ハーピー
すいません…随分と遅くなってしまいました。
半年以上かかって30話、そして学園生活は見えてこない…どうなっているのか…
「ふむ? ハーピーが三体。まあ一人なら少々厄介な相手ですが……」
「ウム、ポコがいるのじゃ。余計な心配はいらんのう」
キュドが呟いてボクを見ると、銀鈴が言葉を付け足すかのように答える。
この人任せな感じ……
キュドはともかく、銀鈴の思考はいったいどうなっているのやら……
「鬼人にワーウルフ、それに人間か……お前ら一体何者だ? ここに何しに来た」
ハーピーは怪訝そうな顔をしながら、此方に質問を投げ掛ける。
質問をしてきたハーピーは、鼻筋の通った精悍な顔立ちをしており、緑色のウェーブがかった髪、茶色い羽毛で胸と下半身を包んでいる。
後ろに控える二人のハーピーよりも明らかに凛々しく、立場が上なのは明らかなようだ。
ハーピーの質問に皆で顔を見合わせてしまう。
「何者って質問をされても難しいですよね……」
「ポコ様に従いし者達と言ったところかと」
ボクとガロウがこそこそと話していると、他の皆も混ざってくる。
「何を言っとるのじゃ、ポコは妾のものじゃからそれではおかしかろう?」
「姫様とその付人達とすれば話が通りやすいかもしれませんな」
赤雷の言葉を聞いていたキュドが、少し眉を潜めて参加してくる。
「しかし……そうなると銀鈴様がリーダーとなって交渉することになりますぞ?」
「むぅ……姫様には向かぬかもしれませんな……」
「なんじゃ赤雷、それはどういう意味じゃ?」
銀鈴が赤雷に詰め寄っており、赤雷は言葉につまりながらも誤魔化していた。
「ワタシは仮にであろうとも、そこの鬼人に従うなどお断りです」
ガロウまでそんなことを言ってくる始末である。
「お前ら! アエーラ様の質問に答えぬか!!」
後ろにいたハーピーの一人が、苛立ったかのような大声をあげる。
そりゃまあ、無視されて普通に話しを始められたらイライラもするだろうに……
アエーラと呼ばれているハーピーは涼しげな顔をしているけど、後ろの二人は凄い剣幕である。
「まあ……ここはポコ様がお答えするのが無難じゃと」
そう言ってキュドがボクの方を見ると、皆の視線もボクに集まっていた。
「まあ、ポコがダンジョンに行くと言って、皆がついてきた訳じゃしの」
一応は銀鈴も納得の声をあげ、皆も異論はない様子だった。
何だか面倒なことを押し付けてきたようにも思えるけど……
「えーっと、お騒がせしてすいません。ボク達はダンジョンの探索に来ただけなのですが……」
アエーラはボクが質問に答え始めたことに、少し眉を潜めていたが、特に気にすることもなく話を続ける。
「探索で大穴を降りると考える愚かな者など、ここ数年はいなかったな」
やっぱり「穴を降りる=愚か者」みたいな扱いなんですね。
あ、でも数年前には、降りようとした人がいたわけだ。
「もっとも完全に降りきった者は数十年と見ていない。オマエ達は我々の縄張りを通る資格を持っているのか?」
数十年と言う言葉、見た目と違って相等に長く生きているのだろう。
しかし、資格……? どういう意味だろう。
ここを通りたくば我々を倒し、その実力を示せ的な事なのだろうか。
【違うぞ。食料をよこせといっているのだ】
……え? 食料ですか?
