表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マリオット  作者: 古村あきら
ピンキー
108/109

第104話

「彩羽」

 誰もいなくなった部屋で涼太が言った。呼び捨てにされたような気がしたけれど。

「ドクターの許しを得た。来月家に戻るよ」

 そう言った涼太の声は、少し大人びて聞こえた。

「ドクターって、お医者様なの?」

 彩羽は尋ねた。涼太が首を傾げ、少し考えてから口を開く。

「白衣を着てることが多いから、みんなドクターって呼ぶけど、医者ではないと思う。本部との調整役をしてくれてる人で、元々は本部の、もっと上の階級だったみたいだけど」

「元々は?」

「悪さをしたせいで降格されたって言ってた。観音様の逆鱗に触れたとか何とか。あの人の話だから、どこまで本当か分からないけどね」

 彩羽は吹き出した。面白い人だ、本当に。

 外の声は聞こえなくなり、何の音もしなくなった。涼太が側に座る。静寂という名にふさわしい、都会では考えられないほどの静けさを感じながら、しばし無言の時が続いた。

「彩羽」

 やはり呼び捨てにされた。涼太が彩羽の眼を覗き込む。ふわりと、涼太の髪が頬に触れた。

「寂しいだろうけど、もう少し待ってて」

 抱き締めると呼ぶにはあまりに優しい腕は、やはり華奢で、女の子と抱き合っているようにしか感じられなかったけれど。

「世界が終わる日には、必ず側にいるから」

 涼太は大人の口調でそう言った。


                   ※


 河口湖駅まで車で送ってもらって、彩羽は帰路についた。改札を抜けて振り向くと、涼太が手を振っている。彩羽も涼太に向かって手を振り返した。「待ってて」と涼太の口が動くのが見えた。

 ふと自分の左手に目が行き、彩羽は気が付いた。小指に光る小さな赤い石。外れないままのピンキーリング。

 そういう事?

 昨夜の、どこから来るのか分からなかった涼太の自信。その理由はこれか。滑稽な勘違いに、彩羽は泣きそうになった。

 いいわよ。待っててあげる。世界が終わるとき、一緒にいてあげる。彩羽は思いを込め、再び大きく手を振り返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