第4話「女騎士隊、遭遇」
街道から少し離れた丘陵地帯に、剣がぶつかる音と低い掛け声が響いている。モラシック王国の女騎士隊が、魔物の群れと戦っていた。
「隙ありっ!」
モラシック王国で屈指の戦闘力を誇る武闘家、ソニアが素早く地面を蹴り、魔物の側面に飛び込む。華奢な体からは想像できないほどの重い拳が人型の魔物の胴を打ち、魔物はバランスを崩してよろめいた。
「あとは私に任せて」
モラシック王国の騎士隊長、エレナが魔物を切り付け、息の根を止める。そのまま振り返りざまに剣を一閃。後ろから迫っていた魔物も冷静に、確実に切り捨てた。
「はっ、今日の魔物も大したことないな。エレナたちだけで充分だったんじゃないか?」
「ソニア、油断しないで。まだ魔物は残ってる。早く終わらせましょう」
モラシック王国屈指の戦闘力を誇る2人が、魔物たちを蹴散らしていく。やがて、魔物の群れは数を減らし、残った魔物たちも逃げ出していった。
「ふい~、ようやく片付いたな」
「すぐに王国に戻って、任務を終えたことを報告しないと」
エレナの指揮で騎士隊は撤収を始めた。
「最近、今までいなかった黄色いスライムが出るって噂があるらしいけど、知ってる?」
王国へと帰る道中、1人の女騎士が話し始める。
「ああ、聞いた。セイラさんが襲われたとか」
「そんなこと、本当にあるのかしら? スライムごときに苦しめられるようなお方ではないはずですが……」
ソニアはふっと笑い、肩を回す。
「そんなの、出てきたってあたしの敵じゃないよ」
エレナは先頭を歩きながら、短く答える。
「それでも、今まで見たことがない魔物なら、きちんと王女様に報告しないと」
「エレナは固いなぁ~、もっと肩の力を抜かないと」
「王国の民を守ることが、騎士団長の私の仕事ですから」
そう会話を交わしていると、近くの草むらが揺れ、数体の魔物が彼女たちの前に飛び出す。
「おっ、あたしに倒されたいのかな~?」
「みんな、すぐ片付けるわよ!」
エレナの言葉に、他の女騎士たちも武器を構え、魔物たちへと向かっていく。
女騎士たち、そして、ソニアとエレナによって、飛び出してきた魔物たちはあっという間に倒された。
「ふぅ、なんてことなかったな」
「待ってソニア、まだ魔物の気配がする。みなも気を抜くな!」
エレナが団員たちに呼びかけた、その刹那。
「ん、なんだあれ? 見たことない色してるな」
彼女たちの前に、数十体の群れたピスライムが姿を現した。
「あれ、さっき言ってた黄色いスライムじゃないか? 見た感じ、いつものスライムと変わらなさそうだな」
ソニアが肩を回し、戦闘態勢を取る。
「ソニア、何してくるか分からないから、もう少し慎重に……」
エレナが制止するよりも早く、ソニアは地面を蹴りピスライムとの距離を詰める。
「食らえぇっ!」
ソニアの拳が、ピスライムの中心に直撃する。ゼリーのような身体が潰れるように歪んだ、その瞬間。
「っ……!?」
潰れたピスライムの身体から、勢いよく魔力の粒が飛び出す。それはそのまま攻撃したソニアの下腹部へ、吸い込まれるように入っていった。
「……は……? な、なんだこれ……!?」
ソニアの足が止まり、下腹部に、明らかに異常な速度で違和感を覚える。つい先ほどまで何ともなかったのに、一気に「漏れそう、出したい」というところまで尿意が高まっていた。
「急に、トイレ行きたく……っ!?」
魔法耐性が低いソニアには、セイラ以上にピスライムの魔法が効いていた。
「うぁっ……こ、これ、無理かも……っ」
我慢の限界を悟ったソニアは戦列を離れ、物陰へと小走りで向かう。それと入れ替わるように、この騎士隊で最も年下の女騎士がピスライムに切りかかった。ピスライムに刃が当たり、真っ二つになったその身体から、また同じように魔力の粒が散り、女騎士の下腹部に吸い込まれる。
「きゃあっ!? ……っ、なに、これ……!?」
脚が止まる女騎士に、別のピスライムが追撃する。結果、彼女の尿意は急加速し、一気に限界寸前になってしまう。