イヤイヤ、あんなにふんぞり返って、偉そうな感じで食料ってことは……
『ハーピーは食欲旺盛な種族ですからね。ただ少しプライドが高いところもあり、自らそのような事は言い出さないかと』
はあ。なるほど。
なんだか面倒くさい種族なんですね。
しかし、食料なんてギリギリの量しか持ってきていない。
「赤雷さん、すいません。食料ってどのくらい買い込みました?」
「む? 食料?」
こんな時に何を言い出したのかと言う反応である。
「まあ我と姫様の分で1ヶ月ほどと言ったところか」
やっぱりギリギリですよね。
ボクの方は2ヶ月を予定していたとは言っても、もとの量自体が少ない訳で……
でもここで短縮できれば、必要な量は少なくなるとも言える。
「あの……ボクが持っている半分、1ヶ月分であれば……」
「ほう? 我々の習性を理解しているとは。オマエは見た目と違い、そこまで愚かではないようだな」
え……見た目と違って……
うん、若いわりにって意味だと受け取ったおこう。
決して頭が悪そうとか、バカそうだと言うことではないはず……
ただ、みんなの機嫌が悪くなっているように思える。
全員まとめてバカ扱いされたようなものなので、仕方ないかもしれない。
「しかし、それではワタシ一人分が良いところであろうな」
アエーラと呼ばれていたハーピーは軽く後ろを見て、この二人の分はどうするのだと言うような動作を見せる。
うーむ……
どんだけの食料を求めるのやら……
「ポコよ、一体何を話しているのだ」
赤雷が話が理解できず、堪り兼ねて聞いてくる。
「えーと、簡単に言えばで、ここを通りたければ食料をよこせってことですね」
「……何故あんな奴らに食料を渡さなければならんのだ」
赤雷は眉を潜め、不機嫌そうに言葉を吐き捨てる。
いやまあ、平和的な解決法があれば、それが一番良いのだけど……
「もし無ければどうなるんですか?」
「ワタシは手を出さん。だが、後ろの二人は領域に入ったオマエ達を排除する事になるであろうな」
その言葉を聞いた銀鈴がぴくりと反応する。
「フフフ……食い意地の張った鳥女ごときが、ポコを排除すると申すか。片腹痛いのぅ」
あらやだ!
どうやら我慢の限界のようです!
……でも、そういう時って自分の名前を名乗るんじゃ?
なんでボクの名前が出るんですか?
「貴様! 我等を侮辱したな!」
先程からアエーラの後ろで激情していたハーピーが、突然に襲いかかってくる。
大きな翼を羽ばたかせて、一直線にボクたちがいる重力空間へと向かってきた。
「あ! 危ないですよ!」
思わず大きな声をあげてしまったが、もちろん聞く耳は持たない。
重力魔法の空間へと入り、顔をしかめてよろめきながらも、そのまま大きな鈎爪で銀鈴へと掴みかかる。
ジュルッ……
攻撃を仕掛けてきたハーピーの鈎爪が、足首近くまで消滅する。
「なっ!?」
焦り、驚きの表情を見せながら、穴の底へと墜ちていくが、体勢を立て直して上方へと浮かび上がる。
「あ、足が……どうなっている!?」
その様子を見ていたアエーラは、表情ひとつ崩さずに叱責する。
「アイツ等を甘くみたオマエの失態だな」
「っ…………ぐっ、申し訳ありません」
足を無くしたハーピーは、アエーラへと謝りながら此方を睨み、悔しそうな表情を向けていた。
むぅ……
激情して、勝手に突っ込んで迎撃されるとか……
自業自得もいいところなんだけど。
まあ銀鈴が挑発したから、こちらにも非がないとは言えないかな。
「フフ、ホレ見たことか。ポコの魔法に手も足も出ぬではないか」
ちょ! まだ挑発するの!?
少し焦って銀鈴の方を見てしまう。
「銀鈴様。お止めくだされ」
ボクが少し焦っていると、キュドが止めにはいってくれる。
流石に言い過ぎだと分かってくれたのだろう。
「む? なんじゃ? 本当の事ではないか」
キュドはやれやれと言った様子で首を振る。
「手はもとから無いですぞ。それに足を無くなってしまったのですから、手も足も出ないと言った方が良いですじゃ」
な、何言ってるのこの二人!
「フフ、なるほど。上手いことを言うのう」
二人の言葉に、後ろに控えているハーピーは怒り心頭と言った様子である。
「二人ともあまり挑発するのは……」
「何故ですかな? 奴等はポコ様が下手に出てるのを良いことに、好き放題言っているのですぞ?」
「ウム、妾のポコをバカにしておる!」
いえ、銀鈴のものになった記憶はありません。
じゃなくて、てっきり自分達がバカにされて怒っているのかと思ったら、ボクがバカにされて怒ってるの?
