第3話 ただのモブであってくれますように
まさかの、また鑑定のレベルアップ。王太子とゆかいな仲間たちを鑑定しただけでレベルアップとか、もう作為アリアリのマシマシだろ。とりあえず、鑑定結果は確認しておくか……。
【鑑定:アリシア・フォン・ヴェルトハイム】
種族:人間
年齢:15
備考1:ヴェルトハイム家長女
備考2:悪役令嬢
【鑑定:リチャード・フォン・アルデリア】
種族:人間
年齢:15
備考1:アルデリア王国王太子
備考2:攻略対象メイン(フラグ未)
【鑑定:ハンス・フォン・リヒター】
種族:人間
年齢:15
備考1:リヒター家嫡男
備考2:攻略対象知力担当(フラグ未)
【鑑定:ゲオルク・フォン・ヴェルトハイム】
種族:人間
年齢:15
備考1:ヴェルトハイム家嫡男
備考2:攻略対象体力担当(フラグ未)
【鑑定:クリス・フォン・ホーエンハイム】
種族:人間
年齢:15
備考1:ホーエンハイム家嫡男
備考2:攻略対象神力担当(フラグ未)
……なんだよこれ。もう「攻略対象」とか書いちゃってるじゃん。ってか、あの脳筋キャラってアリシアの血縁なの? まったく似てないんですけど……。なんか情報量が多すぎてパニクってくる。この状態で自分を鑑定するのが怖い。フラグとかどうでもいいから、ただのモブであってくれますように……そう祈るように自分を鑑定した……。
【鑑定:ボイド・シュレディンガー】
種族:人間
年齢:15
備考1:モブキャラ(フラグ成立済み)
備考2:異物
「バグって、なんだよ!」
その内容に思わず、声を出してしまう。だが、ふと前を見ると、アリシアが首を傾げながら俺を見つめている……。やっちまったー! そういや、アリシアと教室に向かってる途中。しかも王太子に絡まれた直後に黙り込んで、急に叫ぶとか……。
「大丈夫、ボイド? あんなのでも、王太子に睨まれれば、やっぱり恐ろしいものなのね?」
なんか、アリシアはとてつもなく都合よく解釈してくれているようだ……。なんだろう、この気持ちの悪い違和感。脱線することを許さない、強引な捻じ曲げによる歪さとでも言えばいいのか。とはいえ、モブで小心者の俺はアリシアを放置することも出来そうにないらしい。
「あ、ああ、ごめんなさい。王太子殿下たちに睨まれるとか、ちょっと心臓が痛くなって……」
「あらあら、じゃあ礼拝室に行けば神官が居るはず。そこで見てもらいましょう」
「いや、大丈夫大丈夫。もう痛みも引いたし、遅刻する前に教室に行こう」
「そう? ちょっとでも痛みがあれば言うのよ」
何故かとても心配してくれるアリシア。悪役令嬢なのに、キャラ設定が崩壊しないんだろうか? そんなどうでもいいことを考えつつ、俺たちは教室へと向かった――
*
いつの間にか消えていた、王太子とゆかいな仲間たちは定位置――ピンク髪の周囲を衛星のように周回してる。
「なあ、ロゼ。こんど王宮へ遊びに来ないか?」
「そんな堅苦しい所より、美味しいケーキ屋を見つけたのですよ」
「ばかやろう、そんなのより一緒に訓練だろ」
「はあ、ロゼのような可憐な少女が訓練などするはずがないだろう」
必死で話し掛け互いをけん制する姿は、高位貴族、ましてや王族にはとても見えない。そしてピンク髪は、王太子を侍らしていることを当然かのように振舞い、他の教室の連中もそこに違和感を感じている様子がない。その様子こそが、違和感の塊なんだがな……。
じっと様子を見ていると、気持ちが悪くなってくる。メインキャラで残ったピンク髪でも鑑定してみるか。
【鑑定:ロザリア・ルミナス】
種族:人間
年齢:15
備考1:ルミナス家長女
備考2:聖女候補
【ピコーン! 鑑定レベルが上がりました!】
【鑑定:ロザリア・ルミナス】
種族:人間
年齢:15
備考1:ルミナス家長女
備考2:ヒロイン(フラグ15%)
備考3:逆ハールート聖女エンドに順調に進行中
……これで鑑定LV5。この二日で4つもレベルが上がるとか、絶対何かあるだろ。思い返せば、メインキャラを鑑定するたびにレベルが上がっている気がする。これって、何か意味があるんだろうか?
内容は……もう諦めた。乙女ゲーなのは確定だろ、こんなのは。問題は俺の立ち位置というか役割。さっきは人を、異物呼ばわりって、それならまだモブのほうがましだろ。
事態が好転する、わずかな可能性に期待して、俺は自分を鑑定する……。
【鑑定:ボイド・シュレディンガー】
種族:人間
年齢:15
備考1:モブキャラ(フラグ成立済み)
備考2:異物
備考3:汚染度2%
汚染……。俺《《が》》、なのか、俺《《に》》なのかで、意味がまるで変ってくる。もちろんユーザマニュアルも、ヘルプも無い以上、答えを得る術は無い。もはや溜息も出ず、呆然とする俺を放置して、その日の授業は気が付けば終わっていたようだ――
*
ここは魔法学園、つまりは魔法の勉強がメイン。とはいえ、一般教養としての国語、算数、歴史や地理みたいな授業もあるし、体育というにはちょっと物騒な授業も存在する。何が言いたいかというと、中間テスト的なテストがあるのだ。
入学からひと月ほど経過し、ちょうどユーザが慣れた頃に発生するっぽいイベントだ。それを証明するかのように、メインキャラたちは無駄に張り切っていた。
「アリシア! 入学テストでは負けたが、次こそは負けんぞ」
「ふふっ、負けたというよりも、ボロ負けでしょ? 首位のわたくしと、二桁順位の殿下では勝負になりませんわ――おーほっほっ」
王太子とアリシアは、婚約者という設定だが、乙女ゲーらしく対立。
「ロゼ、私が勝てばデートしてください」
「あー、俺はちょっと今回はパスだ。体力勝負の時には、賭けをしようぜ」
「ゲオルクは、もう少し勉強に力を入れるべきでは? 馬鹿に騎士団長は務まりませんよ」
「みんな、喧嘩しないで。仲良くしてるのが一番いいもの」
ゆかいな仲間たちとピンク髪は、いちゃいちゃしてやがる。傍から見てたら、大根役者の上辺のやり取り。作業のように会話して、好感度でも上げてるかのようだ。
おそらく、次のテストは何かのイベントなんだろう。乙女ゲーがこれ以上進行するのは避けたいが、そんな俺の想いは強制力の前では無力。俺は目の前で繰り広げられる茶番を見ながら、深い溜息を吐いた――




