深層
「これはまた何とも……」
暫し沈黙が続いていたが、キュドが感嘆の声を漏らしたのが皮切りとなる。
「これは美しい光景だのぅ!」
銀鈴は感心する様に口を開くと、膝をついて崖下を覗いていた。
「これは想像とはまったく違いましたね……」
「ああ、もっと殺伐とした場所だと思ったがな」
赤雷もボクと同じく予想外だった様子である。
しかしこれはどう考えればいいのだろうか?
ボクの想像では、大きな空洞があるだけで終了だとか、強大な魔物がドーンと待ち受けており「我の眠りを覚ますのは誰だ」「久々の客人だな」なんて言われて戦闘が始まるみたいなのを考えていたのだけど……
想像の斜め上をいかれてしまった気分である。
まあ、このままここで立ち続けていても始まらない。
「取り敢えず森の方に進んでみましょう」
足を踏み入れると何だか少し奇妙な感覚に包まれる。
これだけの空間が維持されてるのだから、何か結界の様なものが張られていたのかもしれない。
自分達に危害が加わるようなものでは無さそうだし、気にしなくて良いと思う。
崖を降り、森へと向かって草原の上を歩く。
草原を踏みしめれば虫がピョンピョンと跳ね、サワサワとした風まで感じられる。
「うーむ、洞窟の中とは思えぬのう」
「一体どうなっとるんじゃろうな?」
(アレアレ、誰か来たみたい)
(本当だ、本当に来たみたい)
(この人たちかな、かな?)
む……? 何か聞こえたような……
銀鈴は話をしていて気が付いていないようであるが、ガロウは耳をピクピクとさせてボクの方を振りかえる。
「ポコ様」
「うん、気付いてる。誰かいるみたいだね」
赤雷とキュドも気がついていたようで、周囲を伺っているようであった。
(アレアレ、気付かれた? 気付かれた?)
(どうする? どうする?)
(報告かな? かな?)
少し遅れて声に気が付いた銀鈴が、特に警戒することなく声に対して反応する。
「ムム? 誰かおるのかや?」
(アレアレ、ヤッパリ気付かれた)
(報告しなくちゃ、アハハハハ!)
(キャハハハハ!)
笑い声が響くと、森の木々が外から中心に向かってざわめいた様に感じられた。
「……行ったのか?」
少しの間をもって赤雷が口を開く。
「敵意があるような感じではなかったですね」
「ふむ、惑わしの妖精……それに罠の可能性もありますぞ?」
キュドの言う可能性を少し考えるが、ここまで来て調べもしないで帰る選択肢は無いわけで。
「まあ罠の可能性も無いわけじゃないですけど……」
「特に気になる臭いは感じられませんでしたが」
「まあ、ここまで来たら行くしかあるまい」
「一応は警戒しながら……」
皆と相談している中、ふと周りを見ると銀鈴がいないことに気がつく。
「おーい、何をしておるのじゃ? はよ行こうぞ?」
声の方を見ると、銀鈴が森の中でこちらを向いて手を振っていた。
あらあら、あれだけ疲れたと言っていたわりには随分と足取りが軽いこと……
皆の視線が赤雷の方に向けられる。
赤雷は目を閉じ、皆の視線を誤魔化すように咳払いをすると、軽く頭を下げる。
「すまぬ、目を離さぬよう気を付ける」
「あ、いや、そんなつもりは……とにかくボクたちも向かいましょう」
別に赤雷が悪いわけではないわけで……
ボクがなんだがしどろもどろになってしまった。
銀鈴を追って森の中へと入る。念のためにサーチを使ってみたが、特に魔物のような気配は感じられなかった。
「何をやっておるのじゃ、まったく」
銀鈴はボクたちが追い付くとヤレヤレと言った感じであった。
「姫様……もう少し警戒してください……」
「む? 何を警戒するのじゃ?」
「罠の可能性なども……」
銀鈴への注意は長くなりそうなので赤雷にお任せしておく。
そんな二人を間に挟み、ガロウに乗ったボクが先頭を、キュドが皆の後ろに付いて森の中へと進んでいく。
それにしても先ほどの声はなんだったのか。
子供のような幼い声ではあったけど、キュドの言うとおり妖精なのかな?
