パーティ
少し短めですが、きりがよかったのでダンジョンへ入る手前まででっ
ガロウと別れてから3日目。
約束の日の出を迎えるところである。
大量の荷物(ほぼ食料)を背負って、村の出口から少し離れたところでガロウを待っていた。
冬の山の朝方だけあり、辺りは靄がかかりヒンヤリとして空気が漂い、辺りには人の姿は見られない。
動物の気配が少なく、空を見上げても数羽の鳥の姿が見られる程度である。
寒さから逃げるようにコートに包まって待っていると、茂みの方からガサガサと葉をかき分けて進んでくる音が聞こえてくる。
「ガロウ……?」
音に反応するように小さく名を呼ぶと、茂みの中から大きな狼の姿が現れる。
「ポコ様、お待たせして申し訳ございません……でした……?」
大量の荷物を背負うボクの方を見て、語尾が少し小さく疑問形へと変わる。
「その荷物はどうなされたのですか?」
「えーっと、少々事情が変わりまして、ダンジョンの探索に行こうかと」
ガロウはなるほどと頷いていた。
「ダンジョンというとアルドの洞窟を探索に行くわけですね」
「そこで少し? いや結構大変なお願いがあるのだけど……」
最後まで言う前にガロウが口を開く。
「もちろん付き従わせていただきます」
これは有難い!
お願いしなくてはいけないと思っていたけど助かりますね。
「ありがとう!」
そう言うとガロウは大きく尻尾を振っていた。
「じゃあこのまま向かおうと思うんだけど大丈夫かな?」
「ええ、ワタシの方は……!」
ガロウがそう返事を言いかけた直後、突如周りを見回しながら眉間と鼻にシワを寄せグルルと唸り声をあげていた。
「ガロウ? どうしたの?」
「この匂いは……」
そう言うとガロウは上空を見上げて凝視しているかのようだ。
ボクもその視線の方向を見るが特に変わったものは見られない。先程と同じく鳥が上空を舞っているくらいだ。
鳥……?
いやいや、まさかねぇ……
ふと湧いた思いを拭い去るかのように頭を振る。
再度上空を見上げると先ほど見えていた鳥が、少しづつ大きくなり、こちらに向かっているように思える。
『ポコ、諦めましょう。そのまさかのようです』
シロさんもやっぱりそう思いますか。
でも諦めましょうって……
ピィー! と言った鳴き声と共に、突風で砂埃をまき散らしながら風鷲のフウラがボクたちの前に降り立つ。
そして、その背中からは3人が降りてくる。
アレ……
なんか予想より一人多くないですか……?
二人はもちろん銀鈴と赤雷である。
セントリアにいたときの変装は辞めており、東の国の服装に戻っていた。
そしてもう一人はと言うと……
真っ黒なとんがり帽子にローブ、長い眉毛で目が隠れた老人。
闘神祭に出場していたキュド・マイオールである。
「ポコじゃ! ポコがおったぞ!」
「オオオ、ポコ様……ワーウルフを従えるその姿……感服いたします」
銀鈴はボクの方に嬉しそうに駆け寄って来たかと思うと、両肩を掴んでくる。
「怒ってないかえ? 大丈夫かえ?」
何故だか分からないが、心配そうに話しかけてくる。
マイオールは膝をついてボクに対して手を合わせて拝んでいるし、赤雷は何故か疲弊しきった様子だ。
ガロウは鬼人達に対して今だにシワを寄せ、グルグルと唸っている状態である。
うん、何だか混沌としておりますが、取りあえずみんなには落ち着いてもらおう。
この状態を整理するためにも何があったのか説明してもらう。
ことの発端は試合で赤雷が負けたこと。
赤雷は銀鈴に試合に負けたことはもちろん、ボクが旅立ってしまったことをかなり怒られたらしい。
負けたことはともかく、何でボクが旅立って赤雷が怒られることになるのかと思ったのだけど……
銀鈴の中では、ボクと赤雷が対戦すると言う約束を守れなかった事でボクが怒り、旅立ったと考えたそうだ。
赤雷曰く「お主が負けて約束を守れなかったのが悪いのじゃ!」と怒られたそうである。
もちろんロイズ達から本当の理由も聞いたし、八百長事件の話も噂になったいたが、銀鈴は「そんな事は二の次じゃ!」と聞く耳をもってくれなかったとのこと……
ご愁傷さまである……
その後、銀鈴は当たり前のごとくボクを追いかけると言いだし、赤雷は王都で待てば会えると伝えたが……
早く合流したい銀鈴は「そんなに待っていられん!何とかせぬか!」と更に怒られたそうだ。
そこで困った赤雷がマイオールに聞きに行ったらしい。
ちょっと待て。
何でそこでマイオールが出てくるのか?