彼女は剣を持ったまま、股を押さえてその場にしゃがみ込んだ。
「だめっ……出るっ……おしっこ、出ちゃう……っ!」
短い悲鳴の後、股を押さえる手の指の間から、熱い液体が溢れ出す。
「ねえ、あの子……」
「お漏らししちゃってる……?」
「もしかして、あのスライムに襲われて……」
戦場の中心で醜態を晒す仲間の姿に、女騎士たちの間に動揺が広がる。
「何をしているっ! 今は目の前の魔物に集中しろ!」
指揮を執るエレナの背後に、ピスライムが素早く回り込む。しかし、さすがは王国一の女騎士といったところか、エレナは背後から飛びかかるピスライムを、振り向きざまに一閃。
「……っ」
もちろんエレナにも、真っ二つになったピスライムから飛び出した魔力が吸い込まれ、尿意が増す。
だが、魔力耐性が高く、また膀胱も大きく強いエレナにとって、ピスライムの攻撃はわずかに尿意を感じさせる程度に過ぎなかった。
「無暗に近づくな、あれは物理で倒すと反撃されるぞ!」
エレナは呼吸を整え、再び指揮を執る。
「無理に前に出るな! 私に任せて下がっていろ!」
エレナは自ら前に出る。残った数体のピスライムに向けて、素早く切りかかる。強い精神力で下腹部の違和感を無視しながら、ピスライムの数を減らしていく。
「さっきはよくも……!」
物陰で用を済ませ戻ってきたソニアが、エレナに加勢する。先ほどとは違い、膀胱を空にしたソニアであれば、数体のピスライムの反撃を受けきることは可能だった。
「ソニア、無理はしないで」
「そんな、無理なんて……っ……」
とはいえ、空にしたはずの膀胱がピスライムの魔法でほとんど満たされる程度に、ソニアは反撃を受けてしまっている。ピスライムに向かっていく1歩が出せず、片手で股を押さえながら飛びかかってくるピスライムを弾き返すことしかできていない。
しかし、ソニアとエレナによってピスライムの群れは数を減らし、ついにエレナの剣で最後の1体が仕留められた。
「ようやく、全部片付いた……っ」
ソニアが呟く。だが、彼女たちに勝ったという実感はない。
「……いやっ……嫌ぁぁぁぁぁっ!!」
漏らしてしまった女騎士が、恥ずかしさと情けなさから女騎士隊の列を外れて逃げるように走って行ってしまった。
静かになった戦場。そこには、ピスライムの亡骸と逃げ去っていった女騎士のおしっこで湿った地面だけが残っていた。
「……とりあえず、一度宿屋で体勢を立て直すぞ!」
近くの宿屋で、女騎士たちは装備を緩め、息を整えている。トイレにはピスライムの攻撃を受けた女騎士たちが列を作っていた。
「まさか一発もらっただけであんなことになるとはね……」
手を拭きながら、ソニアが独り言のように呟く。エレナはトイレ待ちの列の最後尾に並んでいた。漏れそうというわけではないが、明確に尿意が高まっている。
「あれはただの変種じゃない。あのスライムの魔法は、私たちの尿意を加速させている」
「……あたしや皆がおしっこしたくなったのも、あのスライムの魔法のせいってことか……」
「少なくとも、今までの魔物とは違う」
エレナは静かに言う。
「これは王女様に報告する。対策を講じないと、同じことの繰り返しになってしまう」
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魔王城、玉座の間。
「ふふっ、物理攻撃が主体の女騎士隊には、効果抜群でしたわね」
リリアが微笑む。
「ああ、特にあの格闘家にはよく効いていた、だが……」
「あの先頭にいた女騎士のことでしょうか?」
「ピスライムの魔法は効いていた。しかし、あのエレナという女騎士は耐えていた。脅威になるかもしれないな……」
ディリュージアは腕を組む。
「それでも、女騎士隊を混乱に陥れることはできていましたわ。私たちの計画は、確実に進んでいると言えます」
「ああ、そうだな」
ピスライムの、ひいては魔王軍の脅威は、確実に広がり始めていた。