当の本人であるボクは、そこまで気にしていないんですが……
「フム……そいつへの非礼に対する怒りであったか。オマエ達を甘く見ていた事は詫びよう」
ちょっと謝る方向性が違うような気がするが、アエーラはあっさりと謝罪する。
そして翼を大きく羽ばたかせ、続けて口を開く。
「しかし、こうなってしまってはワタシも黙って見過ごす訳にはいかないようだ」
アエーラは二人のハーピーを下がらせ、戦闘体制にはいる。
うーむ、もう平和的にはすませられないようですね。
本当であれば交渉できる相手との戦闘は気が進まないのだけど……
「キュドさん、こちらは何とかしますので穴の底への移動をお願いします」
「ほい、了解ですじゃ」
キュドはボクたちを包み重力空間を、穴の底へと移動し始める。
いくら下に移動しようとも、相手は翼をもった魔物。
結局のところはどうにか対処しなくてはいけない。
「なんとかするとは……我々の方が甘くみられているようだな」
アエーラは羽ばたきながら、両方の翼の間にファルナを集める。
次第にファルナはゴウゴウと唸る、球形の風の魔法へと転換されていく。
さらにアエーラが羽ばたくごとに風の球体魔法は大きくなり、既に大人数人を軽く包めそうな大きさになっている。
「ムム……あれは中々に威力がありそうじゃのぅ」
銀鈴は眉の間にシワを寄せて、アエーラの魔法を注視している。
「ポコ様、ワタシ達も何か動いた方がよいですか?」
一応と言った態度でガロウが確認してくる。
まあ大丈夫だろうけど。
あの大きさだと、ボクの魔法も結構削られてしまうかな?
【無問題だ】
あ、久々のクロさん。
アドバイスありがとうございます。
【大きさは問題ではない。あの大きさはむしろファルナの凝縮度合いが低いことによるものだな】
へー、そんな事までわかるんだね。
『最初に火の魔法を使ったことを覚えていますか? 転換の状態である程度の予測はつくのですよ』
火の魔法を使ったとき?
ああ、シスター・マリアの火の魔法と様子が違って事か。
なるほど、なるほど。
『この感覚は経験で身に付けるしか無いと思います』
フムフム……勉強になります。
因みにあの魔法の感じだと、どのくらいファルナは凝縮されているのかな?
『3~4倍程度に見えますが、明かに相性の良い魔法ですからね。実際のファルナの凝縮は2倍程度だと思いますよ。』
あー、なるほどね。相性も加味しないといけないわけか。
ボクは通常ファルナを10倍程度凝縮して使用している。
消滅魔法はボクのファルナと相性が良いので約2倍の効果。さらに他の魔法に対しても倍以上の効果で働いている。
つまりは単純計算でもクロの言うとおり、まったく問題は無いと言うことだ。
【クックックッ……まあオマエの場合はファルナが打ち消しあって、常に8割か9割程度の威力だがな】
オウフ……言われなくともわかってますよ……
わざわざこのタイミング言い出さなくても良いのに。
「このままで平気だと思いますよ」
みんなに向けて、そう伝える。
「ポコが言うのじゃ、間違いなく平気なのであろうの」
「オレの出番は無さそうだな」
銀鈴と赤雷は、さも当然と言わんばかりの通常運行。
キュドは魔法書片手に空間の移動に専念し、ガロウはいまだに足元が少し落ち着かない様子。
「この状況で、その余裕な態度。何かあるようだな」
アエーラは、まるで気にしていないボク達の様子に、特に口調を変えることはなく、冷静な対応である。
「その余裕がどこまで続くのか試させてもらおう」
ゴウゴウと唸る風の球体は、こちらに向けて放たれる。
放たれた風の球体は、ボクたちが下に降りるよりも速く、一直線にたどり着き、全員を包み込む。
あれ? 風が強いだけで何も起きないんじゃない?