そう思ったのだが……
試合中、マイオールは「ポコ様に認めてもらう」と何度も口にしていたらしく、赤雷は試合後にその事について話を聞いたそうだ。
マイオールは、赤雷がボクと面識があると知ると「お側に置いてもらう」「学園の近くに住まう許可は頂いた」などと喜んで話してくれたそうである。
そんな訳で、どのみち学園に行くのならばボクが通りそうな道を案内してもらえないかとマイオールに頼んだところ、快く承諾してくれたそうだ。
そして何故赤雷がボロボロなのかであるが……
ボクが見つかるまでの間、赤雷は事あるごとに銀鈴にポカポカと殴られ続けていたそうだ。
だいぶ疲れ切った顔をしており、ボクが見つかり心底安堵の表情を見せていた。
因みに闘神祭の結果であるが、優勝はマイオールが久々に返り咲いたそうだ。
準優勝にザウス・バーミンガム選手、ベスト4にナーバス・ハワード選手と辞退してはいるがボクが入っているらしい。
そんな人に様付けで呼ばれるのも何だか心苦しいものである。
ガロウには詳しい事情を話して取りあえず落ち着いてもらった。
ある程度の事情はもともと把握していたようなのだが、森であった事はそう易々と水に流せるないようである。
「ポコ様が言うのであれば」とシブシブ納得してもらった感じだ。
うーむ、もう少し早くダンジョンに向かえれば出合うことは無かったのかと……
「それにしても良く見付けましたね、上空からじゃ人の判断なんてつかないでしょうに」
ふと思ったことをボクが口にすると、それに対して銀鈴がフウラを指し示して答える。
「こやつがすぐに反応しての、しかも何やら次期主候補のポコ様を見間違えるわけがないなどと言いおる」
扇子を口元に当て、少し首を傾げるようにそう言っていた。
アラヤダっ!
そんな事言ったのこの子は!
「まあポコが妾の元に来て、ゆくゆくは自分の主になると言う事ではないかのう?」
小さくウンウンと頷いて、フラウの頭を撫でていた。
そう言う解釈になりましたか。
まあ下手にこの間の事を突っ込まれても厄介だし、フウラもその辺は話していない様子なので黙ったままにしておこう。
フウラの方を見るとお辞儀をするかのように嘴を下げた後、先ほどの銀鈴の話に付け加えるかのように話し始める。
「それにです、ポコ様。人狼と共に行動するような人物はそうはおりません」
「そりゃそうですね」
思わず納得の言葉が口から洩れてしまった。
上空から見て大きな狼と人が一緒にいたら、さぞかし目立つだろう。しかし、そうなると止まっていようが移動中であろうが関係なかったことになる。
ダンジョン内であれば見つからなかったかもしれないけど、ギルド出張所でボクのことを訪ねていたら分かっていたかもしれない。マイオール辺りなら、その辺を思い付いてもおかしくはない。
結局のところ見つかるべくして見つかったんじゃないかと思えた。
さて、状況の整理はついたわけですが。
なんともタイミング悪いと言うのか、それとも良いというのか……
赤雷がボクの背負ったリュックサックを見て不思議そうな表情を見せる。
「してポコよ。そんな大荷物を持ってどこに向かうつもりなのだ」
「えーっとまあ、少し予定が変わりましてダンジョンの探索に行こうかと……」
「この辺でダンジョンと言いますと、アルドの洞窟ですかな? 懐かしいですな」
「懐かしいって、マイオールさんは行ったことあるんですか?」
「マイオールさんなどと止めてください、キュドで結構ですじゃ。アルドの洞窟なら大昔ではありますが行ったことはありますぞ」
少し上を向いて昔を思い出しているかのような素振りをみせていたが、ふと何か思い付いたかのようにバッとボクの方に顔を向る。
チラリと見えた片側の目が見開いている様に思える。
