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勇者の計画  作者: 青嵐 瑠璃


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LEVEL80. 海を見る夢


「勇者は?」


セインの問いに沈黙が流れ、ロンが耐えられなくなって答えた。


「魔王を倒す」

勇者とは、魔王を倒す者。


セインは頷いた。

「勇者は生まれるものじゃなく、なるものなんだと俺は思う」

魔王に挑んで負けた者は歴史の陰に葬られ、勝った者だけが勇者として語られる。


母から聖力を、父から魔力を授かった。

長に戦力を鍛えられ、自分で知恵を身に着けた。

それはそれで、全て中途半端。

何者にもなれない俺。


「俺はまだ、勇者じゃないんだ。だから、あいつが嘘つき呼ばわりしても、仕方ない」


セインという青年は、宣言した。

「俺は、勇者になる」

中途半端は終わらせる。


「旅の目標は、打倒魔王だ」


俺を疑い、罵ると恐れていた。

だけど、予想外にすっかり負けた。

こいつらは、こんな俺を信じてくれる。


「セインを、誰にも偽物なんて言わせない」

とシュシリアンヌ。

「絶対に勇者にする」

とロン。

「セイン・ヘーゲルが諦めても、わたしたちが諦めないからね」

とマリー。


「―――お前、すげえな。本当に記憶力いいんだ」

たった一度、出発式で呼ばれたセインの名。


「当たり前じゃない、一蓮托生になる人のこと忘れたりしない」

「あれ、意外にも博学」

「一蓮托生くらい、知ってるわ!!」

いつものマリーと勇者の落ちに、シュシリアンヌはつい笑った。


シュシリアンヌがロンに視線を投げると、ロンは笑っていなかった。


「どうかした?ロン」

マリーと勇者も笑いを止めて、ロンを見た。


「セイン、旅の目標は魔王討伐だ。だけど君(・)の(・)目標は勇者になることか?」


◆



ロンは頭がいい。しかも、よく見ている。だから頼りになるが、まったくもって厄介だった。


「俺(・)の(・)目標を知って、どうする?」

質問に質問を返してやる。ロンにしては、言葉を選ばずに漏れたのだろう。ロンは、沈黙した。


「はぁ?どういうこと?」

マリーは分かっていない。


シュシリアンヌは、じっと見ていた。

ああ、シュシリアンヌが好きだ。



「俺の目標は、魔王を倒した先にある。魔王は倒す自信がある。俺の目指すものは、誰にも告げるつもりはない」

「セインは、ご褒美が欲しかったのぉ?」

マリーの様に、思ったことを素直に口にして生きたかった。


「褒賞をもらった後は?」

と、シュシリアンヌ。


「旅は終わるだけだ」

「どういうこと」


「俺は、俺の自己満足だけのために旅に出た。だけどきっかり勇者になる。信じてくれ」


君たちは俺を疑わずに、勇者だと言ってくれた。

だから、俺も誠実の限りを尽くす。


◆



「セインって、何考えてるんだろう」

窓の外を覗いていたマリーが、やっとカーテンを引いた。窓の外を暫く見張っていて、やっぱりセインはこっそりと出かけて行った。


随分と前から、皆が気がついていた。セインは時々夜中に出かけていた。


もう、勇者一行として相応しい装備も、劇的な回復薬も揃っている。シュシリアンヌは持ち物だって魔空間にある程度放り込めるし、実はいつでも王都に戻れる。

何ならマリーだって、一人くらい死んでも望むなら復活させらそうだし、ロンだって魔王くらい殺れるんじゃないだろうか。


「私ね、勇者は救う人だと思う」

シュシリアンヌはソファに座ったまま、マリーの閉めたカーテンを見ていた。


「言えなかったけど」

シュシリアンヌは、視線を外してため息を着いた。セインが人を救うから、そう思ったのかもしれなくて、自信がなかった。


セインは、厳しさも持った人だ。不器用で、優しくて、空回りすることもあるけれど、誰よりも一生懸命な人だ。



心を落ち着けるためにグラスについだ果実水を飲むと、マリーが並んで座った。

「私、シュシリアンヌに賛成」

セインは、辛い毎日からマリーを救ってくれた。


「勇者は救う人、うん、いいね。でさ、ねぇ、アンヌって好きな人いるぅ?」

突然のマリーの質問に、シュシリアンヌは果実水を吹き出しかけた。