などと思った瞬間に、球体の中の風の様子が変わる。
ギュン! ギャン! というような聞き慣れない音が鳴り響き、《デリートアタック》が周囲の魔法を打ち消していく。
【対象を風によって捻り、切り刻む魔法のようだな。これは中々にえげつないぞ】
『複合的で一切の容赦のない魔法ですね。何も対処していなければバラバラにされていたでしょう』
なんともまあ……
おっかない魔法のようで。
目でハッキリと見えるわけではないのだが、音や気配で周りの空気が激しくうねっているのが感じられる。
しかし、次々に魔法の効果は無効化されているようで、ギュンと言った音が次第に小さくなり、終いには聞こえなくなる。
「流石に少し心配になりましたぞ」
「周囲に魔法が発動しているのに、自分には何の異変も感じられない。なんとも変な感覚ですね」
キュドが冷や汗をかきながら笑い、ガロウが初めての感覚に戸惑った様子である。
先程まで冷静を保っていたアエーラであったが、何もなかったように話しているボク達を見て驚き、眉間にシワを寄せて不愉快そうな表情を見せていた。
「あの攻撃で無傷とは、考えを改めなければいけないようだな」
「フン、まだ自分の立場がわかっておらんようだのぅ」
アエーラの言葉に、銀鈴が鼻で笑うような反応を見せる。
「なんだと?」
銀鈴は扇子を開いて口に当て、アエーラに説明するかのように話し始める。
「まだ赤雷だけならばじゃ。実力は拮抗していたであろうし、地の利もお主にあったであろう」
そう言うとボクをチラリと見て、微笑む様な仕草を見せる。
「ポコはやさしいからのぅ。その気であればお主は一瞬で消えておるぞ? 相手の実力も読めず、部下相手にふんぞり返る。なんとも感心せんのぅ」
アエーラは特に表情を崩すでもなく、冷静に銀鈴の言葉を受け止めていた。
うーん……
銀鈴を知らない相手にしてみれば関係ない事なんだけど……
ボクとしては銀鈴に言われると何だか釈然としません!
赤雷を見ると目が合ってしまった。
おそらくボクと同じく「どの口が言っているのか」という思いなのだろう。
「鬼人の女。そこの人間がそこまでの強者だと言うのか」
アエーラはボクの方を凝視した後、銀鈴へと確認を取るように視線を移す。
「うむ、お主が何人いようとも相手にもならぬだろうの」
銀鈴は扇子をバシッと閉じ、胸を張って強気の発言を返す。
当の本人であるボクが置き去りにされている感は否めないのだが……
アエーラは少しだけ考えた素振りを見せる。
「それほどまでに言うのであれば、そこの人間と私で一騎打ちで話をつけると言うのはどうだ?」
「一騎打ちじゃと? のぞむところじゃ!」
銀鈴が考える間もなく即答する。
……そこは皆と相談するべきだと思うのですが。
「姫様……さすがに条件を聞いてから返事をするべきだと……」
赤雷がそう言うと、周りもうんうんと頷いていた。
「フム……? まあ戦うのはポコじゃ、後はポコにまかせるとするぞ」
ここまで話を進めたうえで、すごい放り投げ方である。
まあ変な方向に話がそれる前に、ボクが銀鈴に変わって話を進める事にする。
「えーっと、勝利の条件はどうしますか?」
「どちらかが降参するか、命を失うかだ」
まあ降参という選択肢があるなら、まだ紳士的である。
「勝者の権利は何でしょうか?」
「相手を自由にすることができる権利だ」
あれ? それって降参の選択肢は無いのも同然じゃない。
負けたら殺されるか奴隷にされるようなものですよね?
「ポコは妾のものじゃ! そんな条件にはのれぬわ!」
銀鈴がそう大きな声をあげると、アエーラは何を言っているのかと言わんばかりに苦笑する。
「私など何人いようが相手にならないのだろう?」
「ム、グググ……それはそうじゃが……」
銀鈴は反論できず、眉間にシワを寄せて口を閉じる。
【フム、表情ではわからぬがプライドが傷つけられたのか……それともポコに興味を持ったのか】
『もしくはその両方と言ったところでしょうね』
原因は余計なことを口走った銀鈴ですね!