「ポコ様があのような場所に行くとなると……まさか……完全に攻略なされるおつもりですか!」
両手をボクに向けてワナワナとさせ、膝をついて言葉を続ける。
「その偉業……是非とも共に行動することを許しては頂けませんでしょうか……」
「ちょ、ちょっとキュドさん、そんな大層なものじゃないですって……」
「ホホウ、ダンジョン攻略とな? それは面白そうじゃのう」
興奮して先走るキュドを落ち着かせようとしたのだが、時既に遅し。銀鈴まで興味津々と言った状態どある。
「いや、ちょっと落ち着いて……」
「赤雷よ、妾達もポコと共にダンジョンへと向かうぞえ? 何か問題はあるかや?」
「いいえ姫様、我々には何も問題はありません」
赤雷さん……
「我々には」と付けてるあたりで、あなたの考えが伝わってきそうです。
我々にはなんの問題はない、もし問題があるとしたらポコの方じゃないだろうかと……
しかし、この言い方であれば銀鈴は特に気にしない。ポコは察して諦めるんじゃないか、と。
赤雷の方を見ると目があったが、気まずそうに反らされてしまう。
くっ……!
【パーティでの攻略か……まあそれでもいいのではないか?】
アラヤダ、クロさん。
銀鈴に対して諦めるのが早くなったんじゃありません?
『パーティでの行動と言うのも勉強になると思いますし……それに彼らの中では既に決定事項のようですよ?』
銀鈴は「準備には何が必要なのじゃ?」と赤雷と話しているし、キュドは「ちょっと食料を調達してきますじゃ」なんて話している。
これは今さら何をいっても無駄な感じしかしない……
ガロウは鬼人と共に行動するのはあまり好ましくなさそうであったが、この状況を察してボクの意思に従うと言ってくれていた。
まあダンジョンに行ければそれでよかったわけで、人が多ければそれ探索も早くなるだろうし、別に構わないのかな?
「……では準備の時間が必要だと思いますので、ダンジョンの入り口で集合と言うことで良いですかね?」
「うむ!」
「わかりましたじゃ!」
キュドは村に向かい、銀鈴と赤雷も人へと姿を変えて村へ準備に向かった。
ボクはガロウに乗せてもらい、先にダンジョンへと向かう事になった。
ダンジョンへと向かう最中、ガロウの背でいろいろと考える。
あの二人とキュドが良く上手くやっているなぁと思うのだが……
『試合とは言え、赤雷に勝利する実力を見せたのですから、ある程度認めているのだと思いますよ』
お互いに実力を認め合ったってところか。
キュドは赤雷に勝って、優勝までしているようだし。
銀鈴はどうなんだろう? 何考えているか良くわからないけど。
『銀鈴の思考は良くわかりませんが、お互いポコのことで意気投合しているところはありそうですね』
【なんだか面倒くさいやつらが合流したものだ】
まあ仲良くしてくれることはいいことだと思う。
下手にボクを挟んで仲が悪い方が面倒な訳だし……
『仲がどうあれパーティでの行動をとるのであれば、仲間の力を把握したうえで行動を考えなければいきませんよ?』
【ウム、統率の取れていないパーティなど個に劣るからな】
なるほど、確かにそれはそうですよね。
えー……というわけで今回のパーティのメンバーを考えてみると……
ガロウはボクに付き添ってもらっているので進んで戦闘に出てもらおうとは思わないけど、あえて例えるなら動きの速い格闘家さんみたいなものかな?
赤雷は戦士に近い前衛と言った感じだと思うし、キュドは完全に魔法攻撃に特化した後衛で間違いなさそうだ。
ボクも魔法しか取り柄が無いけど、攻撃や治癒、補助の系統として中衛的な存在として考えていいんじゃないかと思う。
そうなるとバランスはソコソコ良さそうに思えるけど。
え? 銀鈴はどうしたのかって?