【まあその類いだろうな】
ふーん……妖精かぁ……
やっぱり小さくて可愛らしい少女の姿をしてたりするの?
蝶々みたいな羽をパタパターってばたつかせて、フワフワーって飛び回ったり?
『それは花の妖精に近い姿ですね』
え? 妖精って色んな種類がいるの?
【何か勘違いをしてたようだな】
『自然物などに宿るファルナ。それがソーマを持って姿を成したものを妖精と言っているのですよ』
へー、じゃあ色んな種類がいるわけか。
『ポコが今までに見てきた魔物の中にも、そのような存在に近いものもいるのですよ』
【魔物など人間が勝手に分類したものだからな。人に危害を加えるようなら魔物。そうでなければ妖精や亜人。特に気にする必要はあるまい】
な、なるほどー!
非常に分かりやすいです。
久々にクロの言葉に納得させられた気がする。
暫く森の中を進んで見たが、先程の妖精は現れることなく、ただひたすらと進むことになる。
森の中心に近付いころ、周囲の様子に変化がみられる。
何やらズズズッという地響きと、ガサガサと草木が摩れるような音が聞こえてくる。
最初は両方とも小さい音であったが、次第に大きくなり、明らかに此方へと近づいてくるようである。
皆が足を止めて前方を注視していると、上を覆っていた木の枝がガサガサと大きな音をたて、左右に開かれる。
しかし、枝を左右に開いたのも、また木の枝。
開かれた先には木の幹で出来た顔が此方を覗き込んでいた。
木の姿をした種族であるトレント。
それも30メートルはゆうに越える体長であり、聞いたことも無いような巨木のトレントである。
「これは見事な……」
「ほー! 大きなトレントじゃのう!」
キュドが髭を摘まみながら興味深そうに呟き、銀鈴は素直に驚きの声をあげる。
「ホゥ……本当に人がこんなところまで、まあ人だけでは無いようだが」
(ホラホラ、本当に来たでしょ?)
(どうするの? どうするの?)
ゆったりとした野太いトレントの声が聞こえるが、その声からは敵意は感じられない。そして一緒に聞こえてくるのは、森にはいる前に聞こえていた声である。
「まあそう騒ぐでない。悪しき者達では無いようだしな」
何故そんなことが分かるのかと思うが、単に雰囲気の話かもしれない。何より話が通じそうな相手で安心する。
「さてと……ワシはこの森の番人をしておるプントス・ププ・モウラと言うものだが、オマエ達はここに何しにきたのかね?」
何しにきたって言われても……
良く良く考えると何しにきたんだっけ?
