第二話 アベンジャー基地制圧戦(前編)
――6月13日深夜・ウクライナ軍輸送ヘリ機内――
そのあと俺達は、戦闘装備に着替え、今は敵の基地まで輸送ヘリで向かっている。
戦場へ向かうヘリは全部で5機。
その中にそれぞれ2個分隊がいる。
が、全て合わせても今出撃したのは9個分隊だけなので、奇数の関係で俺たちが乗っているヘリにいるのは1分隊だけだ。
そのお陰で中は若干スペースの余裕はあるが、それでもこの輸送ヘリ、酷く乗り心地は悪い。
それにしても、密閉空間でこの装備は若干暑い。
薄い茶色の長袖の戦闘服に、防弾チョッキ、半長靴、ヘルメットを装備している。
そりゃもう蒸れる蒸れる。
だが薄着してたら確実に死ぬのでそれはできん。
まあ命には代えられんな。
と、どうでもいい事を考えていると、向かいに座る軍曹が煙草に火をつけようとするのが目に入る。
が、オイルが無くなって付かないようだった。
「くそ……付かねえ……誰かライター持ってないか?」
「あるぜ。ほらよ、石田軍曹」
俺は軍曹に向かってライターを投げた。
「サンキュ」
軍曹はライターを掴み、そう言って煙草に火をつけた。
俺も軍曹からライターを返してもらい、火を付ける。
ふ~、と一息吐きながら周囲の様子をなんとなく見る。
石田軍曹は煙草で一服。
春奈は外の景色をぼーっと眺め、涼は緊張した様子で銃の手入れをしている。
勇希はそわそわした様子でいると、不意に俺と目が合った。
「にしてもさぁ~、この真夜中に出撃だなんて勘弁して欲しいよな。俺の完璧な生活リズムがどうにかなっちまいそうだよ」
おそらく勇希の事だ。
戦闘直前のピリピリした空気が嫌だったんだろう。
「なんだ眠いのか? 眠い時には腕立てをしろ。アドレナリンが分泌されて眠気が覚めるぞ」
筋トレマニア石田軍曹がちょっとズレた提案をする。
「っつーか、それ以前にお前の生活リズムがいつ完璧になったんだよ」
「でも寝坊常習犯には言われたくないセリフよね」
俺の言葉に春奈が即効返す。
「……おい。人の傷口抉るんじゃねぇ春奈。お前はほんっと容赦ねーな」
否定できないのが悔しいところだが。
「そう言えば黒崎先輩、さっきのブリーフィング、遅刻なんて珍しいですね」
と俺に話しかけるのは涼。
「勇希が三割、春奈が七割悪い」
俺はとりあえず身の潔白を証明しておく。
そもそも春奈との無駄な問答で使った時間が惜しい。
「本当ですか? 草薙先輩、しっかりしてくださいよ」
と涼は多少疑いながらもに春奈にそう言ってしまった。
「ちょっとまだ言う? しかも何よ七割って、私が殆ど悪いみたいじゃない」
春奈は不満爆発の声でガタガタと文句を言う。
「分かった分かった。じゃあ特別特価出血大サービスでお前を三割をにしてやる」
「駄目よ! 私はゼロじゃない。 ……と言うよりなんであんたがゼロなのよ。 納得いかないわ!」
「わかったじゃあ勇希八、俺一、お前一。これで手を打とう」
「駄目。なんか投げやりになってるのが気に食わないわ!」
うはぁ、めんどくせぇ。
俺は軍曹にHELPのアイ・コンタクトを送信。
「ったく、二人とも後で仲良くグラウンド三十周追加してやるから、それ以上騒ぐな」
「えぇぇーーー!?」
「えぇぇーーー!?」
……受信には失敗したらしい。
ちなみに余談だが、対峙するテロリストは『アベンジャー』とか言う組織だ。
「復讐」という意味らしいが、なんて言うか、安直と言えば安直だな。
大本にもっと巨大な組織があったのだが、それはとっくにWAPに駆逐されている。
いわば残党狩りなのだが、ウクライナ軍とテロ残党軍は泥沼の戦争が続いているので、それに終止符を打つため俺達WAPが派遣されたというわけだ。
だがその残党グループが無数に根付いてる上連携してる為、ここからはなかなか帰ることが出来ないでいる。
この作戦も、きっと帰るための第一歩につながるはずだ……多分。
――――
「軍曹! まもなくです!」
それからしばらくして、ヘリのパイロットが告げた。
「よし、お前ら! 二度目の攻撃はない! これで決めるぞ!」
石田軍曹が号令をかける。
「「了解!」」
全員が声を合わせて言った。
同時にヘリの扉が開かれ、外の暗黒の景色が解放される。
密閉空間で淀んだ空気が排出され、一気に新鮮な空気が入れ替わった。
が、もうすぐここからいなくなる俺たちには関係ないな。
俺の目の前には石田軍曹とその先の漆黒の空間。
そこから垂れ下がるロープは強風にあおられ、ゆらりゆらりと頼りなく揺れる。
……あんまり強風の日はロープ降下はしたくないんだが。
「よし、降下ッ!」
と軍曹が叫ぶのと同時に、目の前にいた軍曹はロープを伝い、闇に消えていった。
まあ、降下になってしまったもんは仕方ない。
高いところは嫌いではないが、好きにもなれそうにない。
その後ろにいた俺も、そんなことを考えつつロープを握り、スルスルと降下していく。
地面が少しづつ近づき、風に揺られながらもなんとか大地に立った。
何度もロープ降下は体験したが、どうにもこの感覚にはなれない。
気分を引き締め、手にした銃を構える。
周囲を見渡すと、他のヘリ部隊の隊員も降下を完了したようだ。
《第二突撃小隊よりHQ。降下完了》
石田軍曹が広域で無線を入れると同時に、
《第一突撃小隊、降下完了!》
《第三突撃小隊、同じく降下完了しました!》
それぞれの小隊がHQ(前線司令部)へ無線を送る。
《HQ了解。全小隊、作戦通り待機せよ》
HQの通信士官の女性の落ち着いた声が耳に届く。
作戦通り、俺達は周囲の廃墟の建物に紛れるように身を隠した。
時刻は既に真夜中と呼べる時間帯であり、発見を防ぐために明りは全くない。
こんな仕事はさっさと終わらせて、早く帰って寝たいもんだ。




