第三話 アベンジャー基地制圧戦(中編)
――6月13日深夜・アベンジャー基地敷地周辺――
目の前には、明りの消えた小さな敵の基地がある。
正確には、占領された国の元役所だが。
『石田より小隊、出番はまだだが、いつでも撃てるようにしておけよ』
石田軍曹の声が耳元で聞こえた。
これは広域ではなく限定回線で、小隊員12人に聞こえるようになっている。
『こちら草薙、今から支援中隊の砲撃が来るのよね~、楽しみだわ!』
『まったく、お前は本当派手なのが好きだよな』
春奈の声に、石田軍曹が答える。
『派手好きなのは大いに結構だが、身入り過ぎて破片で怪我すんじゃねーぞ?』
『浦田ぁ、アンタってホンット嫌味ったらしいわね。そんなんだから彼女出来ないのよアンタは』
浦田というのは同じ小隊に組み込まれた陸戦歩兵だ。
縁無し眼鏡をかけた皮肉家だが、頭はいいらしい。
「春奈の言う事も最もだが、お前だって彼氏いねぇだろ」
俺は何となく会話に混ざる。
『なッ……そういうアンタはどうなのよっ!?』
「俺は女作る気ねぇもん。めんどくせーし?」
『アハハッ、割り切ってるんだね~黒崎君は。でもこういうのに限って実は一番欲しがってたりしないかな?』
同じ小隊の村山っつー女が混ざってきた。
サバサバとした活発系女で、格闘戦(というか柔道)が異常に強い。
『ねーよ。あんま下んねー事言うと無線封鎖するぞお前だけ』
『無駄話はそこまでだ。そろそろ時間だぞ』
と石田軍曹が言うと同時に、
《HQより作戦部隊へ。全部隊現地到着を確認。只今より作戦を第二段階へ移行する。第六支援中隊は砲撃を開始せよ》
HQから広域無線が送られてきた。
《第六支援中隊了解! 全車両、砲撃開始。目標……基地全域! なるべく建物は外せ! ……てぇぇーー!!》
その無線を合図に、俺達の後方で野戦砲が放たれ、敵基地を砲撃してゆく。
実は、作戦には役所の確保も含まれているので信管は抜いてある。
その為、春奈の期待していた派手な爆発は起こらないが、陽動には十分な成果があったようだ。
「そういえば信管抜かれてたのよねぇ……残念だわ……」
春奈が小声でつぶやいたのを、俺は聞き逃さなかった。
《陽動成功を確認。作戦は第三段階へ移行。全突撃小隊、突撃せよ》
『行くぞ第二突撃小隊ッ!! 続けぇぇッ!!』
『『了解ッ!!』』
俺は突撃銃を握りしめて、軍曹の後に続く!
塀を乗り越え、元役所の敷地内へ侵入すると、丸腰の兵士が数人慌てて走っていた。
『撃て! ただし無力化に限る!』
石田軍曹の無線を聞いて、俺は単発で突撃銃を撃つ。
弾丸は、非武装兵士の足に命中し、兵士はその場に倒れる。
他の兵士も同様だ。
非武装とはいえ、見逃すわけにはいかん。
殺さないだけ良かったと思えよ。
『兵士の捕獲は後続の部隊に任せる! 俺達の任務はエリアB周囲の敵勢力の排除のみだ!』
『『了解!!』』
言いつつ、足を止めずにエリアBの建物付近へ近づく。
遠くの方で轟音と爆炎、そして激しい揺れが響き渡る。
どうやら、他の小隊が燃料庫の爆破に成功したらしい。
《こちら第六分隊! 燃料庫を爆破ッ! 第四、そっちに敵さんが迫ってきてるぜ! 警戒しろッ!》
――ッ!
右から攻撃ッ!?
言ってるそばから来やがった!!
俺達は鋼材を盾にして身をかがめる。
あぶねぇ……もうちょっと身を乗り出してたら撃たれてたかもしれん……。
『こちら浦田。狙撃兵だ! あっちの建物に三人いる! 若田、見えるか?』
浦田は俺達の小隊の中でも屈指の実力を誇る狙撃兵……涼に声をかけた。
『見えます! 任せてくださいッ』
俺の背後にいた涼は“楽勝”の意味の笑顔をわずかに見せると、すぐに狙撃銃を構えた。
軽くスコープを覗き、引き金を引く。
重い狙撃銃の音が3回周囲に響いた時には、既に敵兵は倒れていた。
まったく、たいした腕だ。
訓練校では狙撃の腕はトップだったらしい。
『よし、これで――』
《第二小隊避けろッ! 武装ジープがそっちに!!》
無線が聞こえた瞬間、目の前の鋼材が吹き飛んだ。
「ッ……なんだ!?」
俺は舞う砂煙を腕で防ぎながら突撃銃を構え後退する。
すると、武装ジープが車載機関銃で俺達を狙っているのが見えた。
『狙われてる! 伏せろッ!!』
誰かの声が聞こえたが、言われるまでもねぇ!!
機関銃が火を噴いた。
同時に俺は吹き飛んだ鋼材を盾にして弾丸を防ぐ。
「ちっ……やってくれるぜ』
『どうするよ? 黒崎』
俺の隣にいたのは錦辺っつーおっさんだ。
酒と賭け事が大好きなダメオヤジ。
だが臨機応変で小隊を支える縁の下の力持ちでもある。
「決まってらぁ。狩る!」
『了解ぃ!』
俺達は鋼材から飛び出した。
ちょうど、ジープが右へと通り過ぎながら攻撃してくる。
が、そもそもの精度が悪く、弾はかすりもしない。
あれは……軍用じゃないな。
民間の四輪駆動車に無理やり機関銃と誘導弾を取り付けただけの粗末な兵器だ。
「なら簡単だ!」
俺は突撃銃でタイヤを狙い、引き金を引く。
武装ジープはパンクし、コントロールを失い近くの建物に激突した。
そのジープをかばうようにして、ゲリラ兵士が集まる。
数は8人。
『各員攻撃! WAPが世界最強の軍隊である事を思い知らせろ!』
『『了解ッ!!』』
石田軍曹の声に俺達小隊員12人が威勢よく返す。
『和真、行くよ』
勇希の声だ。
隣にいた。
「おお、カバー頼むぜ!』
攻撃を開始した。
――――
だいたい、基地の六割を制圧した時だった。
《こちらHQ、攻撃部隊応答せよ。座標A-226でアベンジャー所属の武装ヘリ『バンディード』を確認》
作戦本部から警告の無線が来る。
《第一突撃小隊よりHQ。“航空戦力は認めず“とブリーフィングで聞いていたが?》
現地部隊の指揮を執っている沢崎軍曹の声だ。
《恐らく偵察部隊のミスだ。今は目の前の敵に集中せよ》
通信士官はピシャリとと返す。
《ちッ……了解だクソッタレ》
しかしこれは面倒な事になった。
こっちは対空砲の類なんて持ってねーぞ。
バンディードは武装ヘリの中では旧式に入るが、かといって搭載されている機関銃は手に持っているものとは威力がケタ違いだ。
生身に喰らえば砕け散るだろう。
さて……どうするか……。




