第9話 シナリオ再構築
頭を抱えて、転げまわっていた翌朝。恋愛経験ゼロという残酷な現実を受け入れた俺は、玉砕覚悟でアリシアに接することを決めた。冷静に思い返して、2次元以外の女性とまともに会話したことの無いという事実。それは、逆に俺を正気に引き戻したのだった――
そして、覚悟を決めて入った教室。そこには、全く予想すらしていなかった光景が広がっていた。
「あはは、私は聖女よ。公爵令嬢如きが、私に文句を言うなんて百年早いわよ!」
「くっ……聖女なら、聖女らしくしていなさい! どうしてわたくしの教科書を破り捨てたのです!」
目の前で繰り広げられていたのは、ピンク髪とアリシアの喧嘩。しかし悪役はピンク髪という、理解不能な光景だった。
【鑑定:ロザリア・ルミナス】
種族:人間
年齢:15
備考1:ルミナス家長女
備考2:悪役聖女
備考3:繧キ繧ケ繝�Β縺ョ譖エ譁ー縺ォ繧医j險ュ螳壼、画峩貂医∩
【鑑定:アリシア・フォン・ヴェルトハイム】
種族:人間
年齢:15
備考1:ヴェルトハイム家長女
備考2:ヒロイン、攻略対象(逡ー迚ゥ縲翫ヰ繧ー縲�)『親密度+5』
備考3:繧キ繧ケ繝�Β縺ョ譖エ譁ー縺ォ繧医j險ュ螳壼、画峩貂医∩
「なんだ……これ……」
ピンク髪の鑑定結果に記載されていたのは、「悪役聖女」。そしてアリシアは、「ヒロイン」に書き換わっている。しかも文字化けがふたりとも増えているとか、何が何だか理解が追い付かない。
【鑑定:ボイド・シュレディンガー】
種族:人間
年齢:15
備考1:下級騎士の息子
備考2:攻略対象メイン(フラグ成立)
備考3:汚染度0%(初期化済み)
そして、鑑定結果を見て、俺はようやく事態を把握した――シナリオの再構築。つまりストーリーレベルで書き換えられていると……。
「大丈夫か、アリシア! 貴様、聖女とはいえ、たかが平民の分際で……」
そこに現れたのは王太子。こいつはある意味設定どおりだが、その対象が入れ替わっていることに本人も気が付いていないらしい。アリシアを庇い、ピンク髪を睨む姿は、設定としては正しいのかもしれないが……。
【鑑定:リチャード・フォン・アルデリア】
種族:人間
年齢:15
備考1:アルデリア王国王太子
備考2:攻略対象(フラグ未)
備考3:繧キ繧ケ繝�Β縺ョ譖エ譁ー縺ォ繧医j險ュ螳壼、画峩貂医∩
こいつも書き換えられている……。シナリオ再構築どころか……別の乙女ゲーに入れ替わったと考えるべきなのかもしれない。そして、王太子の背後に現れた、ゆかいな仲間たち。
【鑑定:ハンス・フォン・リヒター】
種族:人間
年齢:15
備考1:モブキャラ
備考2:リヒター家嫡男
備考3:繧キ繧ケ繝�Β縺ョ譖エ譁ー縺ォ繧医j險ュ螳壼、画峩貂医∩
【鑑定:ゲオルク・フォン・ヴェルトハイム】
種族:人間
年齢:15
備考1:モブキャラ
備考2:ヴェルトハイム家嫡男
備考3:繧キ繧ケ繝�Β縺ョ譖エ譁ー縺ォ繧医j險ュ螳壼、画峩貂医∩
【鑑定:クリス・フォン・ホーエンハイム】
種族:人間
年齢:15
備考1:モブキャラ
備考2:ホーエンハイム家嫡男
備考3:繧キ繧ケ繝�Β縺ョ譖エ譁ー縺ォ繧医j險ュ螳壼、画峩貂医∩
……マジか、こいつら全員モブに格下げされている。確かに公爵令嬢がヒロインなら、王太子が粉を掛ける以上、貴族の子供は手出しできないよな……ってか、そんなことを冷静に見ている場合じゃねえ! アリシアも初期化されたのなら、昨日までのことはどうなるんだ? 俺との関係性すらリセットされたのか、それとも――
「アリシア!」
俺は、アリシアの元に駆けより、思わずその手を握る。
「ボイド……わたくし……」
アリシアは俺を見ると、すぐに抱き着いてきた。しかし、鑑定結果の「フラグ成立」のせいかもと思うと、心がチクリと痛む。
「貴様! アリシアになれなれしいぞ! 下級騎士の息子の分際で!」
まるでさっきピンク髪に掛けた言葉の、焼き直し。そんな台詞を、俺にぶつける王太子。背後のモブに成り下がったゆかいな仲間たちも、「そうだそうだ」とモブらしい台詞で背景になっていく。
「あらあら、公爵令嬢なのに、そんなに男を侍らして、下級騎士の息子に抱き付くとか。淫売として査問に掛けるべきかしらね? それに、私があなたの教科書を破ったなんて、言いがかりはやめてちょうだい!」
しかしピンク髪は、モブではなくメインキャラとして、ある意味生き生きとした姿で、アリシアを罵る。しかし、こいつの素が以前見た八方美人なら、今の姿は強制力によるもの……なのだろうか? あまりの急展開に、俺の頭はショート寸前だ。
昨日までの印象がしっかり記憶にあるところに、役割がごっそり入れ替わるとか、悪夢にしてもたちが悪すぎる。
「とりあえず、逃げるか?」
俺は胸元に顔を埋めるアリシアに、そう囁くとその手をしっかり握って教室から抜け出した。
「公爵令嬢の癖に、逃げる気なの――!」
背後からピンク髪の怒声が聞こえるが、今はそれどころではない。少なくとも現状を把握するまでは、勝手にイベントが進行するのは絶対に避けたいのだ。
「はあ……はあ……」
結構な距離を、走った気がする。気が付けば校舎も抜け出し、以前来たケーキ屋の前だった。ここは、親密度が勝手にプラスされた場所。俺にとっては、あまりいいイメージのない場所だ。
「ふふっ、ここって前にデートした場所ですわね」
何の違和感もなく、少し頬を染めるアリシア。その言葉は、以前の記憶をしっかり持っていることを裏付ける。
そして、少し冷静に考えると、昨日までのアリシアは俺といる限り、悪役令嬢ではなかった。そういう意味では、今と何も変わりがないのではないだろうか?
つまり変わったのは、俺とアリシア以外。
そしてその差はおそらく、「汚染」ではないだろうか――