変な方向を向いて考えてしまった。
「ポコ様、ダンジョンの攻略で良いのでは?」
ガロウが仰け反るように身体を捻り、ボクの方を向いてそう言ってくる。
「あ、そうだったね」
もともとの目的がダンジョン体験くらいの気持ちだったので、いざ聞かれると返答に困ってしまう。
「ボクはポコ・コロネルと言います。ダンジョンを攻略しにきました」
トレントに向かってそう答えると、少し考える様に間を置き、更に質問を投げ掛けられる。
「フム……? ダンジョン攻略とは何を意図するのだ?」
あ、そりゃそうか。
確かに率直な疑問ですよね。
人が勝手に作ったような言葉であって、もともとダンジョンに住む者にとっては何のことだか分からない。
「えーと……そうですね……」
う~む、何となく響きで使っていたけど、実際ダンジョン攻略が何を指すのかは、完全には理解していないような……
そんな様子を見てか銀鈴が口を開く。
「ダンジョンのヌシを倒すことじゃないのかえ?」
「あ、ヌシがいたら、倒すことが攻略でいいのかな?」
それを聞いた赤雷が、少し小さく囁きかける様に話しかけてくる。
「目の前のトレントがヌシなんじゃないのか?」
あ……ドラゴンだと思ってたけど、その可能性もあるわけか。
そうなると面と向かって「アナタを倒しに来ました」って言ったことになってしまうんじゃ……
「その場合もありますが、ダンジョンに眠る財宝を発見したり、ダンジョンの実質を解明したと言う場合も攻略と見なされることがありますぞ」
さすがキュドさん、ナイスフォロー有り難うございます。
「じゃあ攻略って言うのは冒険者ギルドで認められるものなんですか?」
「もちろんそうですじゃ。攻略者は一生名前が残ることになりますぞ」
「へー、そりゃすごいですねぇ」
そうなれば冒険者の中でも一目置かれる有名人って訳ですね。
「フォッフォッ、なるほど……オマエ達が何となくでここまで辿り着き、しかも相当な実力を備えていることは理解できたぞ」
何となく……
確かに間違いではないんですけど……
何だか恥ずかしい気持ちになります……
「因みにワシは森の番人であって、この洞窟のヌシではない。このダンジョンの攻略は解明と言うことになるだろうな」
プントスのこの言い方。
森の奥に何かがあり、そしてそれを特に隠す気もないのであろう。もしくは分かったところで、どうしようもないと考えているのかもしれない。
「なんじゃ、相当の力を持ってそうに見えるがヌシではないのかえ?」
「銀鈴様、ヌシと言うのは力だけで決まるものでは無いのですじゃ」
銀鈴が思ったことを口にしており、キュドが小声で説明していた。
「フォフォ、素直な娘だな。ワシは森の番人、森に危害を与えようとする相手以外には何もせぬよ」
何もしないと言う言葉に安心はするが、逆に取れば森に危害を加えるようなら容赦はしないと言われている様にも思える。
十分に気を付けたいと思います。
……ボクより他の方が心配だけど。
「この森の奥に何かあるんですか?」
「フム……ワシの口から聞くよりも、見た方が早いであろうな」
そう答えるプントスはゆっくりと身体を持ち上げる。
「説明は着いてからにしよう。その子に着いて行くがいい」
(アレアレ? いいの? いいの?)
プントスの言葉に従うように、キラキラとした光が上方より降りてくる。
蝶のような羽根が生えた手のひら大の小さな女の子。
金色の長髪をして、草で編んだのか緑の服を来ており、実に可愛らしい姿をしている。
羽をパタパタと羽ばたかせてボクの前に浮かんでいる。
(さあさあ、ボクが案内するよ、ついてきて!)
あら、ボクっ娘だ。なんだかとっても可愛らしい。
家に連れて帰りたくなっちゃいますよ。
【そうか、オマエはそう言う趣味だったわけか】
えっ、ちょっと、何を……
一般的な意見としてですよ?
『そう言えば……教会にいたときも妹のチョコの事を一番に可愛がっていましたね』
え、シロまでそんな事を……
あまり変なことを言うのは止めておこう……
あらぬ疑いがかかりそうだ。
妖精はガロウの鼻の周りをクルクルと回り、皆の顔を確かめるように一周すると、森の奥へとフワフワと進んでいく。
「おお、なんとも可愛らしい妖精だのぅ」
銀鈴の言葉が嬉しかったのか、妖精は大きく弧を描くように飛んでみせる。
妖精の後を辿り、森を進んでいくと開けた場所へと辿り着く。
上方は木の葉で覆われてはいるものの、先ほどまでとは違って光が差し込んでいた。
何より一番に目に入る物。
中央にある大きな卵形をした物体。
大人と同じくらいの大きさがあり、まるで台座に掲げられているかの様に、木の根が下を支え、蔓が全体を取り巻いる。
苔の生えた感じが、かなりの年月を感じさせている。
プントスが言っていた「見た方が早い」とはこれの事だろう。
キュドが少し感動しているかのように声をあげる。
「こ、これは……竜の卵ではありませんか……?」
「ほう? 竜の卵を知っているとは中々に博識だな」
先に到着していたであろうプントスの声が、上方の枝の隙間から聞こえてくる。
「確かにこれは竜の卵である」
なぜこんなところに竜の卵があるのか。
その理由を知るためプントスの昔話が始まった。
この場所は大昔の竜の巣で間違いないらしい。
マグマの地熱に水脈、そして光を放つ鉱石と竜のファルナの影響により、植物がより棲息しやすい場所となった。
どのくらい昔の話だったかと聞いたが、プントスは自分がまだ若木だったと言うことしか覚えていないそうだ。
竜は長い間ここを棲みかとしていたが、大事な用が出来たと最後に卵を残して旅立ったとのこと。
その際に自分が戻るか卵が孵化するまでの間、ハーピーの一族に入口の守りを、トレントに森の守りを、妖精達にはこの場所の管理を託し、洞窟に結界を張ったそうである。
【フム……その竜、既に死んでいるかもしれんな】
え? でもなんか古竜とか言う凄い竜なんじゃないの?