「ご、ごほっ。お、おりっませんわ」

姫様モードは、平常心でない証拠。


「いるんだぁ」

「そ、その、マリーこそ、どうなの」

「ロンが好き」

今度こそ、シュシリアンヌは果実水を吹いた。


「アンヌ、恋愛耐性無さ過ぎぃ。そんなんじゃ、王様のお仕事務まらないよ?」

「そ、それとは、別っでございますっ」

「わたしがロンを好きなの気がついてないの、アンヌだけだよぉ」

「ロ、ロンにおっしゃったのですか」

「いや、流石にさぁ、振られちゃったら気まずいから、魔王を倒した後に言おうと思ってる」

そ、そうなのですかと言って、シュシリアンヌは口元やら手元やらを拭いた。


「セインに抱きついてたからさぁ、好きなのかなぁって」

「だ、抱きつい、は、破廉恥な」

いやいや、抱きついてたのはアンヌなのに。全くもって純粋培養だ。


「セインって、格好いいよねぇ」

「そ、それは、否定いたしませんが」

「だけど、何よぉ」

「セインに好きな人がいるかも知れないでは、ないですか」

うっわー。全然気づいてない。

海にいる時、ガン見してたのに。


「いるだろうねぇ」

「いるんで、ございますかっっ」


聖女は、最高に面白い魔法使い(おもちゃ)を手に入れた。


◆



「たまには付き合おうかと待ってたけど、思ったより遅かった」

ブツブツと文句を言うロンが木の影から現れて、セインはぎょっとした。


「お前、寝てた」

「適当にクッションを突っ込んだのに騙されるなんて、勇者になる気あるのか」


さっき黙らされた仕返しに、黙らせてやる。

「シュシリアンヌにこだわる、勇者様」

「こ、こだわってな―――」

いや、誰よりもこだわってるんだ。

分かってる。


「おい、セイン本当に黙るなよ」


「おーい」


勇者は顔に片手を当てて、黙っていた。

シュシリアンヌが、自分の事であれほど動揺するとは思ってもみなかった。


ロンは言ってやる。

「魔物なんか斬ってんなよ」


「俺、やっぱり愛情と友情はよく分からない」

「その勇者っぽくない、弱気な発言なんなの」


「俺は元々、勇者に相応しくない」

「でも、何だかお前の目標のためには勇者じゃなきゃ、ダメなんだろ?」

「まあ、そうなんだけどさ」


セインは、よくシュシリアンヌを見ていた。

海でなんて、ガン見していた。

思い返せば、最後に魔法使いの仲間を決める時には、シュシリアンヌが出てくるまで粘っていた。



セインの首に強引に腕を回し、ロンは歩き出した。

「酒飲もう」

「おう?おうよ」


「聞いてやるよ、セインの話」

「誰にも言わないって、聞いてたのかよ??」

「気分だ、気分」


「憶えてろ」

「大丈夫だ。忘れろ」


戦士は、最高にひねくれた勇者(おもちゃ)を手に入れた。


◆



マリーと話したからか、夢を見た。


シュシリアンヌは、海を見ていた。キラキラと光る海は、湖とは違う匂いがした。波はずっと絶えない。


子どもの頃からの夢は呆気なく叶い、マリーがはしゃぎ回っていた。ロンが止めに行き、巻き込まれて波を被っていた。ずっと海を見ていた。



隣で海を見ているのは、勇者だった。

けれど、夢の中ではあの子で。


シュシリアンヌは、気がついて唖然とした。自分の目標は、海に行くことではなくなっていた。約束を果たすことが目標になり、あの子と一緒でなくては海を見る意味がない。生きることに疲れた時には、何度も思い返した約束だった。


夢を叶えたかったから、夢の中では隣にいるのはあの子だった。


あの子は、きっと約束を忘れていない。たった一度会っただけで、それでもシュシリアンヌは忘れたことがない。だからだと言ったら暴論だが、否定されたらシュシリアンヌはどうしていいか分からない。


勇者を否定されて、シュシリアンヌは酷く動揺した。まるで、あの子を否定されたようで。

勇者が旅を頑張ってきたように、あの子も何処かできっと生きている。なぜだか、勇者を否定されたら、約束も否定されてしまう。



夢の中、口の悪い勇者が、まるで成長したあの子のように笑ってアンヌを呼んだ。


そうだ。


海を見る他に、もう一つ約束をした。



うん。私、頑張るから。

貴方に会うまで、頑張るから。



ああ、これは、凄く幸せな夢だ。




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