第4話 道祖神の導き
「生き延びた理由が、雪の道で少しずつ形を変えていく。」
雪は会津西街道を厚く覆い、潔目処新左衛門の足跡を瞬く間に隠した。
清見彦左衛門を斬り、姉・志乃が涙ながらに手渡した金子と、親友・藤川義高が差し出した尻拭きの紙を懐に忍ばせ、
江戸への逃亡を決意した彼は、凍てつく闇を黙々と進んだ。
芦ノ牧の宿場では、雪に埋もれた提灯の下で息を潜め、追っ手の噂が風雪に混じるのを耳にしながら一夜を過ごした。
大内宿の茅葺き屋根の下、祠に身を寄せ、毒味役の身に染みた便意を堪えながら薄い眠りに就いた。
白河の関では、検問を避けるため雪崩の危険な山道を進み、足が霜焼けで腫れ、金属製の箸を握る手がふるえた。
宇都宮にたどり着いた時、干飯が尽き、雪解け水を啜って空腹を紛らわせた。
夢には彦左衛門の裏切りと、義高の「生きろ」という声が響き合い、心を乱した。
やがて江戸・日本橋に辿り着いたが、それは瞬時に、辿り着いてしまったという後悔へと変わった。
背後で馬蹄の音が近づき、反射的に人混みに紛れて路地裏へ逃げ込んだ。
そこで四つ辻の苔むした道祖神の傍に身を潜め、討手や甥・隼人が現れるのを半年以上待ち続けた。
刃向かうこと無く、潔く討たれる。それが逃亡中に新左衛門の出した答えである。
ある夕刻、茂みに身を寄せていると、ふくよかな初老の男性が刃物男に襲われる現場に遭遇。
尻も拭かぬまま道祖神の気配に押され飛び出し、刃物男の足を浅く斬って窮地を収めた。
新左衛門の無言で差し伸べた手に初老の男が銭を渡そうとしたが、「未だ尻の始末がつかず、紙を所望」と要求し、
紙だけを受け取って男を去らせた。
この出会いこそが、新左衛門の逃亡生活に新たな転機をもたらすのである。
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