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乙女ゲーの世界に転生したモブが、公爵令嬢と付き合うことになった話  作者: 乙賛


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第8話 仮説の裏付け

 俺の仮説の裏付けが取れた、体育の時間。だが確認したのは、あくまでも攻略対象でしかない。確認の本丸は、メインヒロインと悪役令嬢なのだ。攻略対象の鑑定結果は、以前と何ひとつ変わっていなかった。それは、「汚染」の影響が及んでいないということだろう。「汚染」の影響を受けたアリシアと、メインヒロインの素の行動を確認するまで、安心することは出来ない。




 授業の合間の休み時間。トイレと偽って、そばに居たがるアリシアを振り切る。ピンク髪が、一人で教室を出て行ったためだ。ピンク髪がメインキャラと離れることなど、めったにない。そしてそんなチャンスを、今の俺が見逃すわけは無かった。


【鑑定:ロザリア・ルミナス】

 種族:人間

 年齢:15

 備考1:ルミナス家長女

 備考2:ヒロイン(フラグ15%)

 備考3:逆ハールート聖女エンドに順調に進行中


 鑑定結果は、王太子たちと同様変化はない。それは言い換えれば王太子たちとの仲が進展していないと言うことだ。


「あはは、ひさしぶりー」

 行き交う生徒たちにも、愛想を振りまくピンク髪。ひょっとしてこいつって、素で八方美人なのか? いわゆる陽キャと思えば、そういう奴もいるのかと思えないこともない。そうしてみると、本当に自然に声を掛け笑顔を振りまくピンク髪は、まさにメインヒロインと思えてくる。こんな奴が実際に居れば、そりゃ人気者になるだろう。


 なんだろう、こいつだけイベント中との差が見えない。そういえば、ケーキ屋でもこいつだけは普段通りだった。アリシアですら、違和感を感じさせたのにだ。これがメインヒロインの力なのか? それともメインヒロインを中心に、世界が強制力で書き換えられているのかもしれない――


 俺は自分の思い付きに寒気を覚えると、身を翻して教室へと戻った。





 ピンク髪の次は、アリシア。攻略対象が俺になってしまった彼女が、素の状態で、悪役ムーブをかましていればアウト。ごく普通の公爵令嬢としてふるまっていてくれれば、俺の仮説は少なくとも破綻はしていないことが分かる。


 別の授業となった時間、いわゆる貴族向けと、それ以外で分けられた時間がチャンスだ。俺は体調不良を訴え、授業を抜け出すことに成功する。先日ずる休みをしていたために、すぐに納得されたのはラッキーだった。


 そして向かうのは当然、貴族の集まった教室だ。


 教室内は、何やらグループになって何かしている。残念ながら、話し声までは聞こえないが、アリシアの表情には悪役令嬢の影は見えない。思わずガッツポーズをしそうになるが、念のためもう少し様子を見る。だが、グループ内で朗らかに談笑するアリシアは、ただの美しい貴族令嬢にしか見えなかった――





 放課後、自室に戻った俺は、仮説の検証結果を思い浮かべる。


 王太子とゆかいな仲間たち、そしてアリシアは、身分や年齢にそった違和感のない行動。これは、俺の仮説通りイベント以外は、素であることを裏付けてくれる。


 問題はピンク髪だ。奴だけはイベント中でも、そうでなくても素の状態。メインヒロインだからと、納得するべきなんだろうか?


 そして、仮説が正しいとした場合の、今後の俺の動き方だ。


 イベントが発生すれば、何をどう足掻こうとも結果は覆らない。これは白紙答案のテストで、立証済みだ。じゃあ、イベント以外の時間をどう過ごすのかが、肝になってくる。


 だが、その前に一つ決めることがある。それは俺の目的、目標だ。


 単に、強制力から逃れるだけでいいのか。それとも……。


 俺の頭に浮かぶのは、アリシアの笑顔。あれを、本当の意味で俺のものにしたい。そう思うのは、身の丈に合わない高望みなのだろうか? このまま放置すれば、俺はアリシアの攻略対象なのだから、ある意味では俺の目的は達成できてしまう。しかし、それは強制力によるもの。シナリオが終われば、魔法が解けるように強制力も消えて、俺たちの関係も消えてしまう……そんな可能性も否定できない。


 考えたくない未来図に、俺の頭が痛む。


 イベント外で、アリシアとの好感度を上げて……好感度ってなんだ? そんなものを上げても意味は無い。乙女ゲーのシステム外のところで、アリシアとの距離を縮め……ってどうすればいいんだ? 


 これまでの恋愛経験の少なさ……無さが、ここにきて大きな壁となって立ちはだかる。転生前の記憶にも、残念ながら付き合った記憶がないし、当然この世界でも……だ。


「あー! 彼女ってどうやって作ればいいんだよ!」

 思わぬ伏兵に、俺はただ頭を抱えるしかなかった――





 ボイドが頭を抱えている頃――


「あれえ? 殿下もみんなも私のことを好きって言ってくれたのに、なんで進展しないのかなあ?」

 薄暗い部屋で、一人の少女が虚空を見つめて呟く。その抑揚もなく、感情も籠らない機械的な声――音声は、やがてノイズに塗れていく。



「繝懊う繝�くんが、じゃましてるのかな?」


「えっ、違う。私のせいじゃない!」


「やだ! やめて! わたしが幸せになるはずなのに!」


「いやだ! 取らないで!」


「私が繝偵Ο繧、繝ウだったはずじゃない!」


「なんで、繧「繝ェ繧キ繧「讒�に取られちゃうのよっ!」


 途中から、悲鳴のような絶叫に変わる声。だがその声すらも、抑揚は無くただ音量が上がっただけにしか聞こえない。


 そして、薄暗い部屋の中、激しく揺れる桃色の髪は、やがて動きを止めた――

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