。
「『韋駄天十歩、天空翔!』」
雨道が跳ねる! 何も無い風の中を進んでいく!
それこそ、神縛連合きっての鬼才の技の極みである。空歩は一瞬で『ウボ・サスラ』を眼前に控え、気合一閃掛け声と共に薙刀がその暗黒の球体を切り裂く!
一閃された薙刀が、球体を二つに分けた―――しかし、すぐに形を取り戻す。
「―――――ッ! くそう!」雨道の悔しそうな声。
『ウボ・サスラ再生! ロバちゃん!』
「『荒龍街路』!」
「『ヒヒイロカネ断層――“火竜牙”』!」
サラの魔術が高熱を宿す金属を生み出す。ヒヒイロカネ金属は熱を十分に滴らせ、ロバートの魔術『荒龍街路』の“弾丸”となる!
空洞を透視して行う『ドラゴンロード』の真価は、その型に合った製鉄師の力と合わせてこそ、本領を発揮する。
牙の弾丸は『ウボ・サスラ』を貫くために人間よりも大きい。熱された弾丸がロバートによって、引き金を絞られる。風の方向が『ウボ・サスラ』を照準に収め――射出された!
風の速度はもはや『ブラストロード』の比ではない。ゆうに千二百キロ。その最大出力が怪物の肉体に突き刺さる――しかし、『ウボ・サスラ』から弾丸による負傷は見られない。しかも、弾丸の威力、弾丸そのものは全て怪物に食われていた。
「――ちょっと……ここまで物理的破壊が不可能なの? 反則だって!」
「――冗談じゃない。『神縛法、六角結界』!」
『ウボ・サスラ』の周りに変化が起こる。『ウボ・サスラ』を中心に、六本の“神柱”が地面から顔を覗かせた。それは、見紛う事無き黄金の柱。
「術式支援」答えたのはテレスだ。
神柱から半透明の膜が生じる。結界の発動だ。『神縛り』を名乗る雨道の秘技にして、『神縛連合』必殺の結界奥義である。これには『ウボ・サスラ』も抵抗できない。必死にスカイツリーを回転しようと体をぶつけるが、結界に阻まれて進むことができない。
「よしよし……いい感じじゃないかぁ……解析開始するよ! 雨道サン、結界ちゃんと張っててね!」
黒兎の解析は簡単なものだ。怪物の中心点。心臓を探り当てる技だ。
精神を『ウボ・サスラ』に投影する。心中穏やかではない『ウボ・サスラ』。その精神は今まで監視してきた中でもありえないほど混沌としていた。
完全に隠れていた弱点も、これで―――と思った瞬間。視界に走る激痛。
「―――――――っッ! 駄目! 雨道サン!」
「――――? 何だって?」
同時に――『ウボ・サスラ』が“変形”した。球体だった『ウボ・サスラ』の体に亀裂が走る。それは、理科の実験でよく目にする『カエルの卵』の細胞分裂のようだった!
おぞましい亀裂と同時に、混沌の中を蠢く、奇妙な気配……。
「――生まれるわ……『ウボ・サスラ』がやってくる!」




