れべる1. 横暴な勇者
昇格試験の中日、余りの辛さに試験をネタにして書き始めた話。
末姫のシュシリアンヌは、勇者の前に立った。
何百年振りかに魔王が復活し、選ばれた勇者は性格に難があった。おかげで仲間が集まらなかった。
何とか戦士と聖女が決まり、魔法が使えたシュシリアンヌは魔法使いとして招集された。
王命ではあるが、シュシリアンヌは腐っても王族。使命に燃えつつ、本日、仲間たちと顔合わせである。
勇者が否と言えば仲間は選び直され、出発の予定はすっかり遅れていた。王城の魔法使いは、顔合わせでことごとく勇者に却下され、姫であるシュシリアンヌの後の人選など、もうあるわけがない。
目の前の勇者は、王より偉そうな感じに椅子に座り、戦士と聖女が両脇に座っていた。
シュシリアンヌを見た途端、勇者は顔を背けた。
第一印象失敗。
「言いづらい。名前を変えろ」
勇者は横暴である。だが、意外にも合格らしい。
「ではアンヌとお呼びください」
「だとよ、いいか」
両側の戦士と聖女に対し、確認ではなく念押しである。二人は、勇者の言葉にコクコクと頷いた。
◆
旅に出発しても、勇者は性格に難があった。
「おいリア、帰ったらお前の親父(王)から金をタップリふんだくってやるから、憶えとけっ」
先ずは、装備である。金がないので買えない。
「お前の親父はさぁ、無能なんだよ、先行投資って言葉を知らないわけ??」
「大変、も、申し訳ありま…」
「長えんだよ?ひと言、ゴメンで済ませろ。いいか?分かったか?」
「ごめんなさ」
「長い」
「ごめん」
シュシリアンヌが謝って顔色をうかがうと、勇者は視線を逸らし、憶えてろと不機嫌そうに言った。
勇者は町に着くと、さっさと自分の装備を買い込んだ。仲間の意見も不満も、全無視である。
なけなしの残金で、久しぶりに宿屋に泊まった。女子部屋に戦士がやってきて、お喋りをした。なぜなら、勇者が空気が淀むとか言って部屋から戦士を追い出したから。
「勇者、マジ横暴」
戦士のロンは、商家の次男ながら問答無用で街の警らに入れられ三年。
「うちの親も、お前は作り笑いは出来ないのかとか、やる気はないのかとか横暴だったけど、勇者は更に口まで悪い」
ロンは、別にやる気がなかった訳では無いと言う。落ち着いた性格で、話す時に言葉をしっかり選んでしまうだけなのだ。
「勇者は本当に口が悪いし、やっぱり性格も酷いよねぇ」
聖女のマリーは、孤児院にいた。魔王が復活する少し前、急に聖女になったのだという。
「何でも勝手に決めちゃって。血も涙もないんだよぉ」
他の聖女の中には、殆ど何にも出来ない貴族令嬢もいた。下女くらいに見下していたマリーの聖力が強いことへの嫉妬や焦りから、嫌がらせが絶えなかった。
「あの勇者の褒められることと言えばぁ、ぶったり蹴ったり、暴力を奮わないことだけじゃない?」
「言葉の暴力は、酷いけどね」
ロンの言葉に、思わずマリーとシュシリアンヌは笑った。
勇者は、シュシリアンヌのことを二人には「アンヌ」と呼ばせたくせに、面倒になったのか忘れたのか「リア」と呼ぶ。横暴である。
「でもさ、私、ちょっとだけ感謝してる。ずっと聖堂にいたら、旅をすることなんて無かったぁ」
聖堂の鐘撞塔に登ると、王都の外壁の外の景色が見えた。マリーは、いつもどこか知らない土地へ行ってみたいと思っていた。
「まあ、俺も同じ様なもんだよ」
王都の警らには、困った異国の旅人がよくきた。ロンは、姿も言葉も違う異国の旅人も、自分と何も違わぬと気がついた。困った顔はすぐに分かったし、別れ際には、決まって感謝を述べた。
勇者は、二人を迷わずに選んだ。
横暴だから、名前も聞かれなかった。
だけど、チャンスをもらった。
「私も、旅の間だけは自由だわ。旅から帰ったら、何処へ嫁ぐだろうから」
シュシリアンヌは、いずれは国のために嫁ぐ身。だけど、少なくとも今は自由。
「でも、魔王に勝つのが十年後だったら、私たち皆行き遅れだよぉ?やっぱり勇者酷くない?」
十年後に王都に戻っても、確かに全員婚期には遅い。
マリーのぼやきに、育ちの違う三人で思わず笑った。
試験結果は、最終話にて。