……銀鈴は、そのなんだ……何をするかわからないし……
ああ! パーティの最終兵器的な!
いやまあ、まじめな話、魔法の使い手でいいんと思うけど……魅了のような状態異常系の魔法を使うことぐらいしかわからない。
こういう事って本人に聞いても答えてくれることなのかな?
『どんな魔法を得意とするかは本人のファルナの性質を話すようなものです。銀鈴が気にするとは思えませんが、人によっては好ましく思わない人もいるかと思います。』
フムフム? ファルナの性質が分かったからって何か問題になるような事が有るの?
『ファルナの性質と言うのは魂の性質です。本人の性格や身体にも影響を与えていますし、前世の情報とも言えます。』
ほーほー! なるほどー。
確かにファルナを受けて身体が育っているのであれば、少なからず影響はでるのかもしれないね。
それにしても前世の情報とは考えたこともなかったな。
『闇の性質が強いファルナを持つものは悪魔や魔族の生まれ変わりと虐げられた事もあり、光の性質が強いものは天使や精霊の生まれ変わりだと崇められる事もありました』
あー……迫害や差別に繋がるってことか……
気にしない人は気にしないだろうけど、ファルナの性質次第では気にする人もいるだろうね。
それにしても前世と言われても実感はわかないな……
人によっては眉唾ものだと思っている人もいるんじゃない?
ボクも実際は本当かどうかの判断なんてつかないし。
『実際に前世の記憶を持つものもおります。生まれて直ぐの段階で記憶があるものは現世での性格に色濃く反映することになります』
へー、前世の記憶を持ってる場合があるのか。
そりゃ、赤ちゃんが突然にそんな事言い出したら信じないわけにはいかないよね。
【まあ稀な出来事だがな、そんな場合は大抵が格の高い精霊や悪魔と呼ばれる存在だったわけだ】
『そして精霊や天使の生まれ変わりだと言っている場合では光の性質が強いファルナを持つことが多かった訳です』
なるほど……
ファルナの性質による前世の話はあながち間違いではないってことか……
まあ記憶がなければあくまでも前世の話なんだけど。
学園にいけばファルナの質が分かると聞いたけど、その辺は大丈夫なのかな?
『生まれや土地柄、宗教などの考え方も反映されると思いますので、難しいところですね』
う、うーむ……
いじめとか無ければいいけど……
【まあ話がそれたが、現状では魔方陣が主流らしいしな。どんな魔法を好んでいるかは性質と関係無くなってるかもしれんぞ】
あー、そう言えば二人は魔方陣が主流になってることを知らなかったんだっけ。
確かに真名を覚える必要のない魔方陣であるなら、性質と関係無く好みで使ってる人もいるかもしれないね。
銀鈴とか特にあり得そうでもある。
まあ散々考えたけど、銀鈴が予想通りの行動をしてくれるとは思わないし……別に聞かなくてもいいけどね!
ファルナの性質については大変勉強になりました。
そうこうしている内に、草原を抜け、木々の間を抜けて、アルドの洞窟へとたどり着く。
到着してみると想像していた洞窟とは全然違っていた。
山の壁に大きな横穴が空いている様を想像していたのだが、実際には木々が多い場所の地面が盛り上がって、大きく口を開いた楕円形の入り口である。
横穴というよりは斜め下に向かって穴が空いており、穴の上にある木々の根で固められているように見え、まるで地面が裂けてできたようだ。
ある程度名前が知れているからか、入口に「アルドの洞窟」という看板が立っている。
なんだか観光名所みたいで変な感じがするけど。
まだ銀鈴達は到着していないようで、皆が到着するまで待つことにした。
太陽が登り日が射しているが、外はいまだ肌寒い。ガロウの毛皮にくるまれているとかなり温かく、何だか眠くなってしまう。
うとうとと眠気に包まれ、寝ながら皆を待つことにした。
次回はダンジョンの探索になります。