【竜が卵を産むと言う行為は自分の半身を作り出すも同然。大半の力も奪われるため相応の理由が無ければ産んだりせんのだ】
へー、そうなのか……
まあ言われてみれば寿命も長そうだし、そんなにぽんぽんと子孫を残す必要は無さそうだよね。
でもそんなに苦労して産んだ卵を置いていくものなの?
『通常考えられないことですね』
なるほど、と言うことは……
『命を失う可能性が高い事象があり、自分の半身を残して挑んだというの可能性が高いですね』
そんな凄い竜が命を落とす覚悟を決めて挑むって……
いったいどんな相手なのさ?
【それなりにいるのではないか? 神や上位の天使や悪魔、それに同格の竜もおるだろう?】
あ、ちょっとレベルが違いすぎて、その発想は無かったです。
神様とかそのレベルだと現実味も無いと言うか……
「とまあそんな訳なのだが……どんなに待とうとも卵が孵ることは無かったのだ」
「どれだけの年月が経っているのか……流石に無理ですかな……?」
プントスはもの悲しそうに卵を見つめている。興奮していたキュドも卵が孵らないと聞いて残念そうしていた。
「温めたりはせんかったのかの?」
唐突な言葉に、皆の視線が銀鈴に集まる。
「姫様……そのくらいで孵るようなら……」
「やってみないとわからんじゃろ?」
銀鈴が卵を「ほれ、こうして」などと卵を抱き締めるようなポーズをとっていた。
皆は、そんな様子を生暖かい目で見守っている。
『あながち間違いと言うわけでもありません』
え、温めればよかったの?
『いえ、ドラゴンの卵を孵すにはファルナを注がねばなりません。通常は卵を包み、ファルナを注ぎ込んで孵るのを待つのです』
あ! なるほどっ。
見た目は卵を温めてるように見えるかもしれないけど、実際はファルナを注ぎ込んでるってことですね。
……でもそうなると、放っておいても孵化することは無いわけだし。
やっぱり親の竜は帰ってくるつもりはあったんだろうね。
今からでもファルナを注げば孵化するのかな?
『さあ……流石にそこまではわかりません。実際に試してみたらどうですか?』
んー……
まあ、試す分には構わない? よね?
