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勇者の計画  作者: 青嵐 瑠璃


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2/11

れべる2. 勇者の計画


勇者は、寝ていた。

ロンは御者になり、シュシリアンヌは魔法書を、マリーは聖辞典を荷馬車の中で読んでいた。荷台に大きく勇者が手足を広げて寝ているため、二人は縮こまっている状況である。


「本当によく寝ますわね」

最近の勇者は、日中の半分は寝ていた。


「黙ってれば、まともな顔なんだけどなぁ」

勇者は旅の初めには長かった栗色の髪を、二つ目の街でバッサリと切った。以前より日に焼けて、整った顔は確かにイケメンである。


三つ目の街で、やっとロンに剣を買い与えると、勇者はロンをこき使った。

「ほれ、見てないでサッサと行ってこい」

「てめぇは、タリいんだよ??そっから行ったら殺られるに決まってんだろ??」


同時に、マリーに聖辞典が買い与えられた。マリーもこき使われた。

「ほれ、ビビってんじゃねえよ。サッサとロンを治せ」

「ガンガン行け、死ぬ気で癒せ」


ロンがヘロヘロになると、マリーが全力で癒す。何とか死なない程度のロンと聖力枯渇のマリーを、勇者とシュシリアンヌが一人ずつ引きずって馬車に回収し街へ向かう。


「草、食っとけ」

ロンは半死だが、薬草を口に突っ込まれた。

「かけるぞ」

マリーは昏睡だが、聖水を頭から掛けられた。

勇者一行とは思えない、酷い有様だ。




ロンとマリーは回復し、シュシリアンヌと三人で宿屋の食堂でテーブルを囲んでいた。暖かいシチューとパンを口にして、今夜も少し落ち着いた。


「私が言うのもなんだけど、二人とも強くなったよね」

未だに何もしていないシュシリアンヌは、遠慮がちに呟いた。


ロンとマリーにも、今のシュシリアンヌの気持ちは分かる。旅の初めには、何もできなかったもどかしさ。一人で戦う勇者の性格がどんなに悪くても、誰も逃げ出そうとは思わなかった。


「まあ、そうだけど、でもいつもシュシリアンヌが回収してくれるって思ってるしぃ」

シュシリアンヌだって、初めはマリーを回収するのは大変だった。小柄なマリーさえ、人生で持ったことのある一番重い物だった。


外は既に暗く、雪がチラついていた。


「そう言えばさ」

ロンが、熱いお茶の入った器を手にした。初めはお茶しか飲めないときもあって、酷い食事だった。暗い森で野営もした。シュシリアンヌなんて、足が痛くて歩けなくなって、舌打ちする勇者におぶられた。


馬車で移動して、温かい食事を取って、宿屋のベッドで眠れる。


「旅の初めに、勇者がうちの父(王)を罵倒してたの。宿屋代くらいタダが当たり前だろう、飯くらいまともに食わせろ、くそケチー憶えてろーって」

勇者の口調を真似るシュシリアンヌは、もうすっかり庶民ばかりの食堂に馴染んでいた。


三人で笑い合い、食後に温かいお茶を手にできるようになったのは、勇者のおかげだと思う。

相変わらず、性格も口も悪いけど。


三人は、一人部屋で寝ている勇者を想った。



◆


暗くなり、雪がチラつく森の中に、勇者の姿があった。


失敗した。仮眠が長すぎた。


セインは森の中、振り返りざまに小型の魔物を切った。

「ちっ、お前じゃ金にならん」

この魔物では、価値のある部位はない。

仕方なく、森の少し奥へ向かう。


自分の髪を切って売り、旅の初めに揃えた剣はそろそろ限界だ。けれど姫であるシュシリアンヌは、野営や簡素な食事では、すぐに体調を崩した。

体力だけでなく、筋力もない。未だに、杖を持たせるのは無理だと思う。


庶民で無いとすぐにバレる名前は変えさせて、口調もすっかり庶民になった。それでも、一人にするのは不安だ。


セインの旅は、目的だ。ここまでは、ある程度の段階を予定通りクリアしてきた。だけど、何をするにも金がいる。



シュシリアンヌとの再会は予定外だったが、人選は間違いなかったと思っている。戦士としての腕も、聖女としての技も、魔法使いとしての心も、全く足りていない三人。けれど三人には、セインの求めていた「覚悟」があった。ただの覚悟でなくて、自分と同じくらい強い覚悟。

時間の制約はあるが、それは、セインが目標を達成するには絶対に外せない条件だった。



シュシリアンヌに再会することは、セインの人生の一つの目的だった。大人になったシュシリアンヌに会えた時、ここまでの自分の選択は間違っていなかったと確信した。



『ねえ、貴方の夢はなあに?』


幼い頃、こちらの気も知らない女の子は、何も無いと答えたセインに言ったのだ。

『私ね、海に行ってみたいの。じゃあ、いつか一緒に行きましょう。だって一緒の方が、きっと楽しいもの』



セインは、本当は逃げ出したいくらいに怖い気持ちを抑えて、襲いかかる魔物を切る。見ろ、慌てずに見ろ。自分に言い聞かせる。


セインは、三人の命を預かっている。


自分が悪者になって、その分三人は仲良くなった。全く身分の違う仲間が、互いを見捨てることがない関係になるには、普通にやっていては時間がかかりすぎた。だから、自分を見捨てるとしても、三人にはお互いを想う関係を築かせた。


初めは、戦えるのはセインだけでよかった。お互いの能力を生かすには、先に良い人間関係を築く必要があった。今は、一人一人のレベルを上げる。時間があればセインの装備をかえてから、シュシリアンヌのレベル上げに入りたかったが仕方がない。残り時間に余裕はないから、同時進行させる。


自分の装備とシュシリアンヌのレベル上げのために、勇者は森の中で魔物と戦い続けた。





一番の離職理由は、人間関係なんだって。

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