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マリオット  作者: 古村あきら
エピローグ
109/109

喫茶すずかぜ

「……素敵」

 彩羽の出身大学の後輩であるという田中璃々(りり)が、うっとりした表情を浮かべた。

ひげのマスターからは、想像つかないけどね」

 眼鏡を掛けた青年、山田杏寿(あんじゅ)が茶化した。

 あれから、月日は流れた。『M』は正式名称Mariotteとして公に発表され、皆の知るところとなった。

 終末の時を知らされた人々の反応は様々だった。大規模な暴動が起きるかと思われたが、意外にも静かで、多くの人々は粛々とそれを受け入れたように見えた。SNSは荒れたけれども。

 裕福な者たちは、そそくさと海外に移住した。国内でも転居が相次ぎ、北海道や沖縄の人口密度が急激に増えた。中央の政治に携わる者の数は減り、国家の機能の多くは各自治体に委ねられていった。テレビでは、海外の富裕層がブラジルの土地を買い漁っているというニュースが流れた。あちこちで紛争も起きている。

「この店も今日で終わりなんだよな。残念だな」

 金髪に近い茶色に髪を染めた中川(つばさ)が言う。

「どこかへ引っ越すの?」

 スーツ姿の川口妃茉莉(ひまり)が尋ねた。

「広島に住んでる涼太の伯父さん夫婦が、来ないかって言ってくれて。そんなに遠くないから、またすぐに引っ越さないといけなくなるかもしれないけど、とりあえずね」

 彩羽いろはと涼太は、子供を持たないという選択をした。もちろん、それは考え方のひとつにすぎない。後世に願いを託すという方法もあるだろう。現に今なお、『M』の侵攻を食い止めようと日夜奮闘(ふんとう)している者たちがいる。未来は誰にも分からない。



 カランと、入り口のカウベルが鳴った。皆の視線が開く扉に集まる。逆光の中に人影が浮かび、扉が閉まると同時に、はっきりとした姿を現す。

「こんにちは」

 十数年の時を過ぎて今も変わらない、山口美紀の笑顔がそこにあった。


                           マリオット 完

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