「プントスさん、色々と調べてみてもいいですか? 試したい事もあるんですが」
「何々! なに試すの!?」
道案内をしてくれた妖精が、目の前で大声をあげて聞いてくる。
「あ、いやまあ、無理だとは思うけど……」
「これこれ、興奮するんじゃないわい」
「えー! だって気になるんだもん……」
妖精はプントスに注意され、渋々と離れていく。
「妖精の長も色々と試そうとはしたみたいだからな。気になるんだろう」
妖精はプントスの枝にとまり、なだめられているようだ。
「しかし調べる分には構わんが、触らんようにした方が良いぞ?」
「なんでですか?」
「フム……まあ近づいてみればわかるだろうて」
プントスの言葉に従って、ボクはおそるおそる近づいてみる。
卵を中心とした地面がうっすらと光を放ち、更に近づくと周囲の地面がゴゴゴと地鳴りのような音を立てて盛り上ってくる。
盛り上った土は体長5メートル程の竜を型どり、卵を守る様に四方に現れた。
「これは凄いですな! ゴーレムの精製魔法に似ているようですが……何かを感知して自動で? 一体どこからファルナの供給が……」
土から精製された竜を見て、キュドが再び興奮して声をあげる。興味深く観察し、近づいたり離れたりと反応を楽しんでいるようだ。
「ウーム、調べたい! ですがこれは間違いなく襲ってくるでしょうなぁ……」
キュドは腕を組んで、何とか調べられないものかと、その方法を考えているようであった。
「とまあこう言うわけだ。何か試すと言うのであれば、あれをどうにかせんといかんぞ?」
「そうそう! アレのせいでうちらは卵には触れないんだよ!」
なぜだか妖精が偉そうに腰に手をあててウンウンと頷いていた。
「まあ手立てもないのに無理に戦う必要もないからな」
プントスはそう言うと顎を掻くかのように、顔の下で枝をざわつかせていた。
「どの程度の力を持っているのだろうな」
赤雷が土の竜を見つめてそう呟く。
「生き物ではないのじゃろ? どうすれば倒せるのかや?」
「ゴーレムと同種の魔法であれば……原型を留めない程に破壊すれば良いかと思いますじゃ」
キュドは銀鈴の疑問にそう答えると、土の竜に向き直り言葉を付け加える。
「そんな単純な魔法であれば、ですがな」
うーん、どうするかな……
別に無理をする必要はないけど……
でも折角ここまで来たんだから、出来ることはしておきたいよね。
『ポコであれば問題ないと思いますよ?』
【うむ、確かに非常に高度な魔法である。しかし相手がポコとなると相性が悪かったな】
ほっほー?
それはどういうことでしょうか?
【ふむ、良いか? ゴーレムの利点は破壊されても復元できることにある。しかし、壊された部位が存在しなければどうなる?】
あー、なるほど。
つまりは消してしまえば復元も何も関係無いってことですね。
え、でもそんな簡単で良いんですか?
『どんな攻撃をしてくるか分からないのですよ? 決して油断はしないでください』
あ……すいません。
今の言動は油断以外の何物でもないですね……
シロに注意されると何だか心に響きます……
ま、まあ、とにかく対処法が分かったわけで、
早速行動にうつりたいと思います。
「あのプントスさん、その土の竜はいなくなってしまっても問題無いんですか?」
「フォフォ、そりゃ何とかできるなら構わんぞ? まあ森への被害はださんでほしいがな」
あ……そうか、森を壊さない様にしないといけないね。すっかり頭から抜けておりました。
もちろん進んで壊そうと言う気は無いですけど。
「キュドさん、周りに被害がでそうであればお願いできますか?」
「もちろんですじゃ! 周囲に防護壁をはっておきますぞ!」
キュドは嬉しそうにそう答えると、張り切って行動に移す。
「では皆さんは下がっていてください」
皆に向かってそう言うと、土の竜に向かって歩を進めながら
《アクセル》と《デリートアタック》を発動する。
「あれあれ!? 話聞いてた? 一人で行くの?」
妖精が驚いたようにボクと皆の間を飛びながら大きな声を出す。
「妾のポコであれば何も問題はないぞ?」
「妖精よ、お前もさがって見てるがいい」
赤雷の言葉に妖精は素直に従うが「ホントにいいの?」とクルクルと回りながら繰り返し聞いている様子だった。