とは言え、魔物と戦うのであれば命懸けなのは当たり前。単に一対一になっただけである。
「わかりました。穴の底で戦うと言う事で良いですか?」
「好きにするといい」
こうなると下に降りながら戦うよりは気が楽かもしれない。
どちらにしろ戦いは避けられないわけだし。
アエーラが大穴の底で戦うことを了承したことで、邪魔も入らずに降りることが出来た。
降りる途中、所々に大きな蜘蛛いるのを見かけたが、アエーラ達に気が付くと横穴の巣へと逃げ込んでいく。
この反応を見る限り、アエーラは洞窟の魔物に恐れられているか、一目置かれているのがよく分かる。
「あのハーピー……それなりの実力者の様だが、いったい何者なんだ?」
大穴を降りる途中に、赤雷が疑問に思ったことを口にする。
「大穴の守護者。ワシが洞窟に訪れたときにそんな話がでていたような……」
「え? でもキュドさんが洞窟にきたのって……」
「ええ、かれこれ50年以上前の話ですじゃ」
あのハーピーってそんな年齢なの? そうは見えないけど……
あ、そういえば数十年は穴の底に降りた者を見ていないとか言っていたっけ。まあ、その噂とは関係ないかもしれないけど。
「守護者って何を守っているんですかね?」
「流石にそこまでは覚えてませんですじゃ。いや? 最初から知らなかったかもしれませんな……?」
そんな話をしている間に大穴の底まで辿り着く。
日の光もうっすらと届くのが限界のようで、かなり薄暗い。
周りには魔物の屍がそこらじゅうに散乱しており、若干の異臭を放っていた。
少し前までは大きな虫のような気配が多数あったが、ボクらとハーピーが降りてきたことを察知していなくなったようである。
「グムム、これはたまりません……先ほど感じた魔物の臭いには、これも混じっていたようで……」
ガロウは臥せて、前足で鼻を押さえ、辛そうにそんな事を言っていた。
ボクでさえ顔をしかめてしまうのだから、もともと鼻の効くガロウにしたら相当臭く感じているのだろう。
キュドと赤雷はそこまでの反応を見せてはいないが、銀鈴は扇子を鼻の前でパタパタと扇ぎ、顔を横にそらしていた。
「なんじゃここは、臭くて堪らんのう……」
「上で殺された者の成れの果てでしょう。姫様、暫しの我慢を」
「ウウム……ポコや、さっさと済ませてくれるかや?」
銀鈴は懇願するような視線をボクに送ってくる。
おうおう、相変わらずで……
まあ、ボクとしてもこんな場所に長居はしたくない。
「準備ができたら言うといい」
アエーラは壁から出た木の根にとまり、準備は整っている様子である。
後ろで待機していた二人のハーピーはかなり上方で待機している。戦いに巻き込まれないために、離れているよう言われたのであろう。
「皆さんは通路の方で見ていてください」
ボクは壁に空いている横穴を指差して、そこで待機して欲しいと皆に伝える。
「うむ、そこであれば少しは臭いも弱くなろう。ゆっくりと観戦させてもらおうかの」
銀鈴はそう言いうとさっさと通路の方へと向かっていく。
「ポコ様すいません……端から見させていただきます……」
ガロウもヨロヨロしながら離れていき、キュドに赤雷も通路の方へと向かう。
「こちらも大丈夫です」
ボクがそう言うと、アエーラは確認した様に軽く頷く。
「では始めるとしよう。ここからは一切の遠慮なくいかせてもらおう」
アエーラは言うなり翼を羽ばたかせ、ファルナを集中し始める。
言葉の通りにとるならば、アエーラにとって最大の攻撃がくると考えてよいのであろう。
【うむ、どれ程のものかは興味があるな】
相変わらず随分と余裕な意見ですね。
『まあ油断せず、魔法も張り直しておいた方が良いでしょう』
シロの言う事に反論は何もない。
足元でファルナを集中して《デリートアタック》を再度周囲に発動し、更に《アクセル》を唱えておく。
この2つを唱えておけば大抵の事には対応できる。
アエーラの集中したファルナは先程と同様次第に大きくなり、今度は球形ではなく、竜巻の様に形を変えていく。
【先程よりも大規模な魔法だな】
なんとなくだけど……
ボクにもどんな魔法か想像がつきそうだ。
【単体相手にはあの形ではいささか威力が拡散しそうだと思うが】
『確かに先程の魔法の方が、個に対しては威力が高そうです。他に何かあると警戒した方が良いかもしれませんね』
二人の言っていることは理解できる。
先程のように範囲を狭めた魔法の方が威力が高いことは、魔法を使うものなら分かっているだろう。
それなのに集団に対して有効そうな魔法を唱えると言うことは、他に何かあると考えるべきなのであろう。
「何か探っているようだが。そちらが来ないのであれば此方から行かせてもらおう」
ボクの表情を読み取ったのか、アエーラはそんな事を言ってくる。
「この一撃で終わりだとは思うがな」
アエーラが魔法を放つと、手の先にあった竜巻は動きを変え、尖端をボクの方へと向けてうねるように進んでくる。
あれあれ、ちょっと想像と違うじゃないのー。
竜巻が砂ぼこりを撒き散らしながら洞窟の中を動き回るのかと思ったんだけど……
これじゃあまるで大きな風の蛇みたい。
一応は動きを見て避けてはいるが、当たり前のようにボクの事を追尾してくる。
轟々とした音を立てながらボクとの間にある岩は砕き、散乱していた死体を塵の様にバラバラにしていた。
【フム、確かに威力は先程よりも高い、追尾性能も悪くない……だがこれだけなのか?】
うーん……? 十分な威力の魔法だと思うけど……
クロにしてみれば大したことが無い魔法なの?
