レベル50. パーティー
「帰ったら、リアの親父ぶっ飛ばす!!憶えてろ!!」
武器屋でお金が足りず、勇者はまた宣言していた。いつものことに、三人は苦笑する。
旅の初めには性格に難あり、口が悪くて少し怖いとさえ思っていた勇者。今では、ただの悪ガキである。
パーティーは変わった。誰が欠けても成り立たない。上下の関係でもなく、横並びでもない。
適材適所で連携を取るようになり、パーティーとしての力は飛躍的に伸びた。
魔物を確実に倒し、金に困らなくなり、装備も持ち物も良いものに変わった。更に強い魔物に挑み、経験値を上げていく。実感と自信。好循環が続いて、旅の速度も上がった。
だが、時々その行く手を阻むのが、駄々をこねる勇者だ。今も、不相応と言う皆の声を聞かず、突っ走った結果、武器屋を出ても不貞腐れて食堂にいた。
「勇者って、憶えてろが口癖よね」
マリーが、いつも通り空気を読めずに素直に言う。
勇者はてっきり怒り出すのだと、ロンとシュシリアンヌは思った。
「口癖じゃねーよ。憶えてるべきことに、本気で自分に言ってる」
「なるほど」
天井を見たあと、マリーは納得したらしい。
勇者は、何に憶えてろって言ったっけ?
「マリーは、憶えてるの?」
「憶えてるよ。孤児院でも聖堂でも、忘れると怒られたし、憶えてるのは私も癖かも」
分かるとは別だけどね、とマリーは続けた。
「鳥頭だからな」
「ガキが煩いわ」
「ガキ言うな」
二人の仲は、良いのか悪いのかは分からないが、気は合うのではないだろうか。
食堂の給仕が追加のパンを置いて、取り合う二人を見ながらシュシリアンヌは思い出していた。宿屋でも勇者も一緒に食事するようになったのは、何時だか定かではない。でも、その時のことは憶えている。
宿屋の廊下で、男女に分かれて部屋に入ろうとした時、マリーが言った。
「さっき、女将が教えてくれたんだけど、隣の食堂のサツマイモが美味しいらしいよ」
一番、生活力のあったマリーが食事のことを仕切ることが多くなっていた。
「サツマイモじゃねえだろ、マイサモツって言ってたろ」
勇者が、突っ込んだ。
どっちが合っているか確かめに四人で隣の食堂に行って、イモでもモツでもなく冷たいデザートが出てきた。そのまま、夕飯の食べ直しにハシゴした。
今、思えばマリーは確かに記憶力がいい。あれは、わざとだったのだろうか。
思わず笑みの漏れたシュシリアンヌに、勇者が突っ込んだ。
「リアまで笑うのかよ」
「いや、勇者のことを笑ったんじゃなくて、思い出し笑い」
「嘘つけ」
また、そうやって思ってもないことを言うひねくれ勇者。
あなたが不器用だって、もう、みんな知ってるよ。
◆
予定より旅が早く進み、時間を気にせずに済むようになって、余計なことを考えてしまう。
自分だけが空回りするようで、セインは今夜も森の中で格下の魔物を斬っていた。今はもう、金のために森の奥へ行くことはない。
シュシリアンヌは相変わらず純粋で、無防備に笑っていた。あの笑顔が、自分に向けられなくなる、旅の終わりが刻々と近づいている。
シュシリアンヌだけでない。
マリーも、ロンも、嘘つきと罵るかもしれない。
もう一度、勇者の目標と、自分の目標を確認する。もう一度、覚悟を決める。
その日まで堂々と演じていられるように、上手くいくイメージを繰り返す。
こんなにも小心者な俺は、本当は勇者ではないのだから。
◆
勇者が昼食を取ろうと、宿の階下の食堂に行くとマリーがポツンと座っていた。
今日は休息日。シュシリアンヌはこの領の領主に会いに行き、ロンは着いて行った。
「もう飯食った?」
へへっと笑うマリーは、あーもう見ていられない。
「変な顔になってるぞ」
「変、言うなぁ」
マリーは、我慢しているせいか変な顔になっていた。
勇者は、黙って二人分の皿を持って戻ってきた。勝手にマリーの前にも置いて、勝手に食べ始めた。
「あの女か」
「うん」
一つ前の街で、勇者一行のロンを待っていた女がいた。以前に旅先で困っているときに、ロンが助けてくれたと言っていた。彼女は、今まで年に何度かロンに会いに王都に来ていたらしい。
彼女の兄が、好きな男に何度も会いに行くくらいなら、早く白黒つけろと言っていた。
こーんな遠い所から、会いに行くほどロンを好きな彼女は、ナイスバディだった。
小柄なマリーは子ども体型で、なけなしの胸に、色気のない大根足。
最近は、勇者一行に会おうと待っている人がいるのも珍しくなかった。勇者だって、黙っていればイケメンだ。
「腹減ってると、元気出ないぞ」
マリーも、もそもそと食べ出した。
「勇者って、綺麗に食べるよねぇ」
ナイフとフォークを使うときなんて、尚更。
よく食べると勘違いしているみたいだから、言ってやる。
「あんた、いいお家で育ったんだねぇ」
マリーは聖女になってから、元々の育ちの見分け方に気がついた。何百回、何千回と繰り返す食事の仕草は、簡単には変えられない。
「何で、大好きアンヌに着いて行かないのぉ」
途中で招かれた街で、勇者はシュシリアンヌと踊って見せた。ロンでは身長が釣り合わず、勇者は急な指名にあたふたしていたクセに、ワルツが踊れた。
勇者は吹き出しかけ、むせた。
「それはいいから、ろ、ロンがいたら、お前一人でどうしてたんだよ」
「うわー、友情だぁ」
また、泣きそうで変顔になったマリーに、勇者は不思議そうに呟き返した。
「友情??」
勇者が、どんなに本を読んでも分からなかったやつだ。
「とにかくマリーとあの女とは違うんだから、比べるのが間違ってんだろ」
「そっか、そうだねぇ」
「お前は、鳥頭やってろ」
聖女は心の傷には、万能ではない。
だけど、仲間がいるからそれでいい。
◆
「勇者と来なくて、よかったの?」
ロンに聞かれて、シュシリアンヌは不思議そうにした。
「ほら、礼儀とか僕は分からないし」
「でも顔が広いほうが、ロンはいずれ商売しやすいでしょう」
一つ前の街で、ロンの知り合いの女性に会った。彼女も商家の人で、ロンはいずれは商売をして、商売仲間にしたいと言っていた。
同僚と二人で街を巡回している時に、困っている彼女に声をかけた。彼女は同僚に一目惚れして、年に何度か口説きに来ていた。
「勇者なら、ダンスも踊れるみたいだし」
「そうなんだよね。マリーも驚いてた」
シュシリアンヌは、誰でもダンスが踊れるものだと思っていた。庶民は、基本は踊れないと最近知った。
「勇者ってさ、一人の時、結構ボケっとしててさ」
いや、一人じゃなくて二人で部屋にいる時も。最近は、多分、元々はそんな感じののんびりした奴だと思う。
「何者なんだろう?」
「それは、勇者なわけだから勇者でしょう?」
「それは、そうなんだけど」
ロンは、突然気になった。
勇者の名前、なんだっけ?




