第6話 長屋の絆
絆が深まったその時、闇がそっと忍び寄る。
長屋の朝は賑やかだ。
暮六ツに閉じた木戸を魚河岸の弥助が開ける。
続いて齢八十のお徳婆さんが建て付けの悪い引き戸をガタゴトやって、通路で伸びをする。
それを合図のように、女房たちが井戸端に集まる。
「お光、米をそんなに研いでどうするんだい?」
お徳が柿崎源之助の妻・お光の釜を覗く。
「主人が怪我したんで、助っ人の新左衛門さんがいるんです。」
お光が答える。
「駕籠かきなら大メシだな。後でイナゴの蒲焼き持ってくよ。」
お徳は笑い、部屋に戻った。
四畳半の源之助の家は、新左衛門と源之助、息子の太助で窮屈だが賑やかだ。
久々のまともな食事に、新左衛門は朝食を平らげた。
そこへお徳がイナゴの蒲焼きを持ってくる。
「懐かしい味だ。母が作ったのはフグの粉末をまぶしてたがな。山椒みたいにピリリとくるんだ。」
新左衛門が言うと、お徳は目を丸くした。
「そりゃお陀仏だよ!」
源之助が笑い、太助以外がどっと沸く。
お徳の佇まいに、新左衛門は母の面影を感じていた。
日本橋の駕籠屋新道にある室町屋は、源之助の所属する老舗だ。
店は屈強な男たちで活気づく。
そこへ大柄な権八が現れ、新左衛門に声をかけた。
「源之助の助っ人か?いい体格だな!俺は権八、よろしくな!」
豪快に笑う。
「拙者、潔目処新左衛門、縁あって参りました。」
新左衛門が頭を下げると、権八は
「気楽にいこうぜ!」と肩を叩く。
室町屋は日光街道を縄張りとし、日本橋から千住宿まで客を運ぶ。
新左衛門は、かつて逐電した道を逆行する形だ。
「客なしで千住宿まで行くぞ。一刻で四里だ。エイッホッ、エイッホッの掛け声でな!」
権八が叫ぶ。
新左衛門は「エイホ、エイホ」と控えめに声を合わせるが、
「もっとでかく!」と権八に煽られ、「エイッホッ、エイッホッ!」と気合を入れる。
心地よい汗をかき、千住宿に着いた。
「よし、帰りは客を乗せるぞ!」権八の声に、新左衛門は「ヘィ!」と返す。
権八は「駕籠かきらしくなったな!」と笑った。
新左衛門も口元を緩め、客を乗せて日本橋へ戻る。
源之助は新左衛門の働きに胸を撫で下ろした。
夕餉には、魚河岸の弥助が新左衛門の住み込み祝いに振る舞った尾頭付きの魚が並ぶ。
太助がはしゃぎ、源之助とお光が穏やかに話す中、新左衛門は会津の故郷を思い出す。
そこへお徳が現れ、魚の頭を回収し始めた。
彼女は薬草を商い、鼠退治にトリカブトの根と魚の頭を煮て使う。
即効性の神経毒で鼠を仕留め、翌日に死体を回収するのだ。
石見銀山は高価で害もあるため、使わないのが彼女の流儀だ。
新左衛門はお徳の薬草の香りに母を重ね、
長屋の絆に心温まる。だが、数日後、この平穏を揺るがす事件が起きる。
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