『どうやらそれだけではないようですね。退路が塞がれていきます』
シロの言葉に周りを見ると、動き回る風の蛇はボクを追いかけながら尾を引くように、周囲をだんだんと囲んでいる。
【成る程、こういう場所では不可避の一撃と言うわけか】
ちょっと……そんな冷静に言われましても……
不可避ってことはボクが魔法を喰らうってことですよね?
「理解できたようだな。その風蛇≪フウジャ≫は対象を囲いながらに襲い掛かり、最後には対象を中心に圧縮して何倍もの威力になってその身を喰らい尽くすだろう」
相当に自信があるのか、実に詳しく魔法について説明してくる。
つまりは発動してしまえば手遅れ、対処できるものならば対処してみろという事なのだろう。
さてさて、どうしたものか。
このまま逃げていれば、逆に威力の増した魔法に対応しなければいけないわけで。
『まあ魔法はどうでもよいのですが、相手をどう降参させるか、そこが難しいですね』
うわっ……シロさん何気にひどいこと言ってますよ?
いまボクに襲い掛かろうとしている魔法をどうでもいいって……
【なかなかに工夫された面白い魔法ではあるのだがな。キュドという魔法使いであれば良い勝負ができたであろう】
……キュドさんはかなりの実力者だと思うわけで。
そのキュドさんといい勝負ができるのであれば、相当な実力者ってことだと思うのですが……
【大体の実力は把握できた。後は勝手にするが良い】
ウハー! でました銀鈴ばりのワガママ!
面白いと思うことにしか反応しないんですから……
しかし、シロさんの言うことももっともである。
というのも、ボクとしては命を奪うまでは考えていないので、どうにか降参させなければいけないわけである。
まあ! とりあえずは目前に迫っている、この魔法を対処してから考えよう。
既に周囲は風蛇の尾に囲まれ、ほとんど逃げる場所が無くなっている。
恐らくは圧縮の一歩手前。風蛇は上方から真下にいるボクに向け、一直線に降り注ごうとしていた。
ボクは右手を上に向け、風蛇を対象とした≪ターゲットデリジョン≫を唱える。発動の言葉と共に、空間の歪んだ球が風蛇の頭へ向けて一直線に放たれる。
≪ターゲットデリジョン≫が触れたとたん、風蛇は上空にてピタリと動きを止める。
しかし、そう見えるだけであって実際には違う。
突き進んでいる風の魔法を《ターゲットデリジョン》が飲み込むように消し去り、次第に胴体部分へと侵食し始める。
胴体を消し、そして尾の部分まで到達し、風蛇は完全に消滅する。
先ほどまで轟いていた音は無く、まさに嵐の後の静けさと言った状態である。
アエーラは今までの冷静な様子とは違い、流石に目を見開いて驚き、言葉が無くしている。
チラリと通路の方を見ると、銀鈴とキュドが応援しているような素振りが見える。
「今じゃ!止めをさすのじゃ!」
「流石ポコ様ですな!」
ガロウは伏せた様子でこちらを伺い、赤雷は腕を組んで冷静にこちらを見ているようであった。
ボクはアエーラの方に向き直り言葉をかける。
「まだ続けますか?」
ボクの問いには答えず、暫しの沈黙が訪れる。
「……いま何をしたのだ?」
「消しました」
「消した……?」
その答えに表情が固まり、暫しの沈黙が続く。
遠くから聞こえてくる「どうじゃ! ポコは凄いであろう!」と言う銀鈴の声がよく響く。
「もし……私の風蛇がオマエに辿り着いたらどうなっていた?」
「その場合でもボクの周囲を取り巻く魔法で風蛇が消えていたと思います」
アエーラは銀鈴の方を向いて口を開く。
「……そこの女の鬼人の言うことに間違いはなかったようだな。私は随分と傲っていたようだ」
目を閉じ、ボクの方を向き直すと、バサリと翼を羽ばたかせて下に降りてくる。
「私の敗けだ。好きにするが言い」
アエーラは膝をつき、頭を下げてそう言い放った。
次回は更に奥へと~




