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マリオット  作者: 古村あきら
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第103話

「美少女、ねえ」

 ドクターと呼ばれたその男は、少々気まずそうに声を潜めた。

「いつ見た? ああ、あの時か」

 周りを見回し、仲村と彩羽たちしか居ないのを確認してドクターは口を開いた。

「あれは、その……、うちの、嫁さんなんだが」

 彩羽はびっくりして大きく口を開けた。映画のタイトルが頭に浮かぶ。エマ・ワトソン主演の。

「口に出して言うなよ、傷付くから」

 ドクターが封じた。ふっと息を吐き、口元を歪める。

「あいつは、俺が天界から攫ってきたんだ。一目見て、どうしても欲しくてたまらなくなって、無理やり自分のものにした」

 とんでもない発言に彩羽が口をきけずにいると、横から涼太が口を出した。

「羽衣伝説みたいですね。帰りたいって言われなかったんですか」

「言われたよ。でも俺は帰さなかった」

 ドクターは悪い顔で笑った。その後ふと辛そうな表情を浮かべる。

「そのころ天界では揉め事があってな。とばっちりを喰って、あいつは地上に堕とされた。二度と天に戻れない呪いを掛けられて」

 呪い。その言葉は何故か、やけに痛々しく響いた。

「その後、天界は消滅し、あいつは俺の嫁になった」

 そう言った後、ドクターは何とも愛おし気な視線を宙に泳がせた。

「心まで手に入れるのに、丸二年かかった」

 彩羽は、ほうっと息を吐いた。木の幹にもたれて目を閉じた少女の顔を思い出す。

「作り話だ。本気にするな」

 ドクターは笑った。

「ところで嬢ちゃん、あんた、どこまで見たんだ」

 訊かれて、彩羽は躊躇した。あの時、二人は抱き合っていた。少女は幸せそうに微笑んで、白衣の胸に顔を埋めたのだ。

「あなたが彼女を受け止めたところまでです」

「そうか。いや、それなら良いんだ」

 彩羽の答に安堵したように、ドクターは椅子を引いた。

「そのあと、何をしたんですか?」

 立ち上がろうとしていたドクターに、涼太が無粋な質問を投げる。

「良いじゃねえかよ、久しぶりに会ったんだから」

 顔を赤らめ、むきになって言い返すドクターを見て、仲村が大きな声で笑った。

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