レベル40. レベルアップ
求められる立場を見失ってはいけないって言われたけど、試験の中日に書き始めた時点で色々見失っている。
昨日の夜は謝っていたマリーが、今朝はベッドの上の勇者に怒っていた。怒る気力があるほどには、回復していた。
「ああ、俺のせいだ」
勇者は、判断ミスを認めた。逃げられるだけの余力を、残しておくべきだった。
黙って聞いていたロンが、口を開いた。
「僕が怒っているのは、貴方が一人で決めてしまったことと」
静かな声で続けた。
「そして、そうさせてしまっていた自分たちにも」
シュシリアンヌが零した。
「私は、この旅に必要ない」
「シュシリアンヌじゃなきゃダメだ!」
シュシリアンヌに向けた勇者の顔が、今までになく焦っていた。
それでも、シュシリアンヌは考えていたことを全て言っておくべきだと思った。
「いいえ。他の魔法使いと交代―――」
「ダメだっっ!!絶対にさせないっっ!!」
身を乗り出した勇者はベッドから落ちかけ、ロンが止めた。
「どうして。この旅に絶対に必要なのは勇者だけだ」
ロンも気づいていたのだろう。勇者一人でも、魔王討伐はできる。
「どうしても、絶対なんだ!!」
「ふーん。そうだよねぇ。もっと気の合う、美人の聖女が好きだよねぇ」
ちょっと論点のズレたマリーの言葉に、ロンは笑みが漏れた。シュシリアンヌも、じわじわと笑ってしまう。状況の分かっていないマリーに、勇者も笑いを噛み殺しきれなくなった。
そうか。もう、次に進むべきだ。
「マリー、俺が君を選んだのは顔じゃない」
「え?え?それってもぉっと酷いじゃん」
もはや、ロンも声を立てて笑っていた。
「目的は、魔王を倒すこと。だけど、それまでには痛くて辛くて、良いことばかりじゃない。寧ろ苦しいことばかりだ。簡単に諦めないヤツじゃなきゃ、ダメなんだ。
今だって、皆が諦めなかったから俺たちは生きている。諦めの悪いヤツが、一緒に悪あがきしてくれるのが、俺にはどうしても必要なんだ。すまなかった」
「うーん、褒められたような?褒められて無いようなぁ?」
また皆が笑い、シュシリアンヌが続けた。
「それから、謝るときはゴメンだけでいいんでしたっけ」
「ゴメン、撤回する」
マリーも、勇者も笑ってしまった。
「それに、僕は意外と苦しいだけでもなかった」
初めはきょとんとしていた勇者も、マリーも、シュシリアンヌも、ロンのひと言が胸に落ちる。
マリーのおかげで、なんだかんだと笑いながら旅して来たし、知らない土地で新しい経験をして毎日が充実していた。
誰も、旅を嫌だとは思わなかった。
勇者は色々伝えるべきだと決めた。
今まで居心地が悪かったのは、三人が自信が無かっただけでなく、本当に覚悟が決まっていなかったのが自分だからなのかもしれない。
勇者なら逃げないと思ったから、逃げなかっただけだった。
俺は、勇者になる。
やっと笑いが収まると、勇者は次に進むことにした。
◆
勇者は、シュシリアンヌは人一倍体力が無く、慎重になっていたことを告げた。装備や持ち物の共有、今後の戦略の提示。
聖力も魔力もあることは、隠していたのでなくマリーとシュシリアンヌに自信を持って欲しかったから。
「私、最後に仕方なく選ばれたじゃない?だから、ちょっと気後れしてたのかも」
シュシリアンヌは、ロンとマリーに本音を零した。
「だけど、選ばれたってことは一番だったってことなんだね」
わたしを一番にしてくれた勇者に、人選ミスだったと思わせたくない。
「アンヌだけじゃない。僕は戦士ですらなくて、ただの剣を持った見張りだったから」
だから、アンヌが初めて魔物に勝った時、自分を見ているようだった。
姫から魔法使いになったアンヌ。
自分も警らでなく戦士になり、もう戻れない、戻らない。
ロンも、やっと魔王の討伐が自分の目的にしっかりと座った。
「わたし、悔しいって思った。皆が戦ってるのに見ているだけで、それなのに癒すことも足りなくてぇ」
意地悪な令嬢なんて相手にならないくらい、強くなりたい。誰も欠けずに、一緒に魔王を倒したい。
ただ、義務に駆られていた姫も、羨んでいた戦士も、逃げ出したかった聖女も、そこにはもういなかった。
◆
「また、役立たないといいけど」
ロンは、マリーに新しく指輪をくれた。無邪気に喜ぶマリーは、妹のようだ。
安物も何も、そもそも拾い物である。こんなに喜んでくれるなら、いつかきちんとプレゼントをあげてもいい。
「ふふーん、もらってばっかりだと思わないでぇ」
マリーは、飴玉を出した。
「この間の宿屋で、女将がくれたんだぁ」
一つ取っておいたと誇らしげにいうマリー。
ロンは、目が点になった。
「甘い物ぉ、好きだよね?」
なんだか恥ずかしくて、バレないようにしていたはずなのに。
受け取った飴玉を眺めてから顔を上げると、マリーが満面の笑みだった。
マリーは泣いたり笑ったり、忙しい。
出来ることなら、笑っていて欲しいと素直に思った。