そして、銀鈴さん。
ボクはあなたのものではありません。
ボクが更に数歩近付くと「グルルルル……」と低く唸る声が聞こえ、4匹の竜はこちらへを向く。
正面の竜との距離は10メートル程。
両手にファルナを集めて《ターゲットデリジョン》を唱え始める。その瞬間、正面にいる土の竜は攻撃を察知したように大きな咆哮をあげ、口を開いて真っ赤に燃え盛るマグマの塊を繰り出してくる。
《アクセル》によって認識能力が上がっているからこそ与えられた思考時間。
回避は簡単ではあるが、後方に被害がでるとは限らない。
《デリートアタック》の発動しているボクであれば、攻撃を受けきれるとは思うけど……
古竜が残した魔法となると少し不安が残る……
となれば最適な方法はひとつ。
唱えている《ターゲットデリジョン》の対象をマグマの塊にすること。
相手の攻撃を避けながら唱えかけの魔法を再開し、右手の対象をマグマの塊に決定して発動する。
「ワッワッワッ! だから言ったのにー!!」
避けたマグマの塊が皆のいる方に向かい、妖精が右往左往して慌てふためいていた。
右手から発動された《ターゲットデリジョン》は、マグマの塊を追い掛けるように発射され、その距離をあっという間に縮めていく。
眼前に迫るマグマの塊に、妖精は「きゃー!」と声をあげてガロウの毛皮に潜り込んで完全に隠れている。
キュドは用心のためか魔法書を片手に構えていたが、ボクの魔法が発動されたのを見て、問題無いと判断したようだ。
赤雷は銀鈴の前に一歩踏み出て庇うような様子を見せたが、銀鈴は見えないとばかりに赤雷の横から顔を覗かせている。
マグマの塊はキュドの展開した防護壁にたどり着く直前、空間の歪んだら球体に追い付かれ、「ギュルンッ!」という奇妙な音と共に消滅してしまう。
ボクは後方の安全確認がとれたところで土の竜へと向き直し、正面の竜へと《ターゲットデリジョン》を発動する。
土の竜は口を開き、再度攻撃を繰り出そうとするが、その前に《ターゲットデリジョン》が到達する。
ギュゴゴゴガガ!!
いつもよりも一層に大きな音と共に魔法が発動する。
土の竜は外側よりゆっくりと霧散していくが、その消滅速度はいつもより遅く感じる。
この間に、左右の2体がボクへ向かって走り、少し遅れてもう1体が向かってくる。
左右の2体は鏡に写るかのような対照の動作でこちらへと近付き、走りながらに口を開いてマグマの塊を飛ばそうとしている。
しかしボクは魔法を発動した直後、既にファルナを集めており、3体を対象に《ターゲットデリジョン》を発動していた。
右手より放たれた透明の球体は3つに分かれ、3体の土の竜を包み込む。
ギュギギゴゴガガガ!!!
激しい音がすると共に3体の竜は動きを止める。
身体から霧のような物が四散するが、先程よりも小さくなる速度がかなり遅い。
【レジストされているな】
レジスト?
やっぱり抵抗されてるってこと?
【まあそんなところだ。最初の一匹でもそう思ったが、威力が分散されて顕著になったようだな】
あ、《ターゲットデリジョン》を分裂してしまったからか……
今までこんなことなかったのに……
これは抵抗されることに関して、色々と勉強しなくてはいけないかな?
今のボクには消滅魔法しか無いわけだし……
『いえ、むしろ上出来だと思いますよ。上位存在の魔法に対して有効に働いているのですから』
あら、そうですか?
【クックックッ……相当の年月が経っとるのだ。ファルナがかなり消費されていただけかも知れんがな】
確かにその可能性は十分にありますよね……
ま、まあ、取り敢えずは問題無いようなので、今は良しとしましょう。
身動きがとれず、徐々にではあるが、その身を小さくしていく土の竜を見ながらも用心はしておく。
土の竜は今では三体ともに膝したくらいの大きさとなり、魔法の効果が無くなった時には手のひらサイズへと変化する。
完全に消し去るまでには至らなかったようである。
「キュイー!」
土の竜は小さくなりながらも、命令を守るかのようにボクの足へと群がってくる。
その攻撃は《デリートアタック》も発動しない程度であり、これ以上何かする必要性は感じられなかった。
次回は…
多分2週間以内にはいけるかと…




